2007年04月01日21時45分掲載  無料記事
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検証・メディア

「防衛機密」と「知る権利」 読売の中国潜水艦火災報道 池田龍夫(ジャーナリスト)

  米軍再編、ミサイル防衛システム、原子力空母寄港など、防衛論議が喧(かまびす)しい。国民が知らぬ間に、日本を取り巻く防衛環境が急激に変貌してきている。 
 2月中旬明るみに出た「防衛省機密漏洩事件」は、現在の日米軍事状況の側面を象徴的に示しているようである。2005年5月31日読売朝刊の特ダネが、1年10カ月も経た今、「機密漏洩」の疑いで騒ぎになったのは何故か。どんな機密が漏洩したと、重大視しているのだろうか…。 
 
 「中国潜水艦火災か/南シナ海 海南島向け曳航/日米が監視」との見出しで報じた読売1面2番手記事は、次のような潜水艦事故だった。 
 「中国海軍の潜水艦が南シナ海で航行中に航行不能となっていることが5月30日、明らかになった。日米両国の防衛筋が確認したもので、管内で火災が起きた(26日ごろ)可能性が高く、30日午後現在は浮上して中国・海南島に向けて曳航されている。同筋によると、事故を起こしたのは、中国海軍所属の『明』級のディーゼル式攻撃型潜水艦で、300番台の艦番号がつけられている。日米両政府は『原子力潜水艦ではなく、通常艦であり、周囲への影響は少ない』と見ており、在日米軍と自衛隊は通常の態勢で監視を続けている」 
 
▽米軍への気配り、牋貳撹寛瓩冒世ぁ 
 
 日本列島近海での中国潜水艦火災を米偵察衛星が察知した段階で情報開示すべき事故と考えられるのに、防衛省が犁〔漏洩瓩判纏襪掘読売記者に情報を漏らしたとの疑いで一等空佐を取り調べたのは異例なこと。2月16日の各紙朝刊が、「知る権利の狄害瓠廚畔鵑犬董∩ぎになった。 
 防衛省幹部が一部報道機関に犁〔漏洩瓩肇蝓璽したのが発端で、16日1面トップに報じた産経は「防衛省では、自衛隊法(守秘義務)違反容疑などでの立件を視野に検察当局と協議している。防衛省が報道機関への機密情報漏洩を本格捜査するのは極めて異例といえる」と指摘した。東京新聞も1面トップ、朝日が1面2番手に扱ったのは、報道機関として妥当な判断と言えよう。読売が自社の特ダネから派生した問題なのに、第2社会面3段扱いだったのに違和感を覚えた(『毎日』が第2社会面、日経は社会面3段)。 
 
 久間章生防衛相は同日、閣議後の会見で「自衛隊法の改正でマスコミ、防衛産業の人達など、民間の人達もいわば守秘義務など、処罰の対象になるという法改正が行われたと思うのですが…」という質問に対して、「中身については詳しく聞いておりません」と言いながらも、次の発言に今回の事件の重要な問題点が潜んでいる気がする。 
 「非常に大事なことや機微に触れることについては、漏らしてはいけないということで、一般論としてきちんとしようということです。そうしないと日本に対しては、機微に触れるような機材は提供できないとか、あるいはそうした情報は提供できないということになれば、日本にとって非常に国益に反しますから。だからそれに携わる人は、きちんと守るという法律は必要だということで、既に法律改正がされているわけです」(防衛省HPから引用) 
 
 分かりにくい言い回しだが、日本への犁“に触れる防衛情報や機材提供国瓩箸蓮∧胴颪鮖悗靴討い襪飽磴い覆ぁ産経17日朝刊が「今回の措置は、米側に日本側の姿勢を示す狙いがあると見られ、防衛省首脳は『情報に対する一罰百戒ということだ』と述べた」とズバリ指摘していた。平たく言えば、「日米同盟がらみの情報管理強化」に、真の狙いがあった。 
 
 軍事評論家、神浦元彰氏(元自衛隊員)は「今回の件は、秘密そのものより、非常に政治的な臭いがする。『米側が危惧している』の表現が出た時は要注意で、背景には外務省と防衛省との情報をめぐるツバ競り合いがあるのではないか。情報衛星にしても、実際に運用しているのは防衛省。海外の日本大使館から入ってくる防衛関連情報も直接、防衛省に入るようになった。日米安保政策も防衛省がやることになる。当然、外務省はおもしろくない」とコメント(東京17日朝刊)している。 
 
 朝日社説(17日)が「今回の捜査の背景には、日米同盟が緊密になる中で、米国が日本に対し防衛上の秘密を守る体制を強めるように求めていることがある」と指摘、毎日社説も「日米軍事情報の共有化は進み、防衛省は米国から情報管理の強化を再三、求められている。そのため、情報内容よりも省内の引き締めのために強制捜査に踏み切ったという見方もできる。読売の報道が一罰百戒の手段として使われたなら、全く理解に苦しむ」と述べており、各種論評を総合すると、狆霾鶸廟瓩料世い透けて見える。 
 
▽「取材が適性」なら、毅然たる姿勢を 
 
 米軍再編→日米軍事一体化が進行している時期に突然浮上した機密漏洩事件だけに、「権力への監視」を重要責務とする報道機関が、警戒の目を向けるのは当然だろう。ところが狹事者瓩瞭蒜篆景更報部が「取材源にかかわることであり、質問には一切お答えできません。本紙記者が自衛隊から事情聴取を受けた事実はない」と文書回答しただけで沈黙していた姿勢が不可解だった。 
 
 産経第一報の「防衛省警務隊では今年1月に一佐から事情を聴くとともに携帯電話など提出を受けた。供述などにより、親しい女性を介して知り合い、読売新聞記者に情報を漏洩していたことが分かった」との記述が気になり、読売内部は対応に苦慮しているのではないかと推察していた。読売が「本紙の取材は適正」と題する「滝鼻卓雄・東京本社編集主幹見解」を掲載したのは、事件発覚から6日後の22日朝刊だった(社説は二十三日)。 
 
 「取材記者らから事情を聞き、その裏づけとなる客観事実を検証するなど社内調査を行いました。その結果取材が適正に行われていたことを確認しました」との見解を読んで、「然らば、犁〔漏洩捜査”の行き過ぎを厳しく追及・批判すべきだ」と感じた読者は多かったろう。かなり長文の「見解」末尾に、「警務隊などの捜査機関が、報道に関連して捜査を行うことは極めて異例なことです。公務員を対象とした捜査が行われること自体、取材に対する萎縮を招き、取材・報道活動の妨げにつながる恐れがあり、報道機関として重大な懸念を抱かざるを得ません」との一般論的指摘は理解できるものの、読売新聞としての毅然たる姿勢が不足していたと思う。一罰百戒、取材規制につながる恐れが指摘されている折、犖せかけ捜査瓩覆匹悗隆道襦θ稟修魎砲瓩討呂覆蕕覆ぁ 
 
 今回の騒動は、一等空佐の書類送検で終息する見通しのようだが、一部週刊誌の爛好ャンダル報道瓩覆匹發△辰董不可解な問題がなお残されている。「知る権利に応える」ため、読売新聞は機密漏洩問題に関して綿密な「検証紙面」を作成し、姿勢を鮮明にすることを望みたい。 
 
▽「秘密の範囲」拡大を危惧 
 
 中国潜水艦火災は、米偵察衛星が捕らえた情報を防衛省に通報したもので、「艦番号」も解読されていた。こんな細かい情報まで漏洩したことを米国側が刺激し、狷本への圧力瓩強まったと見られる。防衛問題に秘密はつきまとうが、当然公開すべき情報まで隠蔽されるようでは本末転倒だ。 
 服部孝章・立大教授が「今回の読売報道は、日本の近海で何が起こっているかを知らせるもので、実質的な防衛上の秘密とは言えない。この種の情報まで、秘密漏洩罪の対象として処罰することになれば、秘密の範囲がどんどん広がっていき、市民が知るべき情報が伝わらなくなる。自衛隊が国民の監視が届かない存在になっていく危険を感じる」(読売2・16夕刊)と分析していたが、現在牘L裏瓩某聞圓靴討い詼姫厂簑蠅悗侶拗陲伴け止めたい。 
 
 横須賀市は、米原子力空母「ジョージ・ワシントン号」の2008年夏入港を受け入れ、イージス艦増強も進めている。米軍嘉手納基地にはミサイル防衛PAC3が配備され、入間基地など自衛隊基地への搬入も着々進行しているのに、地元住民に実態は開示されていない。青森県つがる市車力地区の空自駐屯地に、米軍の「Xバンドレーダー」と称する早期警戒レーダーが配備されたことを知る人は少なかろう。 
 「米本土を狙う北朝鮮弾道ミサイル防衛策」の一環で、日本の防衛環境の変化は著しい。それだけに、報道各社はひるむことなく、牘された情報疊掘に、果敢に挑んでもらいたい。 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」4月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です) 


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