2008年06月29日10時47分掲載  無料記事
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農と食

「生きる」ことを深く問う 『写真集 自然農に生きる人たち』

  副題に「耕さなくてもいいんだよ」とある。帯には、草は抜かなくていい、とある。奈良で「自然農」を始めた川口由一さんを筆頭に、日本全国36カ所で「自然農」を営む人たちを、著者の新井由己さんが二輪車で訪ね歩いた記録集(自然食通信社刊)である。(加藤〈karibu〉宣子) 
 
 そこには、それまでの生き方に疑問を持ち、「生きる」ことを問い始めた人たちが、「自然農」にめぐり会い、虫や草とともに生きる姿が生き生きと映し出されている。写真集だけあって写真がいい。一つ一つのケースを読むと、かなりの工夫や苦労が書かれている。しかし、彼らの笑顔が、それでも「自然農」を選び、生活している喜びを伝えてくれる。 
 
 エピローグには「自然農は有機栽培のように栽培技術としてまだ確立されていない」とある。しかし全国で「自然農」に取り組む人たちが増えている。草は抜かずに刈って土に戻す。粘土だんごで有名な福岡正信さんの農業とも違い、苗を育て、「栽培」する。自然農の難しさは、野菜の育て方を知る前に、その土地の環境を理解する必要があるからだという。 
 
 しかし「小石だらけの土でも『芽さえ出れば』だいじょうぶ」と小石がおおう農園。「小石はまったく問題にはならない」と雨宮とも子さんは言う。ゴボウでも大根でも育つのだそうだ。 
 
 近所の特別養護老人ホームの「農業部門」という形で、自然農に挑戦する中村明弘・千恵夫妻と子どもたち。サラリーマン百姓という新しい形の暮らしだそうだ。 
 
 先祖から伝わる茶釜で紅茶を作る岩切義明さん。 
 
 そしてやはり圧巻なのは、川口さんのことばである。一番冒頭の「余計なことをしない、問題を招かない生き方こそ」である。草をひっくり返さなければ、虫や草たちがそこで朽ち死に生命はめぐり続ける。米ぬかや油かすを補うのだが、それは肥料として与えるのではなく、「生活の中から出たものを土に戻すという発想」なのだそうだ。 
 
 半農半Xという言葉が流行りだしている。自給率39%と言われ、格差社会のなかでもがく若者たちが問題になりつつあるなかで、やはり農業の問題を考えざるを得ない。きっとこの本に登場する人のなかにも挫折する人もいるかもしれない。でも、「自然農」との出会いを通じて、「現代の農業のあり方」だけでなく「人間が動植物とも共生することの凄さと難しさ」という深い問題を考えているに違いない。私たちも「本当の命のあり方」を考える時なのだろう。 
 
(定価2000円) 


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