2007年11月29日12時57分掲載  無料記事
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中国

深セン(深圳)の労働者センター襲撃され、中心メンバーが重態 労働契約法施行を前に活動を妨害か 

  中国、深センにある出稼ぎ労働者支援組織が、何者かに襲撃される事件が相次ぎ、11月20日にはスタッフが刃物を持った暴漢に襲撃され、瀕死の重傷を負うという事件が発生した。10月には二度にわたり事務所が襲われ、入口が破壊されたばかりだった。襲撃事件の背後には、08年1月1日から施行される労働契約法の実施を妨害し、労働支援団体に対する攻撃をもくろむグループがいると、労働者センターは声明で指摘している。中国の民衆の動きを伝えるメールマガジン「China Now!」が伝える事件の背景と現地組織、そして香港の支援組織が出した声明を紹介する。(大野和興) 
 
以下「「China Now!」から――。 
http://chinanow.blog28.fc2.com/) 
 
  香港と隣接する深センでは、ここ数年にわたり出稼ぎ労働者にさまざまな労働関連のサービスを提供する民間団体がいくつも登場している。その中の一つ、「打工者−職業安全健康中心」(労働者職業安全健康センター。以下、労働者センター)が、ここ一ヶ月の間に2回も、正体不明の暴漢に襲撃され施設入り口が破壊された。そして11月20日には労働者センター中心的活動スタッフが、刃物で体中を切りつけられるという傷害事件にまで発展した。 
 
  破壊された事務所入り口と襲われた被害者の写真などが、台湾のレイバーネット「苦労網」に掲載されている。 
http://www.coolloud.org.tw/node/12051 
(写真の日付は設定の間違いで正確ではない。 
 
 6月29日に全国人民代表大会で可決した労働契約法が来年1月1日から施行される。この労働契約法は、事業主が労働者を雇用した日から1カ月以内に書面契約を結び、書面契約を結ばない場合には2倍の賃金を支払わなければならないと定めている。 
 
  また、2回連続で期限付きの雇用契約をした後、再契約を結ぶ場合には、これまでより厳しい解雇制限が課される。もちろんそれでも30日前に通告するか、1カ月ぶんの給与を余分に支払うことで労働契約は解除できる。これまではそれすらも必要ではなかった。 
 
  しかしこの最低限の労使関係のためのコストですら、企業は支払いたくはない。その理由は、圧倒的に労働者に不利な労使関係にもあるが、さらには膨大な製品をグローバル市場に吐き出す「世界の工場」中国の企業の多くが、ごくわずかの利潤率によって、「国際的競争力」を維持しているからでもある。もちろん労働者の取り分はさらに少ない。 
 
  襲撃事件の目撃者は、110番で駆けつけた警察が、事件再発には非常に消極的で、事務所破壊についても「1000−2000元程度の被害しかないじゃないか」とはき捨てたことを証言している。「人民警察」は人民の警察から資本の警察へと変わった。 
 
  かつて資本主義を一掃した中国において、資本主義的雇用ルールの旗が暴力の嵐の中ではためいている。それは確立することさえままならない。労働者の団結と国際連帯だけが、資本に雇用ルールを強制させることができる。 
 
  以下は、事件を受けた労働者センターからの訴えと、香港の労働支援組織によるプレスリリースの抄訳である。 
 
(China Now!編集委員会) 
 
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深セン労働者センターの訴え 
 
  みなさん! 
 
  私たちは深セン龍崗区にある「打工者―職業安健康中心」(労働者職業安全健康センター。以下、労働者センター)です。法人登記をしている民間の草の根組織で、出稼ぎに来ている労働者に無償で図書サービスや労働法関連の情報や労働アドバイスを行っています。 
 
  2007年10月11日と11月14日、労働者センターは二度にわたり正体不明の者に襲撃され事務所を破壊されました。11月20日には、登記代表者の黄慶南がセンターの裏手にある龍湖新村地区で刃物を持った二人の暴漢に襲われ全身を切りつけられるという事件が起こりました。私たちは事件のたびに、すぐに龍崗東警務室および龍崗同楽派出所に被害届けを出しました。 
 
  労働者センターは、来年年明けから「労働契約法」法が施行されることにあわせて、このかん同法の知識を広め、多くの労働相談を受けてきました。センターへの襲撃と黄氏に対する刺傷事件によって、労働契約法の実施を公然と妨害し、労働支援団体に対する攻撃をもくろむグループが形成されていることが明らかになりました。 
 
  私たちは11月21日に、速達で深セン市公安局長あてに上申書を送り、深センの警察機関が龍崗のパトロールを強化し、襲撃事件の再発防止に取り組むよう、そして捜査を強化し、早期に犯人を逮捕し、犯罪者を処罰し、労働者センターが納得のいく解決を実現し、同時に深センの社会的治安を維持するよう要望を出しました。しかしいまだ何ら回答は寄せられておりません。 
 
  三度にわたる襲撃によって、わたしたちは経済的損失だけでなく、スタッフの生命さえも深刻な危険に直面し、この地域の人びとの間で不安が高まっています。またセンターに出入りする労働者の仲間の多くが雇われている工場から恫喝を受けたと聞いています。なかには暴行を受けたという仲間もいました。 
 
  これらの事実は、労働者が権利を主張すること、労働支援団体が中国国内で活動することがいかに困難であるかを反映したものです。わたしたちはここに、社会のさまざまな団体や個人が、具体的な行動をおこし、ともに不公正な事件の再発を阻止し、社会の平和と安定をまもることを呼びかけます。 
 
  事件の被害者である黄慶南は、龍崗中心医院で治療を受けており、11月21日には集中治療室から一般病棟に移されました。左背、左腿の損傷が激しい状態です。黄氏は、数年前の労災の傷がいえておらず、それが今回の治療にも影響を与えています。 
 
  さらに設備の整った医療機関や腕の立つ医師による治療が必要なので、紹介してくださる方はいないでしょうか。また治療、リハビリ、今後の生活などのためのカンパを20万元(約300万円)も集めております。 
 
敬具 
 
労働者センター 
2007年11月22日 
 
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香港の団体のプレスリリース 
 
2007年11月25日 
 
  深センの労働者支援団体に対する度重なる襲撃と代表者への刺傷事件 
 
  香港の団体は中国政府に対して犯人逮捕に全力を挙げ労働団体メンバーの安全を保障するよう要請する 
 
  この間、深セン市では労働者支援団体の事務所に対する破壊行為と代表者に対する刃物による襲撃事件が連続して発生した。香港の団体は驚きと怒りを禁じ得ない。そしてこの暴力行為を厳しく批判する。この事件は、深センの一部の既得権益集団が、労働者による権利主張や労働者人民の権利を保障する国家政策に抵抗していることの反映である。 
 
  襲撃を受けた深センの労働者組織---労働者センターは深セン市龍崗区に位置し、法人登記をおこない活動をしている民間の労働者団体であり、出稼ぎ労働者に無償で図書サービスや労働法関連の情報を提供し、労働相談も受け付けてきた。最近では、「労働契約法」が保障する各種の権利を宣伝し、同法が来年の1月1日から施行されるという国家政策にあわせて、多くの労働相談を受け付け、合法的な手段で地域の労使矛盾を緩和する支援を行ってきた。 
 
  おそらくこれらの活動によって一部の既得権益集団の恨みを買い、暴力的手段による恫喝の標的となった。労働者によると、深センの龍崗区、宝安区、東莞などの地域で、不払い賃金を求める労働者に対して暴力が振るわれたり恫喝を受ける事件が多発しているという。彼らは現地の法律執行機関の力量不足に対して深く失望している。今回の事件は単なる傷害事件に留まらず、この地域において公然と中央政府の政策に抵抗する既得権益集団が、暴力的手段を通じて労働者を権利と生命を脅かすという社会問題である。 
 
  われわれは、深セン市政府が、具体的な行動を通じて、このような風潮に歯止めをかけるために、捜査に全力を挙げ、暴漢とその黒幕を逮捕し、住民の安全を守る職責を果たすことを期待する。 
 
  11月20日、被害を受けた黄慶南代表は、労災で入院していた労働者を訪ねるために、労働者センターの裏手にある住宅地区を歩いていたところ、刃物を持った二人の暴漢に切りつけられ、背中、腰、左腿などに10センチもの傷を負わされた。左腿の傷は深く、筋骨、血管、筋肉と神経など全てを切りつけられ、皮一枚でかろうじて切断を免れた状態である。当初は集中治療室で治療を受けていたが、現在は一般病棟に移った。しかし状態は依然として深刻で、回復する見込みは難しい。 
 
  また彼が以前働いていた工場での労災による全身やけどの傷跡によって、皮膚などの伸縮に障害が残っており、それも今回の治療に影響している。われわれは、深セン市政府が、黄慶南氏が適切な治療とリハビリを受けられるよう何らかの支援を行うよう呼びかける。 
 
  事件発生後、労働者センターは、香港の市民団体に対して支援を呼びかけた。これまで中国国内で労働者プロジェクトにかかわってきた、労働力、中国労働透視、アジアモニタリングセンター、企業行動を監視する大学教員と学生アクション、グローバリゼーションモニターがこの呼びかけに応えた。もしも、襲撃を受けた労働者センターおよび被害者に対して公正な対応がなされないのであれば、暴力を助長する社会的雰囲気は一層強まり、それは他の団体にも影響を及ぼし、活動に従事するスタッフの人身の安全にも危険が及ぶであろう。香港の団体は、深セン市政府が、治安維持をさらに強化し、暴力行為を阻止し、民間団体の活動スタッフの安全を保障し、社会の安全を維持することを要請する。 
 
  中国に関心を持ち、中国で労働者プロジェクトに従事する多くの団体は、中国の調和ある社会の発展をまもり、社会の公正と正義を実現し、中国の労働者と民間団体の調和の取れた発展空間を実現しなければならないと考える。 
 
以下の項目を強く中国政府に求める 
 
1.今回の暴力行為を公式に譴責し、全面的な捜査を実施し、犯人逮捕に全力を挙げること 
 
2.深セン労働者センターの正常な活動を支援し、代表者の黄慶南が適切な治療とリハビリを受けられるようにすること 
 
3.中国の国家政策を執行し、現地の労使関係の維持につとめ、暴力的行為を未然に防ぎ、民間団体の活動スタッフの安全を保障すること 
 
スポークスパーソン 
陳順馨(労働力) 
梁宝霖(アジアモニタリングリソースセンター) 
黄月媚(グローバリゼーションモニター) 
丘梓漾粉覿塙堝阿魎道襪垢訛膤惷軌と学生アクション) 


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