2007年01月15日12時34分掲載  無料記事
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日中・広報文化交流最前線

草原の若者が日本に寄せる大きな期待 井出敬二(在中国日本大使館広報文化センター長)

  昨年12月末、筆者は、内蒙古自治区フフホト市を訪問し、内蒙古での日本語教育事情を視察し、関係者と意見交換し、日本語を勉強する学生・若者達と交流する機会があった。そこで、草原から来た若者達が日本に寄せる大きな期待を感じた。以下、内蒙古での日本語教育事情を紹介したい。 
 
●内蒙古随一の高等教育機関 〜内蒙古大学〜 
 
 内蒙古大学では、校長(内蒙古自治区人民政府の副主席を兼ねる)、副校長、日本語ロシア語学部主任らと面談し、同大学での日本語教育をどのように振興していくべきか、そして日本大使館からどのような協力をしたら良いかについて意見交換した。 
 
 内蒙古大学にとっても、郷土の発展のための人材養成が最大の課題であるが、その中で日本語教育を非常に重視しているとのことであった。同大学の日本語教育は、全中国でも優秀との定評がある。武漢大学の調査によれば、全中国の200を超える日本語学部、学科の中で、内蒙古大学はベスト10に位置づけられている。(中国の大学では、順位付けが流行っている。) 
 今、中国の大学生の就職状況は厳しく、内蒙古の関係者は、「まあまあの所に就職できる新卒学生は、半分から三分の二位ではないか」と述べていた。内蒙古大学の日本語専攻卒業生にとっては、内蒙古自治区内には日本企業が少なく、十分な就職先が無いので、上海、青島などに就職しており、結果としては就職率は非常に良いとのことであった。 
 
 内蒙古大学での外国語教育の規模(専攻学生数)は、英語、日本語の順である。(日本語学科学生数は一学年約90名×4年=約360名)。本年(2007年)秋より英語と日本語の専攻規模を同格にする。即ち、現在、日本語専門は毎年3クラス募集しているが、2007年秋からは4クラスに増やし、英語と同じクラス数になる。英語重視が圧倒的な中国において、日本語教育が英語と同格の扱いというのは、珍しいと言える。 
 日本語を指導する教員数も近年充実してきており、中国人日本語教師16名(内、モンゴル族10名)及び日本人教師(JICA協力隊員含め)6名の合計22名が働いているとのことであった。 
 大学では中国語を使って日本語教育を行っているが、草原から来た若者は、高校までモンゴル語中心の教育を受けてきたので、大学でもモンゴル語を使って日本語教育を一部行っているとのことであった。 
 
 大学構内には、ジンギスカンの銅像もあり、彼は内蒙古の人達にとっての誇りとのことであった。 
 
●内蒙古最大の民間日本語学校〜内蒙古智力引進外語専修学院〜 
 
 この学院は、戦前、日本の教育を受けたモンゴル族の人達が中心になって、1980年代に設立された。すなわち、1978年の改革開放政策の開始以降、日本への研修者・留学生を派遣するために1983年に創設された(85年に正式認可された)私立日本語学校である。「智力引進」という校名は、?小平の演説の中の一句から取られた由。 
 筆者が面談した学院の「長老」指導部は、元理事長(84歳)、理事(82歳)、顧問(81歳)。いずれも戦前の日本に留学したり、ハルビン学院で教育を受けた人達で、日本に愛着と親しみを持っている。現在は、30名以上もの日本語教師を擁し、約600名もの若者が日本語を勉強しており、内蒙古最大級の日本語学校である。モンゴル族学生が多く、モンゴル族学生に対しては日本語指導をモンゴル語で行っている。 
 
 日本語を1年半程度学習した若者の多くが、今でも日本の大学、日本語学校に赴いている。その関係で20校以上の日本の大学、日本語学校と協力しており、これらの一部の大学・学校は、毎年、留学候補者の面接と試験のために学院を訪問している由。また、数ヶ月間日本語を教え、研修生として日本に派遣している。その関係で、日本各地の研修生受入事業組合と協力している。 
 これまで約9千名もの卒業生を輩出した。民族別比率はモンゴル族5割強%、漢族4割弱、その他1割弱の由。卒業生の内半分近くが日本に留学(私費が多い由だが、日本滞在中に国費留学生となった者もいる)または研修のために訪日した。 
 
 同地の行政府、経済界幹部にも卒業生がおり、学院は内蒙古自治区政府からも支援されている。卒業生で、現在、乳業企業「蒙牛」に務めている幹部や畜産加工業社長をしている卒業生とも面談したが、共に日本の北海道で酪農を研修した経験が今生きていると話してくれた。自動車に乗せて貰った際には、80年代、日本研修中に北海道で買った音楽CDをカー・ステレオで流してくれた。 
 
●草原の破壊を嘆く若者 
 
 12月29日、内蒙古智力引進外語専修学院では、一年の終わりに、学生達の日頃の研鑽を発表する日本語弁論大会兼演芸大会(写真参照)が開催され、筆者も審査員として参加した。草原から来た多くの若者達は、環境破壊で草原が減少していることを口々に嘆いていた。そして、日本語学習と日本留学を経て、郷土の発展に貢献したいと熱っぽく語ってくれた。 
 草原から来た若者達が日本に寄せる期待と好感度は大きいと言える。2004年夏のサッカー・アジア杯での日中の決勝戦では、草原から来た若者達は、日本も応援してくれたそうである。(つづく) 
 
(本稿中の意見は、筆者の個人的意見であり、筆者の所属する組織の意見を代表するものではない。) 


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