2007年08月01日16時38分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200708011638303

安倍政権を検証する

愕然とする「久間暴言」のズサンな歴史認識 63年目の原爆忌を前に 池田龍夫

  人類最大の悲劇から63年目の原爆忌。その寸前、「敬虔な祈り」に冷や水を浴びせる暴言が政府要人から飛び出してテンヤワンヤの騒ぎになった。暴言の主が、国の安全・防衛を司る防衛大臣だったことに愕然とさせられたが、この暴言の背後に安倍晋三政権の危険な体質が潜んでいる。参議院選挙(7月29日)で、与党・自民党は大敗北を喫して右往左往しているが、年金問題・格差問題の不手際だけでなく、「戦後レジームからの脱却」を声高に叫んだ安倍政権への鉄槌であった。 
 安倍首相や久間防衛相ら各閣僚の歴史認識の欠如は余りにも嘆かわしい。憲法改正をはじめ靖国参拝や慰安婦問題への時代錯誤的対応が日本の国際的地位を低下させる要因にもなっている。米国下院が7月30日、「従軍慰安婦問題をめぐる対日謝罪要求決議」を採択したことは、安倍政権への外国からの痛烈な狢茖叡騰瓩世辰拭 
 
▽「原爆投下しょうがない」 
 
 本稿では、「久間暴言」に絞って考察を試みたい。久間章生防衛相が6月30日、麗澤大学(千葉県柏市)で行なった講演が騒動の発端で、多くのメディアが大々的に報じているが、犁彜嵋集性瓩砲牢撚瓩任ない歴史認識の過誤もあるため、当時の歴史を振り返りながら検証を試みたい。 
 
 「日本が負けると分かっているのに、原爆を広島と長崎に落とした。長崎に落とせば日本も降参するだろう、そうしたらソ連の参戦を止められるということだった。幸いに(戦争が)八月十五日に終わったから、北海道は占領されずに済んだが、間違えば北海道までソ連に取られてしまう。その当時の日本は取られても何もする方法はないわけですから、私はその点は、原爆が落とされて長崎は本当に無数の人が悲惨な目にあったが、あれで戦争が終わったんだ、という頭の整理で今、しょうがないな、という風に思っている。米国を恨むつもりはないが、勝ち戦ということが分かっていながら、原爆まで使う必要があったのか、という思いは今でもしている。国際情勢とか戦後の占領状態などからいくと、そういうことも選択肢としてありうるのかな。そういうことも我々は十分、頭に入れながら考えなくてはいけない思った」。 
 ――久間防衛相が得意げに語った講演内容ばかりでなく、余りにも時代錯誤の歴史認識に愕然とさせられるのである。 
 
 1945年8月6日、広島市に米軍機が投下したウラン型原子爆弾によって約14万人が死亡。9日には、長崎市にプルトニウム爆弾を投下して約7万4000の命を奪った。人類史上最大の大量殺戮であり、今なお米国政府から公式謝罪のないことこそ不可解の極みである。それなのに、被爆国・日本の防衛責任者が、米国が使った非人道的兵器を「しょうがないと思っている」と言ってのけた無神経さにあきれ果てた。さらに、乏しい歴史認識で偉そうなことを語るのは恥の上塗りであり、許すことはできない。 
 
▽残虐な兵器、ソ連を参戦させた米外交 
 
 原爆投下前後の国際状況を振り返ってみよう。 
 
 [米ソなどの動き]▼米国ルーズベルト大統領は1943年6月、「原発マンハッタン計画」推進を決め、米ニューメキシコ州ロス・アラモスで開発に着手。▼米英ソ三カ国首脳は45年2月11日「ヤルタ協定」締結。協定文に「ドイツが降伏し、かつ、欧州における戦争が終了した後2カ月又は3カ月のうちにソ連が、次のこと(樺太南部や千島返還など)を条件として、連合国側に立ち日本国に対する戦争に参加することを協定した」と明記。▼ドイツの無条件降伏後の7月26日、ポツダムで会合した米英首脳は、中華民国の同意を得て「ポツダム宣言」を発表して日本に降伏を迫った。この会談の席上、米国トルーマン大統領(死去したル大統領の後継者)に『原爆実験成功』が伝達された。▼ソ連はその時には日本と中立関係にあったが、8月8日対日参戦を通告し、ポツダム宣言に参加した。 
 
 [日本の動き]▼敗色濃厚の1945年6月「天皇の英断」でソ連への特使派遣を決め、7月13日駐ソ大使から近衛文麿元首相派遣を打診。ソ連の返事を待っていたところ、同26日「ポツダム宣言」が発表されて狼狽。▼同年8月6日広島原爆、8日ソ連が宣戦布告。▼長崎原爆の9日、政府・最高戦争指導会議。ポツダム宣言受諾を決定して電報を打電したのが10日。▼ところが、降伏後の「国体護持」を巡って再び紛糾。14日最後の御前会議で鈴木貫太郎首相がご聖断を仰いで決着。▼敗戦を告げる『玉音放送』が15日正午。 
 
 ソ連の参戦はヤルタ会談で45年2月に決定しており、米国の原爆投下命令は「ポツダム宣言」より前に出されていた。米国が、開発に成功した原発の威力を早く試したかったことは明白で、米科学調査団が被爆後の両市に直ちに乗り込んで調査した事実がこれを裏書きしている。久間氏が「長崎に原爆を落とせば日本は降伏し、ソ連の参戦を止められると米国が判断した」との間違った推論に基づいて発言した罪は大きい。 
 
▽安倍首相の任命責任と内閣の体質に問題 
 
 核爆発の脅威から人類をどう守るかが、第2次世界大戦後60年余の世界共通の大命題である。唯一の被爆国・日本が?核廃絶?の先頭に立つべき時だけに、?久間暴言?を厳しく糾弾すべきだったが、安倍晋三首相の対応の鈍さに驚かされた。?久間暴言?直後、首相は「米国の(当時の)考え方について紹介したと承知している」とだけ答え、不問に付す姿勢だった。久間氏自身も当初「言い方がまずかった」と釈明していたが、?世論の猛反発?に屈せざるを得ず、6月3日「けじめをつけるため」と首相に辞任を申し出て、その場を凌いだ。問題の重大性を即座に感じて「罷免」すべきだったが、首相の問題意識は「自殺した松岡農水相のケース」と同様曖昧で、任命責任そっちのけの?脆弱内閣?の姿を露呈してしまった。 
 
 被爆地・長崎と広島の県紙が連日1面トップで報じ、社説で「核廃絶の訴え」を強調した紙面展開が光った。総体的に、新聞各紙が?久間暴言?を取り上げ、厳しく批判したことを多としたい。 
 
 「1996年、国際司法裁判所も核兵器使用は国際法違反との判断を示した。それは世界の共通認識になっている。その共通認識を形成するまでに、被爆者たちの世界に被爆の実相を伝える血のにじむような努力があった。……久間氏の『原爆理解』は、米国指導者の投下の意図を、自分流に解釈してみせたものに過ぎない。それが解釈できたからといって、行動を容認しなければならない理屈にはならない(長崎新聞7・1論説)。 
 
 「安倍首相の責任も大きい。北朝鮮の『脅威』をきっかけに閣僚や与党幹部から核武装論も浮上したのは昨秋だ。いったんは沈静化したが、核兵器を容認するかのような議論が横行した。安倍内閣の持つこうした空気と久間発言は無縁ではあるまい。首相が非核三原則を生かして独自の平和戦略を立てることに腐心していたら、防衛相からこんな不用意な発言が出ただろうか。首相は、驚きが広がって久間氏に厳重注意をしたが、辞める必要がないとの姿勢だった。その判断も甘かった」(中国新聞7・4社説)。 
 
 「久間氏が『参院選に影響を与えてはいけないので辞めることにした』と弁明しているように、辞任はあくまで間近に迫った参院選対策であり、自らの本意ではなかったことを示唆している。辞任は『しょうがないというわけである。極めて遺憾な態度と言わざるを得ない』(長崎新聞7・4論説)。 
 
 両紙の論調に読者の大多数は共感するに違いないが、?久間暴言?直後の3日、米政府のロバート・ジョゼフ核不拡散担当特使(前国務次官)が「原爆の使用が戦争を終わらせ、連合国側の数十万人の命だけでなく、数百万人の日本人の命を救ったことにほとんどの歴史家が同意すると信じている」と語ったとの特派員電にも驚かされた。個人的見解にしても、米政府要人の傲慢な発言を許容する訳にはいかない。 
 
 「『百万人の物語』は第2次大戦当時の米陸軍長官スティムソンが1947年、発表した原爆擁護論に発する。46年、ハーシーの現地ルポ『ヒロシマ』が広く読まれ、原爆の正当性に対する疑問が米社会に広がった。危機感を持ったスティムソンは『ヒロシマと長崎の破壊が戦争を終わらせた』『(上陸作戦を行なっていたら)米軍だけで百万人以上の被害が生じる可能性があった』と主張した。 
 
 『百万人以上』の根拠は明らかにしていないが、米国では立証されないまま神話のように定着した。ジョゼフ氏の発言もこの流れの中にある。……原爆使用は道徳的に正しかったという論理は、核兵器へのためらいを弱めソ連との核軍拡競争や冷戦に道を開いた。市民の巻き添えはやむを得ないという発想はベトナム戦争やイラク戦争の空爆作戦につながっているのではないか。核の恐怖の時代は冷戦後も続く。北朝鮮の核実験のように独裁国家が核武装したり、テロリストが入手する恐れが広がった。核不拡散は日米の重要課題だ』(毎日7・5社説)との指摘は、ズシリと重い。 
 
 国際紛争が渦巻く今年の「原爆忌」、犠牲者への鎮魂とともに、被爆国日本の核廃絶へ向けての責務を痛感する。     (いけだ・たつお=ジャーナリスト) 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」7月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です。ただし、一部の表現を修正しました。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。