2008年07月07日16時51分掲載  無料記事
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G8

軍事同盟と環境対策は両立しない サミットに場違いな日米首脳会談 安原和雄

  7日から開幕した洞爺湖G8サミットに先立ち、6日開かれた日米首脳会談に関連して福田首相は「安全保障面で日米同盟は飛躍的に強化した」と評価、さらに日米同盟の「一層の強化で一致した」とも述べた。一方、今回のサミットの最重要テーマである「2050年までの温室効果ガス半減」については明確な姿勢を表明しなかった。日米同盟強化には明確かつ積極的な姿勢を示しながら、肝心の地球温暖化問題では腰が引けている印象を与えた。もともと軍事同盟と地球環境対策とは両立しない性質のものであり、サミット前日に「軍事同盟強化」路線を打ち出すとは、いかにも場違いな日米首脳会談となった。 
 
▽日米首脳会談からみえてくるもの―軍事同盟強化路線 
 
 各紙(7月7日付)報道によると、日米首脳会談後に行われた福田首相とブッシュ米大統領の共同記者会見の主な内容は以下の通り。 
 
*福田首相 
・ブッシュ政権が発足した2001年から7年間、日米同盟が飛躍的に強化されたことを確認し、これを強化していくことで一致した。 
・安全保障面では9.11テロとの戦い、イラク復興支援などでの協力、米軍再編の着実な実施、ミサイル防衛での迎撃実験の成功など、日米間の協力が一層固くなった。 
・北朝鮮の拉致問題の解決は重要であり、そのために協力したいと述べると、ブッシュ大統領は私の意見に同意した。 
・気候変動問題は人類が直面する最も深刻な挑戦の一つであり、子孫に美しい地球を残すことがわれわれの責務である。そのためG8に向け引きつづき協力していこうというのが共通の意識である。 
 
*ブッシュ米大統領 
・朝鮮半島全体の非核化のために努力していく。 
・日本国民の皆さんが、拉致問題が無視されないよう切望していることも分かっている。この問題に関して、米国は日本を見捨てたり、置き去りにすることはない。 
・イラクやアフガンにおける日本の貢献に関しても協議した。日本政府にも日本国民にも、他の国々が自由という恩恵に浴せるよう協力していることに感謝する。 
・環境に関しては私たちの共通の相手との戦いである。いま石油に依存している。これからは、そういうことではなく、いろいろ新技術を開発していきたい。そういう課題を協力して進めていきたい。 
 
 日米首脳会談には必ずといっていいほど、公表されずに隠された部分があるが、それはさておき以上の記者会見での発言内容について2つの疑問点を指摘したい。 
 
 第一に、これが平等対等の立場でのやりとりなのか、という印象が消えない。 
 例えば拉致問題についてブッシュ米大統領はこう言った。「米国は日本を見捨てたり、置き去りにすることはない」と。 
 大統領の英語でのスピーチに対するこの日本語訳が適切かどうかは知らないが、これは上位にある人間が下位の人間に向かって吐くもの言いであろう。逆に考えれば、福田首相がブッシュ大統領やメリカ人に向かって「日本は米国を見捨てたり、置き去りにすることはない」と言うだろうか。また言えるだろうか。 
 
 第二は、日米軍事同盟の強化路線と地球温暖化対策とは両立しない、どころか真っ向から対立する。だからこそ地球環境問題が重要テーマであるサミットに臨んで、軍事同盟強化を目論むのは場違いそのものの日米首脳会談というほかない。 
 
まず強大な軍事力をもつ軍事同盟の存在そのものが、地球温暖化をはじめ地球環境問題への適切な対策と対立する。巨費を軍事費に充てることは、無駄そのものであり、環境対策をそれだけおろそかにする。 
 それに軍事同盟は日常的な軍事訓練・演習を求める。それが大量の石油を浪費し、温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)を排出するからである。一例を挙げれば戦車1台が一定の距離を走るのに浪費する石油は自家用車に比べ数十倍に及ぶ。 
 
 さらに現実に軍事力が行使されると、浪費される石油量は膨大な規模に達する。また石油が供給されなければ、実戦は不可能である。日本が米国のイラク戦争のために石油を補給しているのは、文字通り米国主導の戦争への熱い支援となっている。 
 ブッシュ大統領は上記の記者会見で「イラクやアフガンにおける日本の貢献、(中略)協力に感謝する」と述べたのは、決してお世辞ではない。これが軍事同盟推進派が評価する「軍事同盟の証(あかし)」というものなのであろう。 
 
福田首相は「子孫に美しい地球を残すことがわれわれの責務である」と言っている。本音でそう思うのであれば、地球を汚す軍事同盟強化を持ち上げているときではないだろう。 
 
 以上のような視点を一般メディアの論調から発見するのは、むずかしい。以下に大手4紙(7月7日付)の社説の見出しを紹介する。見出しからも推測できるように、福田首相が力説した日米軍事同盟そのものに批判的に言及した論調はうかがえない。 
 
*読売新聞=日米首脳会談 北に核・拉致の「行動」を促せ 
*朝日新聞=日米関係 ブッシュ時代の夕暮れ 
*毎日新聞=洞爺湖サミット 日米連携の真価が問われる 
*東京新聞=日米首脳会談 言行一致で拉致解決を 
 
▽異質の論調 ―「G8サミット」派兵抗議声明 
 
 一般のメディアの論調からはとてもうかがえない異質のメールが届いたので、参考までに紹介する。送り主は杉原浩司(核とミサイル防衛にNO!キャンペーン)で、以下のような抗議声明を7月6日、首相官邸、石破茂防衛相、増田好平防衛事務次官などにファックスしたという。 
 G8サミットの「G8」を「ギャング8」と読み替えるところなどなかなかのユーモアと受け止めた。 
 
【抗議声明】 
「G8=ギャング8」会議を利用した戦争訓練をやめ、自衛隊の撤収を! 
 
 戦争と環境破壊と貧困拡大と食糧危機の元凶である「主要国」の首脳らが集まり、傲慢にも「サミット」と称される会議を口実として、恐るべき軍事化が企てられている。防衛省・自衛隊は、7月7日から始まる「北海道洞爺湖サミット」の警備を名目として、陸海空の各自衛隊による前例のない異常な軍事展開を行いつつある。 
 
 「テロ対処」名目で創設した陸自・中央即応集団の化学防護隊、第1ヘリコプター団等の初投入、昨年12月にハワイ沖で約60億円をかけて迎撃実験を行い、弾道ミサイル迎撃能力(SM3ミサイルを搭載)を持つとされる「こんごう」(佐世保基地所属)を含む2隻のイージス艦と護衛艦約10隻の派遣、対航空機・巡航ミサイル用の迎撃ミサイルPAC2の配備、浜松基地所属の空中警戒管制機(AWACS)とE2C早期警戒機による24時間態勢の空中警戒などに加えて、F15、F2の各2機の戦闘機による会場上空の旋回警戒飛行(CAP)さえもが強行されようとしている。首都圏を中心に各自衛隊駐屯地の警備も強化され、「司令塔」となる防衛省地下の作戦室には、通常より5割増の50人の職員が詰めるという。 
 
 これにより、自衛隊は事実上「G8防衛軍」という恥ずべき姿をさらすことになる。戦争マニアの石破茂防衛相による指揮官気取りの「戦争ごっこ」の本質は、臨戦態勢の予行演習ではないだろうか。とりわけ中央即応集団とイージス艦「こんごう」の初派兵には重大な意味があるだろう。中央即応集団が担うとされる「対テロ」軍事作戦が国内治安出動という危険な側面を持つことが明確に示された。また、こんごうの実戦配備以降初の展開は、配備区域から見てもまさしく対北朝鮮を想定したミサイル防衛の軍事演習そのものだ。 
 
 今回の軍事展開の法的根拠に関する問い合わせに対して、防衛省広報は、「自衛隊法第8条に基づく防衛大臣による通常の警戒監視の一般命令によるもの」としたうえで、「妨害しようとする勢力に漏えいするとまずいので、命令の具体的内容は公表できない」と述べた。命令の内容はおろか、軍事展開を命じる根拠となる情勢判断さえも一切示さないままに軍隊を動かすことは、「シビリアン・コントロール(文民統制)」原則に対する重大な挑戦に他ならない。少なくとも、ロシア、中国の首脳が参加し、米朝関係の外交的改善が進行する最中で、弾道ミサイルによる攻撃などあり得ないはずだ。 
 
 軍事展開は、「環境サミット」の欺まん性をも象徴している。例えば、戦闘機1機は自動車約1万台分の二酸化炭素を排出する。莫大な燃料を消費する1隻1400億円に及ぶイージス艦などの展開も含めて、今や軍事展開は石油の大量浪費以外の何物でもない。サミット会場上空を、二酸化炭素をまき散らしながら戦闘機が旋回する。この会議の、地球と人間に対する暴力性をこれほど明瞭に示す構図もないだろう。 
 
 暴力の元凶たちによる被害から守られなければならないのは、私たちの方だ。自衛隊は今すぐ撤収せよ。警察は過剰警備と不当弾圧をやめよ。G8は解散せよ。 
 
20087月6日 核とミサイル防衛にNO!キャンペーン 
 
[連絡先](TEL・FAX)03-5711-6478 
(E-mail)kojis@agate.plala.or.jp 
http://www.geocities.jp/nomd_campaign/ 
 
 以上は、「 みどりのテーブル」(環境政党をめざす市民グループ)の情報交換MLから入手したキャンペーンである。 
 
*本稿は「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です。 
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/ 


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