2007年07月11日08時54分掲載  無料記事
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スポーツ

【間違いだらけのプロ野球】(3)2番打者の真相(上)

  犠牲バントの話を少し続ける。日本のプロ野球は本当に犠牲バントが大好きだ。今シーズンもセ・パ両リーグ各球団ともしばしば序盤で無死1塁や無死2塁、あるいは無死1、2塁といった機に、次打者におきまりのようにバントを命じている。セ・リーグ首位を走る巨人の原辰徳監督は高橋由伸、阿部慎之助らの長距離ヒッターにもしばしばバントを命じているが、犠牲バントの成功率は0.685というセリーグ最低(7月4日現在)を記録している。これは、普段、バントをする機会の少ない長距離打者にバントをやらせることによって、失敗率が高まっているためだ。(市橋嗣郎) 
 
 7月4日のヤフードームでの巨人対横浜戦。1点リードされて迎えた7回裏、巨人は二岡、李スンヨク、ホリンズ、木村拓の4連打で2点を取り逆転、さらに代打亀井が四球を選んでなお無死1、2塁の場面でセリーグOPSナンバー1の高橋由伸に送りなんとバントを命じた。 
 OPSとは「ON-BASE PLUS SLUGGING」の略で、セイバーメトリクス理論で重視されている打者を評価する指標で、出塁率+長打率で算出する。 
 
 結果、高橋由伸はバントを空振りし、飛び出した2塁ランナーの木村拓が刺され、1死1塁になってしまった。その後、ヒットが出てこの回に巨人は大量5点をとって勝負を決めたが、高橋へのバント指示は、横浜側バッテリーにはありがたかったに違いない。 
 
 前回の述べたように、野球を統計学的に分析したセイバーメトリクス理論においては、終盤で1点を争う場面でさえ、送りバントは有効な作戦でない場合が多い。 
 
 まして、セリーグOPSナンバーワンの高橋由伸に、無死1、2塁でバントをさせるのは論外だ。打たせた方がはるかに「最低でも1点が入る確率」は大きい。得点期待値(そのイニングにあと何点が入るかの平均値)は、さらに大きい。これはセイバーメトリクス理論を持ち出すまでもなく、普通のプロ野球ファンでも感じ取れるはずだ。 
 
 2―1と逆転し、あと1点を追加すれば逃げ切れるという読みは間違ってはいないが、そのための確率統計的にもっとも有効な戦術をまったく無視した原監督の采配だった。さすがにその夜のCS「プロ野球ニュース」の解説者デーブ大久保(元巨人捕手)は、「捕手からすれば、打って来られた方がはるかにいやですね」とコメントしていた。 
 
 それにしても巨人のバント成功率0.685はひどすぎる。交流戦が終わった後に不振が続く巨人。こんなバント成功率である限り、序盤から終盤まで一切バントをしない戦術をとった方が、間違いなく勝率は上がるはずだ。 
 
▼「とにかくバント」で選手の責任に 
 
 それでもなぜ、日本のプロ野球の監督はバントを選手に命じ続けるのか。 
 まずは、監督がセイバーメトリクス理論を知らない、あるいは知っていてもその有効性を信じていないということが上げられる。ヤクルトの古田兼任監督は、2006年に就任した際、OPSによる選手評価を採り入れるなど、セイバーメトリクス理論を学んだ形跡があるが、現状では少数派。古田監督にしても、少なくとも今シーズンはこの理論に基づく采配はほとんどみられない。 
 
 もう一つの理由は、バントをせずにヒッティングに行き、打者が併殺に倒れた場合の「作戦失敗」の印象が非常に強いという心理的な側面があると考えられる。 
 バントの失敗は監督の責任でなく選手の責任だ。バントが成功して1死2塁になった後の後続が凡退しても、これまた選手の責任。監督の采配ミスとみられることはまずない。 
 しかし、無死1塁、無死1、2塁などで強行策と呼ばれるヒッティングを命じ、併殺打という結果に終わった際は、監督の采配に非難が及びやすい。それが確率的に正しい作戦であったとしても、その瞬間の「失敗の印象」が非常に強いためだ。ほとんどの日本のプロ野球解説者、評論家たちは、強行策を批判することはあっても、「確実にバントで送る」という作戦を批判することはない。 
 
▼2番打者の多くが「一軍半」でいいのか 
 
 犠牲バントといえば、打席に立った投手とともに、2番打者の重要な役割と日本のプロ野球ではみなされている。 
 このため、日本のほとんどのプロ球団は、OPSは低いが、バントはうまい「巧打者」と呼ばれるタイプの打者を2番に据えている例がほとんどだ。出塁率が高い1番、その1番を確実に進塁させられる2番、そして長距離打者を3番から5番に並べるというのが日本のプロ野球の定番の打順となっている。 
 
 セ・パ両リーグをみると、各チームの2番打者のOPSは平均して非常に低い。7月7日現在の数字になるが阪神・赤星(0.644)、ヤクルト・田中浩(0.672)、広島・東出(0.583)日本ハム・田中賢(0.655)、楽天・高須(0.654)、ソフトバンク・本多(0.645)、オリックス・村松(0.657)など軒並み0.7以下だ。 
 
 ちなみにセイバーメトリクス理論では、出塁率と長打率を加えたOPSが1.0以上であれば球界を代表する打者とされ、日本のプロ野球では7月10日現在、ヤクルト・青木、巨人・高橋由伸、楽天・山崎武の3人のみ。0.9以上でチームを代表する強打者、0.7―0.8がレギュラー、0.7以下は控えまたは一軍半の選手と評価される。 
 
 日本のプロ野球では、この「一軍半」レベルの打者に、打順が頻繁に回る2番という打順を打たせているわけだ。 
 
 例外的にOPSが高い2番打者は巨人の谷(0.881)とロッテの早川(0.806)。この2チームが共に前半戦で首位を走ったのは偶然だろうか。 
 
 2002年の英科学誌ニューサイエンティストが興味深い野球に関する研究結果を報じている。 
 その結論は「野球で勝つには最強打者を2番に据えよ」というものだった。(続く) 


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