2007年12月21日06時52分掲載  無料記事
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歴史を検証する

英議員「欧州議会の慰安婦決議は、日本への大きな期待を反映する」、「日本たたきではない」

 欧州議会は12月13日、第2次世界大戦中の旧日本軍の慰安婦問題について、日本政府に公式謝罪と元慰安婦たちへの援助を求める決議案を採択した。同様の法案の決議は米国(七月)、オランダ(11月)、カナダ(11月)に続いて4回目となる。今回の決議案提出から採択までの中心人物となったのは、ロンドン出身で緑の党所属のジーン・ランベート欧州議会議員だった。電話での取材に応じたランベート議員によると、決議案採択には、日本の過去の女性の人権じゅうりんを現在明確に非難することで今後同様の事態が起きないようにするべきとの思いがこめられている。「民主主義の国、日本への大きな期待を反映」しており、他国からの圧力や、「日本を懲らしめよう」という意図はないと述べた。議員との一問一答は以下。(ロンドン21日=小林恭子) 
 
―13日の決議案はどのような意味合いを持つか? 
 
ジーン・ランベート議員:欧州議会議員が、慰安婦問題を(女性の)人権じゅうりんの具体例と見て、日本政府に対する公式謝罪を求めたものだ。日本政府に行動を起こさせるための法律的な効力があるわけではないが、欧州連合(EU)の代表などが日本政府と連絡を取る時に、決議内容に沿った行動を取るようにと政治的圧力をかけることができる。 
 
―欧州議会のプレス・リリースを読むと、この決議案に賛成したのは54人の議員となっている。全議員数が700人を超えることを考えると、数としては非常に少ないのではないか?少人数の議員が賛同した、あまり民主的ではなく採択された決議ということにならないだろうか? 
 
ランベート議員:採択は13日(木曜日の午後)だったが、この日はクリスマスを前に既に祖国に戻る人もいて、あまり議会に出席する人は多くなかった。賛同数が多くないだろうとあらかじめ予想されていたが、それでもあえてこの日の採択になったのは、11月、人権団体アムネスティー・インターナショナル主催の公聴会が開かれ、元慰安婦が体験談を話した。この時点から既に日本政府に公式謝罪を求めようという点に関して、出席していた議員の中にはほぼ合意ができている雰囲気があった。ある決議案を採択する時、大きく意見が分かれるような場合は、議員が多く集まる時を狙って出すが、今回は反対者が少ないことが既に分かっていた。数は少ないが欧州議会の全体の意向を反映したものと見てよいと思う。 
 
 また、確かに数は小さいが、重要度と言う意味では大きいと思っている。欧州議会では新聞の大きな見出しになってはいなくても、重要なトピックであれば取り上げる。例えば、(スーダン西部の)ダルフール紛争に関しても、私たちはまだ他の人が殆ど関心を持っていない頃から、紛争停止のための行動がなされるべきだと訴えてきた。あるトピックの関心がまだ高くない時点でも積極的に取り上げるのは、様々な問題に関して、議員自身が学ぶという意味もある。 
 
―慰安婦問題の処理に関し、日本政府は過去に一連の謝罪を行なっている。例えば河野洋平氏は、1993年、いわゆる「河野談話」で、慰安婦に対し「心からのおわびと反省」を述べ、当時の村山首相も「女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」として、「心から深い反省とお詫びの気持ち」を表明している。民間からの寄付と言う形ではあったが、元慰安婦への支援として「アジア女性基金」が設立され、元慰安婦たちに一定の手当てを提供した。現在、こうした謝罪やアジア女性基金で一先ずは十分のことをしたとする評価と、まだ不十分だとする見方が混在している。議員自身はどう思ったのか? 
 
ランベート議員:もっと日本政府にできることはあるのではないか、と思った。この時点で明確に過去に何が起きたかを認め、公式に謝罪することで、過去の悲劇をこれから2度と繰り返さないというメッセージを出せる。ダルフール紛争を見ても分かるように、女性に対する暴力は今でも続いている。60年前に起きた暴力行為であっても、政府が責任を問われ、公式謝罪を行なうのだ、ということを日本は示すことができる。 
 
 日本は近代化国家、民主主義国家となった。公式に慰安婦問題に関して政府のスタンスをはっきりと出すことができる。ドイツのことを考えてみてほしい。ドイツ政府は、ナチドイツが過去に行なった行為は現在では受けいられないと示すことができる。「今は違うのだ」、と。過去との決別を今示すことは必要だと思う。 
 
―もともと、何故この問題を取り上げることになったのか? 
 
ランベート議員:アムネスティー・インターナショナルが女性の人権侵害状況を変える運動の中で、元慰安婦たちを欧州議会に呼び、体験談を話させた。体験談の証言は聞いていてつらく、困惑するような雰囲気があった。苦しみの体験は昔起きたものかもしれないが、女性たちは今でも死にそうなほどのつらさを感じていた。 
 
 私は、女性たちの証言を聞きながら、かつて議会の日本訪問団の一員として広島や長崎に行った時のことを思い出していた。広島や長崎では、犠牲者が被爆体験を語っていた。高齢者が次の世代に自分たちの体験を語り継いでいる様子を見た。こうした語りによって、人は過去の出来事の真実を知る。慰安婦の女性たちの体験談と日本の被爆者の体験談が重なって聞こえた。 
 
―カナダでの同様の決議案採択の背後には中国系議員の努力があった。相次ぐ国際社会の謝罪要求決議に、日本では特定の民族や国からの、日本を非難するための「陰謀」が起きているのではないかと考える人も一部にいるようだ。本当に「人権」の立場から、議会でこの問題が決議するところまで行ったのか? 
 
ランベート議員:この問題の裏に「陰謀」が全くないことだけは確かだ。日本たたきではない。国際社会に日本をたたこうという大きな陰謀があるわけではない。 
 
 近代的民主国家としての日本は地球温暖化でも指導的立場にあり、国際社会の中で相当の地位にある。過去を認識することは、民主主義国家だからこそできるのだろうし、(公式謝罪を通して過去と決別することを)大きく期待している。 
 
 また、日本と欧州議会とは定期的に協議の場を持っている。決議案が出たからといって、関係が悪化するのではないことも日本の読者に伝えて欲しい。 
 
―欧州議会の決議案採択の件は、英国のメディアでは殆ど報道されなかった。オランダの決議の件も同様だった。何故か? 
 
ランベート議員:直接英国に関係のあるトピックではない、と言うのがまずある。それと、英メディアは政治、あるいは議会と言うとロンドンの議会のことしか想像しない。内向きだ。国際ニュースも、英語を話す米国が中心だ。 
 
―ランベート議員は人権問題や英国内の難民申請者問題の解決に力を入れていると聞く。イラク侵攻の中心となった英国は、イラクから逃げてきた人々の難民申請を渋るようになっているが。 
 
ランベート議員:確かにそうだ。例えばスウェーデンではイラクからの難民申請者を積極的に受け入れている。英国は腰が重く、政府はイラクが安全になったと言いながら、強制的に難民申請者たちを帰国させている。先日、イラクの議員8人が欧州議会を訪れた。難民申請者が安心して帰国できるとイラクは安全かと聞くと、8人全員が「安全ではない」と答えている。 


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