2007年05月19日21時46分掲載  無料記事
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環境

マンションの目の前に巨大アンテナが スカパー巨大アンテナ設置差し止め求め住民が提訴 門川淑子

  東京の人口密集地帯のビルの屋上にある日突然12基の巨大アンテナが建つことになった。すぐそばにはマンションがある。住民は24時間、電磁波にさらされる。電磁波が白血病や脳腫瘍を誘発したり、頭痛やめまい、視力障害などさまざまな健康障害をもたらす電磁波過敏症を引き起こすことが疫学調査で明らかになっている。マンション住民は憲法の人格権を掲げて「アンテナ設置差し止め」の裁判を起こした。原告住民は言う。「もしこんなことが東京の人口密集地で許されるなら、全国どこも大企業のうことだけがまかり通る社会になってしまう」。(『消費者リポート』特約) 
 
  日本橋から地下鉄東西線で東へ4駅乗ると東陽町です。この東陽町駅に近いマンションに住む私たちが、スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(スカパー)を、「スカパー新放送センターの屋上にアンテナを立てるな」と、東京地方裁判所に訴えたのは2007年1月19日でした。 
 
  スカパーは約290のチャンネルと通信衛星中継機の権利を所有して他社が作った番組をデジタル化し、電波を衛星へ打ち上げるシステムを提供する会社です。スカパーが竹中工務店から借地し、竹中工務店の施工で放送センターを造ると公表したのは06年6月。竹中工務店がその旨を、かつて同社からマンションを買ったお客でもある私たちへ通知したのは、建設地がマンションと道一筋を隔てた真向いにあるためでした。 
 
◆12基のアンテナが林立、24時間電磁波が襲う 
 
  その2か月後、ビルの屋上にはアンテナを設置すると、竹中工務店から口頭で伝えられたのがことの始まりでした。屋上はマンションの11階に相当し、上層階の住人は、直径8mの送信用12基と3mの受信用6基の林立する光景が目前に迫ることを知ったのです。 
 
  強力な電波の至近距離で暮すことは、何年も絶え間無く電磁波の影響を受け続けることを意味します。電磁波が白血病や脳腫瘍などを誘発する可能性があることは、すでに疫学研究などで明らかにされています。電磁波の健康影響に関する論文も、国内外で多く出ています。 
 
  電波は規制されていますが、規制値は国や地域によって大きく異なり、高圧送電線の下に家屋や人の集まる施設の建造を禁止する国もあれば、日本のように容認する国もあります。日本の「電波防護指針」の規制値は緩いと、さまざまな学者や環境問題研究者が指摘しています。 
 
  電波事業の監督官庁である総務省は、「アンテナは人への影響のない場所に設置するようスカパーを指導して欲しい」という私たちの要請に対し、「まだ電磁波と病気との因果関係は証明されていない。規制値に収まるアンテナは認める」と回答しています。 
 
  病気とその原因との因果関係が解明されていない時には、関係の有無が解明されるまで、疑わしい原因を排除するという「予防原則」を採用するよう私たちは望みます。のちに原因が解明されたときに、被害者が出ていては遅すぎるからです。 
 
  例えばアスベスト被害では、禁止する国があるのを知りながら日本の行政はアスベストを容認し続け、大勢の健康といのちを奪ったのです。 
 
◆これは憲法裁判だ! 
 
  提訴の日の午後、マスコミ13社と数名のフリージャーナリストを迎えて記者会見をしました。会場正面に掲げたメッ 
セージは「今の法律は国民の健康を保障できるのか?!」。一抱えもある文字の一つひとつを、反対運動に参加する何人もの女性たちが思いを込めて書いた横断幕でした。 
 
  裁判に勝てるかと聞かれて私は答えます。「もし東陽町のような人口密集地に巨大な電磁波発信源の設置を許すなら、日本中どこででも、資本力のある人の勝手放題を許すことになり、黙ってはいられない、勝ち負けは後からつい 
てくる」。 
 
  私たちの主張の根拠は憲法第十三条で保障された「人格権」です。「生命・健康などの身体権が侵害される危険が切迫しているとき、それを禁止するよう要求できる」との判例も、よりどころのひとつです。 
 
2  0世紀の日本の悲惨な公害の歴史を知る私たちには、電磁波公害の発生を未然に防ぐ義務と責任があると思います。 
 
(筆者は「スカパー巨大アンテナに反対する住民の会」共同代表) 


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