2008年06月23日17時14分掲載  無料記事
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’08 米大統領選

オバマよ、おまえもか 親イスラエル団体との危険な関係に幻滅

オバマよ、おまえもか 
民主党オバマ候補と親イスラエル団体の危険な関係 
 
TUPエッセイ 
パンタ笛吹 著 
 
2008年6月11日 
 
 
わたしはオバマが好きだ。 
 
忘れもしない。あれは2004年、民主党党大会でのバラク・オバマ上院議員の演説だ。 
 
「ここには黒い米国もない。白い米国もない。アジア系の米国もない。中南米系の米国もない。あるのはアメリカ合衆国だけだ」と高らかに詠いあげたその感動的なスピーチに、「おおっ、ついに米政界にミック・ジャガーが現れた!」と驚いた。あのとき、ジョン・ケリーではなくてオバマが大統領候補だったら、この国はどんなに良くなるだろうと考えたものだ。 
 
わたしの住んでいるコロラド州ボルダー市もまた、オバマファンの多い町だ。6月3日の夜、民主党大統領候補指名が確定したのを受けて、オバマが勝利宣言を行った。わたしはその演説をボルダーのスポーツバーで友人とビールを飲みながら聴いていた。ほぼ満席の客たちは、テレビの大画面に映るオバマが「決め台詞」を言うたびに、拍手とやんやの大歓声。まるでフットボール試合で地元チームがタッチダウンをしたときのような盛り上がりようだった。 
 
テレビに映る会場内は、まるでロックコンサート。ミネソタ州セントポールにある2万人収容の大ホールは超満員で、入りきれなかった支持者がホールの外に1万人以上いたという。人びとは「わたしたちは変革を信じている」と書かれたプラカードを掲げ、ケネディー元大統領以来のカリスマと呼ばれるオバマの一言一言に熱狂的な声援を送っていた。 
 
翌朝、興奮はまだ覚めやらず。新聞はもちろん一面トップに、「オバマ氏、歴史的な激戦に決着」との大見出し。2大政党では史上初の黒人大統領候補の誕生を、まるで祝うようなタッチで報じた。わたしはその朝、指圧を受けたのだが、行きつけのマッサージ師は背中や足を揉む間、前夜のオバマの演説がどんなにすばらしかったかを、ひっきりなしにしゃべりまくった。代金を払うときにも、「オバマがこの国を救ってくれると信じてるわ」と、選挙権を持たないわたしに駄目押しをした。 
 
ところがその夜、まるで断崖から突き落とされるような失望を味わった。 
 
6月4日、首都ワシントンで、米政界に大きな影響力を持つ親イスラエルのロビー団体「米イスラエル公共政策委員会」(AIPAC)の年次総会が開かれた。米国中から7000人ものユダヤ人有力者が集まった【1】。また、次の選挙で AIPAC から支援してもらおうと、会場には約300人の米議員もかけつけた。 
 
それだけでも盛大な政治集会だが、この AIPAC 総会の大目玉は、大統領予備選を争ってきたマケイン、ヒラリー、オバマの三人がそろい踏みで演説するという豪華なメインイベントだ。ビーチボーイズの替え歌で「♪イランをボンボン爆撃しろ」と歌ったマケイン共和党大統領候補や、「イスラエルを攻撃したら、イランを完全に抹消するわ」と語ったヒラリー・クリントン上院議員は、もともとイスラエルよりのスタンスで、AIPAC から多額の政治献金を受け取っているから、総会への参加は理解できる。 
 
しかし、イスラエル・ロビーの反感を買ってまで、イラク戦争に一貫して反対してきたオバマがなぜ? 企業やロビーからの巨額献金だけに頼らず【2】、民衆による草の根的な小口献金で記録的な金額を集めたオバマがどうしてまた? それもミネソタ州で歴史的勝利宣言をした翌日、首都ワシントンにとんぼ返りまでして? 当然のことながら、わたしはオバマが中東和平への画期的なヴィジョンを、AIPAC 総会から世界に向けて発信するものだろうと期待した。 
 
AIPAC 総会でのオバマのスピーチは、語り口といい抑揚といい、人を惹き付けずにはおかない雄弁さに溢れていた【3】。ところがオバマの発する名調子に、途中から「あれっ? そっそんなあ?」と落胆するほどの発言が混じり始めた。しまいには言いようのない怒りさえ覚えてしまった。 
 
いくらイスラエル・ロビーのご機嫌をとるためとはいえ、「わたしはイスラエルの真の友人だ。イスラエルと米国の絆は断ち切ることができないものであり、一心同体だ」と強調するオバマは、あまりにもリップサービスが過ぎた。大統領に選ばれるためになら、なりふりかまわずへつらえばいい、というものでもないだろう。 
 
たとえば、ガザから発射された貧弱なパイプ爆弾で家を壊されたイスラエル人を引き合いに出し「何としてでもパレスチナ人の暴力を止めさせ、イスラエル人の安全を守らなければならない」と強調した。だが、イスラエル軍がパレスチナ人難民キャンプの人口密集地帯に、戦闘機やヘリコプターでロケット弾を落として多数の市民を殺したり、コンクリートの分離壁で町を囲ってガザを青空監獄にしていることなど一言も触れなかった。 
 
2007年の統計によると、紛争でイスラエル人が1人殺されるたびに、パレスチナ人が40人殺されている割合になっている【4】。イスラエル人の命の重さが、パレスチナ人の40倍尊いわけでもあるまいし。オバマはまた、国連参加国の多くがイスラエル非難決議に賛成していることも、イスラエル人が違法に入植地を広げ続けていることも、都合の悪い事実は一切語らなかった。これではイスラエルがパレスチナ人に行っているさまざまな虐待や暴力に「お墨付き」を与えた、と受け取られても仕方がない。 
 
その上オバマは、「エルサレムはイスラエルの首都として永遠に存続するべきであり、分割されることはない」とまで言ってのけたのだ。エルサレムを首都とすることは、国際的に承認されてはいない。ゆえに、米国を含む各国の大使館はテルアビブに置かれている。東エルサレムがパレスチナ領として認められていることをまったく無視したこのような発言は、争いの火に油を注ぐようなものだ。パレスチナ人の心情を逆なでにするこの一言で、アラブ人が抱いていたオバマへの信頼は、あっというまに丸つぶれ。これではオバマが大統領になっても、中東和平は進展のしようがない。 
 
この一方的なオバマの演説を聴いていて、今は亡きレイチェル・コーリーを思い出してしまった。イラク戦争が始まる直前の2003年3月16日、ガザ地区で「人間の盾」として活動していた23歳の米国人ボランティア活動家レイチェルは、パレスチナ人の家屋を破壊しようとするイスラエル軍のブルドーザーを停めようとして立ちふさがり、そのまま轢き殺された。 
 
もしあの世でレイチェルがこの演説を聴いているとしたら、彼女はどう感じるだろうと想像すると、不覚にも目頭が熱くなってしまった。 
 
わたしがオバマを高く買っていたもう一つの理由が対イラン政策だった。 
 
2007年10月31日、ニューヨークタイムズ紙とのインタビューでオバマは、チェイニー副大統領がイランへの軍事行動を示唆したり、上院がイラクの失敗をイランのせいにするような決議案を採択したり、あまりにもイラン政策が強硬だと批判した。そして自分が大統領になれば、イランやシリアの「指導者たちと直接会い」、さまざまな問題について「積極果敢に自ら交渉を行う」と述べた【5】。 
 
ところがオバマは AIPAC 総会でのスピーチの後半で、イランの脅威をヒステリックなまでに糾弾した。オバマともあろう人物が、すでに翻訳ミスと判明しているアハマディネジャド大統領の「イスラエルを地図から抹消する」発言を真に受け、イランバッシングのネタとして使った。これではブッシュやネオコンと似たり寄ったりではないか。 
 
「イランほどイスラエルの脅威になっている国は他にはない。今日の聴衆の中には共和党員と民主党員の両方がいる。しかし、ことイスラエルの安全保障に関する限り、われわれ米国人は民主・共和の党の違いを超えて、肩と肩を並べて立ち上がるということを、イスラエルの敵国は思い知るべきだ。 
 
「イラン政権は暴力的な過激派を援助し、さまざまな地域でわれわれに挑戦を挑んでいる。イランは核開発を押し進め、それは危険な軍拡競争を招きかねない。 
 
「わたしがホワイトハウスの主になったら、イスラエルの安全を守り続けるという、ゆるぎない約束を果たすだろう。その手始めに、イスラエル軍が質的な軍事的優位を備えるための援助を惜しまないだろう。・・・ガザからテヘランまで、どんな脅威が迫ってこようが、イスラエルが自国防衛できるよう確約する。 
 
「わたしは大統領として、米国の持つすべての力を使ってイランに圧力をかけるつもりだ。イランが核兵器を保有するのを防ぐために、全力であらゆることを行う」 
 
ここでオバマはポーズをとり、もう一度「あらゆることをだ」と繰り返すと、7000人のユダヤ系米国人から割れんばかりの拍手が起った。「米国の持つすべての力」とは核兵器も含めてという意味か、また「あらゆること」とは、7000万人のイラン人市民を犠牲にすることも含まれているのだろうか? 
 
昨年11月、米国家情報会議(NIE)が「イランは、核兵器製造の計画を、2003年の秋には中止した」と結論づけたことをオバマだって十分知っているはずだ。またイランは核不拡散条約(NPT)の加盟国で、国際原子力機関(IAEA)による度重なる査察を受けているし、核兵器製造を始めたという証拠はまったくない。 
 
それに対してイスラエルは NPT に不参加で、もちろん IAEA の査察は一度も受けたことがない。それどころか、イスラエルが約200発の核兵器をすでに所有していることは、もう世界の常識にまでなっている。なのにオバマのこの二枚舌、なんという腹芸。 
 
イスラエル・ロビーが強力に米国の政界を牛耳っているというのは、どうやら事実のようだ。だが、われらがヒーロー、オバマまでがそのご威光にひざまずくとは思いもしなかった。わたしの世界を見る目がまだまだ甘くて青いからだろうか。 
 
イスラエル人の票がなければ米大統領になれないのかというと、黒人や中南米系の人口の方がはるかに多いことを考慮に入れれば、一概にそうともいえない。特にオバマの場合は若い世代の圧倒的な支持を得ているので、これほどイスラエル・ロビーに媚びる必要もないといえる。 
 
このスピーチで、シオニズムという神話に魅せられたオバマの真の姿が現れた、とも受けとめられる。ともあれ、イスラエルべったりのオバマの演説で勢いを得たのか、二日後、イスラエルの閣僚がとんでもない「脅し発言」を放った。 
 
6月6日、イスラエルのモファズ副首相兼運輸相は、地元紙との会見で、「もしイランが核計画を続行するなら、イスラエルは攻撃するだろう。経済制裁による事態打開の道は効果がないからだ。イランの核計画を中断させるためには攻撃しか選択肢がない。そしてその攻撃は、米国のサポートがあってこそ実施され得る。・・・アハマディネジャド大統領は、イスラエルを地図から抹消すると言ったそうだが、イスラエルの前にイランが消えてなくなるだろう」と語った【6】。 
 
翌6月7日、イスラエルのベン・エリエゼル国土施設相は、国際社会はイランが核計画を加速的に推進しているのを非難はするが、それは口だけで、実際の制裁には本気で参加していないと、以下のように非難した【7】。 
 
「われわれはイランにこう告げなくてはならない。『貴国がそんなにまでイスラエルを攻撃することを夢見ているならば、その夢を見終わる前に、イランという国そのものがなくなるだろう』とね。・・・イランがイスラエル攻撃を真剣に考え始めるなら、それがどれほど高くつくか思い知るべきだ」 
 
こんな物騒な発言が続くのも、イスラエルが米大統領を都合のいいように操れると踏んでいるからかもしれない。5月28日付けのアジアタイムス紙は、「ブッシュは8月にイラン空爆を計画している」という見出しで、退役外交官のリークを載せた【8】。そのときはガセネタかもしれないと信用はしなかったが、いま読み返すと2週間前よりも現実味を感じる。 
 
オバマの AIPAC 総会での演説に幻滅した者のひとり、時事評論家のジャスティン・レイモンドはこう記している【9】。 
 
「オバマについて、わたしは間違っていたと言わねばならない。『ド間違い』だった。急速に暗さを増すこの世界で、なんとか明るいスポットを見つけたくて、オバマの魅惑的な詭弁にしがみついたのだ。溺れる者が救命道具にしがみつくように。 
 
「しかし希望を間違った人間に託していては、平和の機会を作り出すことができない。それは錯覚を引き延ばすだけだ。これまで以上の恐ろしい争いが起きることが見込まれているいま、わたしたちはニセの救世主を探し求めたり、しがみついたりしないで、真正面から現実に対処しなくてはならない。 
 
「新しい大統領が就任するまえに、米国がイランとの戦争に踏み切ることがほぼ確実となった。オバマがイスラエル・ロビーに降伏した今となっては、神の恩寵がないかぎり、止めることができない。ああ神よ、われらを助けたまえ」 
 
またコラムニストのクリス・ヘッジは、「イランの罠」と題した論評で、こう記している。 
 
「AIPAC 総会でのオバマの演説は、中東の舵取りをする上で、失敗だった。オバマのこの計算違いは、イラン攻撃を画策しているブッシュ政権やイスラエル政権を勢いづかせ、のちのち重大な結果をもたらすだろう。 
 
「われわれが正気な指導者を最も必要としている今このときに、オバマは自分が無責任で弱いということを証明してみせた。オバマも含めて米民主党の指導者たちは、中東で火葬用の薪に火をつけようと準備している指導者たちと同じくらいに、精神を病んでいる」 
 
わたしもつい先日までオバマのファンだった。しかし彼もまた権力を欲しがる政治家で、軍産複合体の信奉者だという面が垣間見えてきた。ただ、ブッシュやマケインよりは百倍はマシかな。 
 
仏陀はさまざまな人びとを救うために、時にはウソをついたという。「ウソも方便」だ。オバマもまた、選挙に勝つために、AIPAC 総会で「タカ派のふり」をしただけであってほしい。大統領に選ばれた後は、元のスィートなオバマに戻ることを願ってやまない。 
 
ああ、ハートブレイクだぜ。 
 
心の中でふくれあがった希望のバルーンが、プシューッと音を立ててしぼんでいく。 
 
 
 
【1】Uri Avnery, "No, I Can't! Obama and The Israeli Lobby," Global Research (June 7, 2008). 
http://www.globalresearch.ca/index.php?context=viewArticle&code=AVN20080607&articleId=9243 
 
【2】政治献金の動向について信頼できる報告を続けている責任政治センター(Center for Responsive Politics)によると、08年5月20日までの集計で、オバマにもっとも多額の献金をしたトップ20位はいずれも個人ではなく団体であり、そのうちウォール街の金融関係企業が6社、他の大企業が5社、そしてロビー団体として活動する法律事務所が5つある。 
 
Barack Obama (D), Top Contributors 
http://www.opensecrets.org/pres08/contrib.php?id=N00009638&cycle=2008 
 
【3】AIPAC 総会で演説するオバマの映像。 
http://jp.youtube.com/watch?v=0cOJNC2EuJw& 
 
【4】イスラエルとパレスチナの死者数の割合は、2006年には30対1、2000年から2005年までは4対1だった。 
 
Chris Hedges, "The Iran Trap," Truthdig (June 8, 2008). 
http://www.truthdig.com/report/item/20080608_the_iran_trap/ 
 
【5】"Interview With Barack Obama," New York Times (Nov. 1, 2007). 
http://www.nytimes.com/2007/11/01/us/politics/02obama-transcript.html?ref=politics&pagewanted=print 
 
【6】Dan Williams, "Israel to attack Iran unless enrichment stops-minister," Reuters North American News Servic (Jun 06, 2008). 
http://wiredispatch.com/news/?id=200782 
 
【7】"West is 'resigned' to Iran bomb: Israeli minister," AFP (Jun 07, 2008). 
http://news.yahoo.com/s/afp/20080607/wl_mideast_afp/mideastpoliticsisraelirannuclear 
 
【8】Muhammad Cohe, "Bush 'plans Iran air strike by August," Asia Times (May 28, 2008). 
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/JE28Ak01.html 
 
【9】Justin Raimondo, "Obama Capitulates? to the Israel lobby," Antiwar.com (June 6, 2008). 
http://www.antiwar.com/justin/?articleid=12944 
 
 
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