2007年06月02日14時39分掲載  無料記事
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検証・メディア

改憲ムードとジャーナリズムの責任 「憲法施行60年」の各紙社説 池田龍夫(ジャーナリスト)

  敗戦の混乱→国家再建の道のりは険しかった。1947年5月3日の「日本国憲法」施行から60年の歳月が流れた今、平和で豊かな国づくりを称えて「還暦祝い」したい心境だが、世間に立ち込める牴憲ムード瓩気がかりだ。 
 
 何が何でも改憲に猛進する安倍晋三内閣は4月12日、衆院憲法調査特別委で「国民投票法案」を与党多数で強行採決し、改憲へのレールを敷いてしまった。同法案には民主党も修正協議に応じ、ギリギリまで与野党実務者が調整していたのに、審議を突然打ち切ってしまったのである。その背景には、「5月3日法案成立」の首相厳命があったに違いない。参院選の争点に「改憲」を据えた牋打楡鑪瓩両任蠅、民主党との協調ムードを引き裂いてしまった。 
 同特別委の民主党筆頭理事・枝野幸男議員は強行採決に抗議して理事を辞任、「安倍氏が総理である限り、与党と憲法論議はしない」と激怒した。枝野議員と法案修正に努力していた自民党の船田元・理事も「痛恨の極みだ。政党対政党の対決で、結果としてこのような状況になった。狎鑞Л瓠併淕郢瓠砲鮗困辰心兇犬澄廚噺を落としていた。「改憲発議」のための自・公・民3党による「3分の2連合」は崩壊、皮肉にも牴憲への道瓩遠のいた感が深い。 
 
 新聞各紙が、「憲法」節目の5月3日朝刊に、改憲問題、特に「9条」に関してどのような論調を掲げたかに注目、紙面を分析したうえで、現在わが国が置かれている政治状況を考えてみた。 
 
▽「9条の精神継承を」との論調 
 
 先ず、在京6紙を見ると、拙速牴憲瓩鉾紳个垢襪里朝日・毎日・東京3紙。これに対して改正推進派の読売・産経・日経3紙に大別できる。 
 
 『朝日』が「日本の新戦略――地球貢献国家をめざそう」とのタイトルで一面トップ(論説主幹の署名)に「提言」を掲げ、中面8ページを割いて社説21本を一挙掲載した意欲的紙面づくりに、読者は一様に驚かされたであろう。「世界のための『世話役』になろう」と題した社説1<総論>の中に、朝日の憲法観を読み取ることができる。 
 
 「そんな道(世話役)を歩むうえで、日本国憲法は貴重な資産である。戦争への深い反省から日本は軍事に極めて抑制的な道を歩んできた。根底は国際主義を重んじる前文と、平和主義を打ち出した憲法9条だ。9条には、二度と侵略の愚を繰り返さないという宣言の意味がこもっている。とりわけアジアでは『9条を持つ国』の安心感が役に立つ。日米安保体制は大事だが、米国との距離をうまく保つうえでも、9条は有効な防波堤だ。9条を変えること、特に自衛隊を名実ともに軍隊にすることは決して得策でない。……前文と9条の精神に基づいて専守防衛を貫き、他国の戦争に加勢する集団的自衛権は行使しない。唯一の被爆国として『非核』を貫く。文民統制も大事だ。そして国連主導の国際的な平和構築活動には、軍隊を名乗らぬ自衛隊の持ち味を守り生かす形で参加していく」と、「9条改正反対」を明示している。 
 
 <総論=地球貢献国家>に続き、<地球と人間> <グローバル化とアジア・イスラム> <憲法9条と平和・安全保障> <日本の外交>の4本柱を立てて各論20編を掲載している。全社挙げての問題提起を評価するものの、「憲法記念日」を起点にして関連社説を21日間連続掲載した方が、読者へのアピール力は強かったのではないか。さらに注文をつければ、当面の重要課題「沖縄と米軍再編」「教育改革と愛国心」「市場経済主義のヒズミ」などのテーマで各論を展開して欲しかった。 
 
 『毎日』一面は、トップの世論調査の横に大型社説を掲げ「平和主義を進化させよう/国連中心に国際協力の拡大を」と提言。「安倍首相は戦後レジーム(体制)からの脱却を主張する。危なっかしい言葉だ。戦後の繁栄は米国の『押し付け憲法』に発する。この皮肉に満ちた戦後史を何とか修正したい。自前の憲法にしない限り、日本人としての誇りが十全にならない。そういう考え方かと思われるが『戦後レジームからの脱却』とはあまりに観念過剰で書正論じみている。もっと落ち着いた言葉で憲法問題を語りたい」と前置きし、「日本の進路は難しい。政府は日米同盟の強化しかないという。自衛隊のイラク派遣は国連決議に基づく建前ではあるが、実態は対米協力の意味合いが濃い。数年前には考えられないことが憲法の枠内で実行されている。それでも、憲法9条の制約は依然強い。……私たちは憲法の原理である国際協調主義をどのように『進化』させるかを、憲法問題を考える出発点としたい」と主張している。 
 中面に3ページの特集面を展開、資料として「揺れ動いた憲法観」のほか座談会で問題提起していた。 
 
 『東京』も意欲的な紙面づくりだった。一面トップ記事「二段階改憲、自民が検討」は、民主党に離反された政府・与党の策略を暗示する内容だ。野党の賛成を得やすい「環境権」「プライバシー権」などを改憲狢莪戝騰瓩箸掘◆孱江髻廚聾絏鵑靴量椶らまし戦術と推測できる。社説のテーマを憲法に絞って(上)(中)(下)3日間(1日・2日・3日)掲載したのが光る。  「憲法にこめられた立憲主義や戦争放棄は、不完全な人間への自覚からの権力やわれわれ人間自身への拘束規定でしょう。その知恵を尊重したいものです」との結びの言葉に、同紙の憲法観が窺える。さらに4ページの「試される憲法」特集面で、各種資料を提供していた。 
 
▽「集団的自衛権容認」の論調も 
 
 読売と産経一面トップが、ともに「高校野球特待生の高野連調査」だったことに驚いた。憲法に関する記事は、「首相、改憲に強い意欲」を3段で掲載、「憲法60年」を脇見出しに副えた程度の扱い。牴憲瓩鮗厦世箸垢詢昌罎、今さら憲法論議を繰り返しても無意味と判断したのだろうか。「憲法60年」の客観的資料提供が乏しかったのも残念で、朝・毎・東京三紙との視点の違いを改めて痛感させられた。 
 
 『読売』が「歴史に刻まれる節目の年だ」との論説を掲げ、『産経』は「日本を守る自前の規範を」と主張。「国民投票法」と「集団的自衛権行使」の具体化を強調し、「日米同盟を基盤とする安保政策や国際平和活動の展開の桎梏となってきた集団的自衛権の問題を打開すべき時だ。その観点からも、07年は、戦後憲法史に画期的な1ページを開く年となりうる」との姿勢は、両紙共通である。『日経』も「還暦の憲法を時代の変化に合う中身に」との社説を掲げ、改憲作業の促進を求めていた。 
 
▽「国家主義への回帰危ぶむ」 
 
 最後に、有力「県紙」の論調を幾つか拾って、その憲法観を紹介して参考に供したい。 
 北海道新聞・信濃毎日・中国新聞が、東京新聞のように3日連続で「憲法社説」を掲載。「理想の灯を絶やすな」(『中国』)など、拙速牴憲瓩坊拆發鯡弔蕕肱青瓦目立った。 
 
 『道新』は「国家主義への回帰危ぶむ」との見出し(5・1社説)で、「首相は『自分の任期中に改憲を目指したい』『時代にそぐわない条文として典型的なものは9条で、日本を守る観点や国際貢献を行う上で改正すべきだ』と明言した。……従軍慰安婦問題への首相発言や、沖縄戦の集団自決をめぐる政府の教科書検定などで、先の大戦への反省を無にしかねない対応も続く。『占領下に素人が起草した憲法で、古くもなった。21世紀にふさわしいものにしなければ』との首相の物言いは、民主主義国家として再出発した戦後日本の否定である」と、安倍首相の歴史認識を糾弾する。 
 
 『信毎』は「日米一体化が9条を壊す」(5・4社説)と題し、「9条の普遍性に目を向け、その理念を世界で実現することを目指すのか。米国の求めに応じ、再び戦争ができる国家に進めるのか。いま国民に問われているのは、この一点である」とズバリ指摘していた。 
 
 本土紙より熱心に「平和憲法尊重」を訴え続けている沖縄県紙のうち、『琉球新報』は、県下3大学の学生に「憲法調査」を試み、質問項目に書き込ませて集計。「現行憲法でいい54・1%(改正は27・5%)」、「9条は改正せず82%(改正は9・2%)」――との調査結果を一面トップで報じていた。『沖縄タイムス』の県議会議員調査もユニークだった。与党優位の議席数だが、「改憲賛否」で20対19と拮抗。「9条改正」について、反対27・賛成12の回答結果に注目したい。 
 
 いずれにせよ、今国会の最重要法案「国民投票法」は5月14日成立、7月参院選が憲法論議最大のヤマ場になってきた。憲法への国民意識の涵養が特に大事な時期だ。新聞ジャーナリズムの責任を自覚し、斬新な紙面づくりに一層の知恵を絞ってもらいたい。 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」6月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です。 


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