2007年02月22日00時57分掲載  無料記事
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北朝鮮

6者協議合意批判派の誤り 平和的解決の一歩 ピーター・ヘイズ

 北京で2月8日から13日まで開かれた朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核計画をめぐる第5回6者協議第3セッションは「初期段階の措置」を実施することで合意した。米国、中国、ロシア、韓国、日本、北朝鮮の6カ国が合意した措置には次のようなものがある。 
 
―北朝鮮は寧辺でのプルトニウム生産・処理を停止し、この停止を監視し、検証するために国際原子力機関(IAEA)の査察官が同国に復帰する。 
―米朝関係、日朝関係、エネルギー・経済支援、停戦・安全保障問題、朝鮮半島の非核化に関する5つの作業部会を設立する。 
−60日以内に5万トンの重油に相当する緊急エネルギー支援を提供する。 
 
 6者はまた「次の段階」として、「北朝鮮によるすべての核計画についての完全な申告の提出、ならびに黒鉛減速炉および再処理工場を含むすべての既存の核施設の無能力化の期間中、北朝鮮に対して、最初の輸送の5万トンの重油を含む100万トンの重油に相当する規模を限度とする経済、エネルギーおよび人道支援が北朝鮮に提供される」ことを約束した。 
 
米国は譲歩したのか 
 
 北京の取引は背信行為であり、1994年10月の米朝「枠組み合意」をほうふつさせるものだとして既に攻撃されている。枠組み合意のもと、北朝鮮は核燃料サイクルを凍結し、2基の軽水炉と年間50万トンの重油を軽水炉が完成するまで受けることになっていた。枠組み合意は、2002年に米国が北朝鮮は合意に違反して、ウラン濃縮計画を推し進めていると非難し、崩壊した。超強硬派はまた間違った思い込みをした。 
 
 枠組み合意は2基の原子炉を年利2%の譲許的融資(訳注:市場より有利な条件での貸付)のもと約40億ドルで北朝鮮に提供するものであった。資本と運転経費、電力が韓国に商業ベースで輸出できたと仮定して(北朝鮮の送電系統はそれらの原子炉を運転できない)、北朝鮮にとって、それらの原子炉の年間経費の総額は現在の価格で3億ドルになったであろう。 
 
 2基の原子炉による韓国への電力輸出の収入は年間約7億ドル。従って、北朝鮮は年間3億6800万ドルの利益を得たであろう。その上、昔の合意では、原子炉が完成するまで毎年50万トンの重油、1億5000万ドル相当を北朝鮮は手にすることができたはずであった。 
 
 枠組み合意で北朝鮮が得られはずの純利益の総額は、現在の価格で約46億ドル(これは原子炉が稼動し始めてから30年間のもの)である。枠組み合意は双方が政治的・安全保障の関係を正常化する約束を実行しなかったために崩壊したが、経済的側面は重要であった。 
 
 北京の取り決めで北朝鮮は何を得たのか。60日間に、わずか5万トンの重油である。それは、プルトニウム施設を停止し、その期間に作業部会での話し合いがうまくいけばという条件付である。燃料サイクルを完全に「無能力化」した時、さらに95万トンの重油(ないし同等の他のエネルギー支援)を受ける。これは早くて2年かかる。この燃料の現在の価格は約2億5700万ドルで、これは核兵器を選択することによって放棄した枠組み合意の46億ドルの6%である。そして、第2段階が終わり、第3段階の実際の廃棄が明確になり、始まらない限り、受け取ることはできない。 
 
 米国とその他の国から頭金として最初の60日間に送られる5万トンは、北朝鮮が核兵器の道を選択して失った46億ドルに対し、わずか1500万ドルにしか相当しない。それは正に象徴的なもので、第2段階と第3段階について北朝鮮と話し合いを続けさせるために支払う費用であり、もし北朝鮮が作業部会に関与しなかったら、それさえもなくなってしまうであろう。 
 
 これは何を物語っているのか。少なくとも、北朝鮮の指導者はその核兵器を少なくとも40億ドルから50億ドルに見積もっているということである。(この計算には、核が通常の軍事経費の代りをなす能力など推定される経済的な利益、あるいは核兵器を取得し実験する経費、国内外で「核兵器国家」と見なされる非経済的コストと利益は含んでいない) 
 
北朝鮮の勝利か 
 
 超強硬派の批判者とは反対に、米国は譲歩しただけでなく、北朝鮮は核のゲームに既に勝利したと主張している人たちもいる。彼らは、共同声明の第2段階で核燃料サイクルが「無能力化」されることになっているが、実際の廃棄のための工程表について触れておらず、核装置と核燃料サイクルから抽出された核物質を放棄する代わりに、北朝鮮は何を得られるのか言及がないことを指摘する。それに関しては、2005年9月の前回の6者協議で採択された原則に立ち戻る必要がある。そこでは北朝鮮は非核化へ確約したが、それがどのように達成されるかは明確にしていない。 
 
 逆にいえば、北朝鮮が廃棄の取引の一部として2基の原子炉の提供要求に立ち戻ることは不可避であり、9月の原則に合致している。メディアの報道によると、北京の交渉で北朝鮮は200万キロワットの電力を要求した。米国は北京の取り決めを実施合意に変えたいなら、第3段階の「措置」でのこの点で北朝鮮と交渉しなければならないであろう。 
 
 このように北朝鮮は当面、少量の核兵器を保持することにはなるが、欲しいもの、政治的・経済的安全保障を得るには程遠い。 
 
行き詰まりの現実 
 
 北京の取り決めのおかげで、北朝鮮は短期的には米国を追い込んだ。約1500万ドルに相当する即時停止の代りに、米国は核兵器の廃棄が進むという見通しで妥協せざるをえなかった。 
 
 同時に、米国が実行するよう責任は中国に押し付けられ、中国が北朝鮮に口を出させないようにした。北京の取り決めでの北朝鮮の義務は、比較的実行しやすく、1990年代からIAEAとやってきたお決まりの道筋に従っている。北朝鮮は2005年9月の原則に従って、実際に廃棄する手順とタイミングは受け入れてきた。6者協議で進展があっため、北朝鮮は韓国が協議で進展がないために停止していた50万トンの食糧支援を要求できる。 
 
 北朝鮮の指導部の心中で、どのような価値(特に米国との政治的・経済的関係を正常化することからくる政治・安全保障の恩恵)が支配的なのか、また北朝鮮の核兵器の政治的・経済的価値より価値があるのは何なのか、いまだに不確実である。非核化の作業部会はこの点に関して間違いなく、よりはっきりするであろう。 
 
 一方、核兵器についての協議に加わるための北朝鮮への重油の「ワイロ」は今後の交渉で北朝鮮の計算にほとんど影響を及ぼさないことは明らかである。2年間ほどで100万トンの重油は、核兵器と比べれば大した価値はない。米国の意図を調べるリトマス試験にすぎない。実際、北朝鮮のエネルギー・インフラの危険な状態からすれば、1、2年で100万トンの追加重油を同国が有効に消化できるか疑問である。 
 
 北京の合意後、実際の核兵器を放棄する前に、敵対的でない政治的・安全保障関係を構築するうえで米国の意図が本物であるかどうか試すことができるまでは、北朝鮮は何もしないようにみえる。 
 
 第3段階で、北朝鮮は米国の意図について疑念が残ることから、すべてではなく一部の核物質と核装置を放棄することが予想される。第2段階での無能化の意味についてもはっきりしていない。プロセスが廃棄まで行った場合、プルトニウムを生産する能力を復活させる必要が起きた場合のために、北朝鮮は寧辺の原子炉の廃棄をそのプロセスの最後にしておくであろう。 
 
 それらは北朝鮮の経済的考慮からもたらされる判断ではなく政治的判断であろう。いまテーブルの上にあるわずかな小さなニンジンがそのプロセスをわい小化するかもしれないが、それらがこれからの交渉される中心問題から注意をそらすようなことがあってはならない。 
 
 要するに、どのような欠陥があるにせよ、北京の合意は昔の枠組み合意の論理と範囲を復活させたものに過ぎないと非難する批判する者はまったく間違った思い込みをしている。北朝鮮の核兵器計画について包括的な合意には程遠い状態にある。北朝鮮も北京で米国に対して勝利してはいない。 
 
 もっと正確に言うと、両者はぎりぎりまで交渉し、さらに話し合うことに合意した。そのようなものとして、北京の合意は北朝鮮の核問題を対話によって平和的に解決するという正しい方向に向けて小さな一歩である。 
 
*ピーター・ヘイズ 米シンクタンクNautilus Institute(サンフランシスコ)所長、Nautilus at RMIT(メルボルン)の国際関係教授。 
 
原文 
http://www.nautilus.org/fora/security/07014Hayes.html 
 
翻訳配信許諾済み 
 
(翻訳 鳥居英晴) 


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