2006年07月24日10時20分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

日本語弁論大会の中国式勝利の「秘訣」 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

●中国各地の大学で行われる日本語弁論大会 
 
  中国の高等教育機関(大学等)で日本語を学習している中国人は20万人を超えると言われる。(高校生以下と社会人を含めた、中国全体での日本語学習者は39万人を超える・・・2003年国際交流基金調査)。中国においては、日本語は英語に次いで人気のある外国語である。日本語学習者は、東北地方の高校生以下で減少が見られるものの、全国的には日本語学習者人数は増えている。ここ数年でも日本語専門学科を設置した大学は多数ある。また第二外国語として学ぶ大学生の人数も非常に多い。上海周辺では日本語を学ぶ社会人も増えている。 
 国際交流基金が毎年12月に行っている日本語能力検定試験は、全世界で35万1017人が申し込みをしたが、その内中国で受験した人数は12万6362人である(2005年12月)。 
 
 各地の大学では、日本語学習の一環として、弁論大会が行われる。海外青年協力隊の日本人の若者数十名が、中国各地に日本語教師として派遣されているが、日本語弁論大会の組織のために大変努力してくれる。筆者も、湖南省、貴州省で行われた日本語弁論大会で、審査員の一人として参加する機会があった。それぞれの省の複数の大学での予選を勝ち抜いてきた大学生による、力のこもったスピーチを聞くことができた。 
 公害で親戚が病気になったことを取り上げて、公害問題への取り組みの必要性を訴えたスピーチや、日本語学習をしている本人が周囲から「なぜ日本語なんかを勉強しているのか」との問いかけを受けながらも、日本のことをもっと知って、日本との友好増進に努めたいといったスピーチには感動させられた。日本語弁論大会では、日本語能力のみならず、聴衆を感動させられるか否かも問われているようである。 
 
 日本の企業がスポンサーとなって、大連、広西などで「C社杯」、「O社杯」といった冠付きの日本語弁論大会も開催されている。昨年末には、陝西省西安市で経済広報センター等が協力して、日本語弁論大会が行われた。審査員として参加した日本の企業・経済関係者は、「中国の若者の日本語スピーチを聴いてとても感動した」との感想を述べている。 
 日本語弁論大会は、中国に進出している日本企業が大学と接点を持つ重要な機会である。湖南省に進出している日本企業関係者に日本語弁論大会に顔を出して頂きたいとお願いしたところ、「ふだん大学とは付き合いがあまり無いので、日本語弁論大会を通じて、付き合いができて良かった」と話してくれた。日本人に審査員としての参加も大学側は期待している。スポンサーとなってくれれば、更に有りがたい。多くの日本企業が、日本語弁論大会への支援していることは本当に素晴らしく、ありがたいことだと考える。 
 
●全国規模の弁論大会 
 
 これまで中国で全国規模の日本語弁論大会が開催されたことは無かったようだが、最近二つの全国規模の弁論大会が開催された。 
 一つは昨年9月29日に天津市で決勝選が開催された第一回「日中友好の声」日本語弁論大会である(中国日本語教学研究会、天津外国語大学、中国国際ラジオ局、華夏未来少年児童文学芸術基金会、東方通信社等による開催)。 
 もう一つは、本年7月21日に東京大手町で決勝戦が開催された第一回「全中国選抜中国日本語スピーチコンテスト」である(中国教育国際交流協会、日本経済新聞社、日本華人教授会議等による開催)。予選には約200の大学から約2800名の大学生・大学院生が参加した由である。 
 
 この二つの日本語弁論大会両方で優勝したのは、大連外国語大学3年生の黄明淑さんである。つまり彼女は全国日本語弁論大会初代王者であり「二冠王」という訳である。 
 大連外国語大学は、日本語専攻だけでも毎年約500名もの学生を受け入れており、第二外国語として日本語を学んでいる学生はそれ以外に毎学年数百人いるという。おそらく世界最大の日本語専攻学部・日本語学習学生を抱える4年生大学であろう。同大学が「量」だけではなく「質」の面でも高い水準を示したことについてお祝いしたい。 
 
●スピーチ〜日中の違い 
 
 上記二つの全国レベルの日本語弁論大会で共に優勝した黄女史が日本の決勝戦に行く前の壮行会(於北京、7月19日)の席上で、筆者に日本語弁論大会を勝ち抜く「秘訣」を少し明かしてくれた。日本語の能力に加えて、おそらく沢山の「秘訣」を持っているのだろうが、彼女がくれたヒントを筆者なりに理解して敷衍すると以下のようになる。 
(1)中国語のスピーチでは、聴衆に同意・拍手を促す独特の節回しがあるが、日本語のスピーチではそれは必要無い。日本語では妙な節回しをつけると不自然に聞こえる。 
(2)中国では、例えば日本と中国との間の関係を「一衣帯水の隣国で・・・」と形容する。しかし日本語スピーチではそのような決まり文句は陳腐に響くので使わない。 
(3)中国語のスピーチのセットパターンは、基本的主張・論理を述べ、その主張を補強するために、偉人の発言などを引用する。つまり「論理+権威付け」の組み合わせである。他方、日本語では個人的エピソードを盛り込むことで、話の真実味、説得力を補強する。つまり「論理+情感」の組み合わせである。 
 
 筆者も中国人向けに話をする際に留意すべき点について、中国人から助言してもらったことがあるが、確かに「論理+権威付け」の組み合わせを勧められた。中国人に対してどう話しかけるのが説得的に響くのか、研究が必要である。(つづく) 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない) 


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