2006年07月02日09時48分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

北京で初の剣道段級位審査会開催 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

  中国でも剣道を熱心に行う中国人が増えている。以前は段級位を取得するためには、香港で審査を受けないといけなかったが、6月18日、初めて北京で段級位審査会が開催された。筆者はその試験に立ち会う機会に恵まれた。中国の剣道事情を紹介したい。 
 
●北京の剣道愛好家は約800人 
 
 6月18日に、北京市内の体育館で行われた段級位審査会では、85名が受け(内77名が北京、8名が北京以外)、57名(内10名が女性)が級段を取得した(一級2名、初段38名、二段11名、三段6名)。 
 今回の段級位審査会には、武安義光・全日本剣道連盟会長、国際剣道連盟会長が特別参加され、範士八段二名、教士八段一名、教士七段一名から成る豪華な指導団が、そして北京剣道同好会の皆さんが参加した。6月17日には剣道講習会、合同稽古も行われた。 
 段級位審査会開会式で筆者からは、「剣道を通じて日中の友情と相互理解を深めて欲しい」と挨拶させてもらった。この交流実現のために多大な協力を頂いた全日本剣道連盟、国際交流基金に深く感謝したい。 
 
 中国で剣道が普及し始めたのは10年前くらい前からであり、現在は北京では10に近い団体で、800名程度の愛好家がいるそうである(有段者はこれまでは約120名だが、6月18日の審査会を経て、約160名に増えたことになる)。中国全体では、上海、成都、大連、広州などでも愛好家がおり、数千名規模になるそうである。 
 日本大使館は、5月に青海省の青海大学で日本文化を紹介する事業を実施したが、北京の日本人剣道愛好家達と相談して、大学構内で剣道デモンストレーションを行った。実物の剣道を初めて見た中国人学生達からは、「礼儀を重視している」「気合いが凄い」といった感想が聞かれたそうである。 
 
●ロシアと中国での剣道の普及の違い 
 
 筆者はロシアの日本大使館でも広報文化担当を務めたことがあり(1997〜2000年)、ロシアでも、時には全日本剣道連盟の代表者をお迎えしたりして、ロシア人剣道愛好家達を支援していたが、ロシアと中国との違いは以下の通りがある。 
(1)中国の剣道は、中国人留学生が日本に行き、そこで剣道を知ったり、あるいは香港、台湾、韓国を通じて剣道が中国大陸に入ってきて、普及し始めたものである。その意味で、日中の人の往き来が盛んになるにつれて、草の根レベルで広まってきたものである。ロシアについては、人の往き来が日本との間でまだ少ない。ロシアの一部の愛好家が剣道を知って、モスクワ、ノヴォシビルスクなどで始めたものである。 
(2)組織面では、ロシアでは、モスクワに本拠を置くロシア剣道連盟が影響力が大きく、国際剣道連盟に参加しているのもこの組織であった。ロシアは既に国際剣道大会に代表を送っている。 
 他方、中国では既に各地で剣道愛好家達が様々なグループを作っているが、国際剣道連盟には参加しておらず、国際剣道大会にも代表を送っていない。草の根レベルで広まっている中国の剣道愛好家達をうまくまとめ、国際剣道連盟への加盟を実現することが、早急に取り組むべき課題である。 
(3)ソ連時代、剣道は、「日本軍国主義の象徴」という見方がされた面もあり、ソ連邦が崩壊した後になって、ロシアで剣道をやりやすくなった面がある。中国においては、少なくとも現在はそのような問題は無いようであり、純粋なスポーツとして楽しまれているようである。 
(4)日本人剣道愛好家が指導にあたることが不可欠であるが、在留日本人が北京では数千人、上海では数万人おり、その中に剣道愛好家も多数おり、毎週末の練習で指導にあたっている。モスクワでは、そもそも在留日本人が千人程度であり、剣道愛好家の人数は必ずしも多くはなく、指導を行うことは、日本人愛好家にとっても大変であった。北京では幸い、熱心な日本人愛好家が多数支援してくれる体制ができている。 
(5)剣道普及のためには防具が必要であるが、外国ではどうやって入手するか、費用をどうするかが悩みである。ロシアでは国内で製造することも試みていたが、うまくいかなかった。中国ではそれなりに使えるものが製造されているようである。安心して使える防具が廉価に入手できれば、剣道普及にもちろん有益である。(つづく) 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない) 


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