2008年09月01日11時15分掲載  無料記事
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検証・メディア

「核廃絶」へ国際的潮流 「原爆の日」を契機に高まる叫び 池田龍夫(ジャーナリスト)

  「核兵器の廃絶を求める私たちが多数派であることは、様々な事実が示しています。地球人口の過半数を擁する自治体組織『都市・自治体連合』が平和市長会議の活動を支持しているだけでなく、核不拡散条約は190カ国が批准、非核兵器地帯条約は113カ国・地域が署名、昨年我が国が国連に提出した核廃絶決議は170カ国が支持し、反対は米国を含む3カ国だけです。今年11月には、人類の生存を最優先する多数派の声に耳を傾ける米国新大統領が誕生することを期待します」。――63回目の「ヒロシマ原爆の日」、秋葉忠利広島市長は8月6日の式典で「広島平和宣言」を全世界に発した。 
 
 核戦争による地球破滅を予言する「終末時計」は、昨年5年ぶりに2分進み、「犹弔蝪喫瓩隆躓‥状況になった」と米専門誌が警告している。 
 北朝鮮の核実験(2006年)が最も衝撃的だったが、イランの核開発への動きや、インド・パキスタン・イスラエルの動向も危険きわまりない。そして、国際テロ組織が核を手にしたら…との恐怖が高まってきた。米露など核保有先進5カ国の「核抑止論」が時代錯誤であることが、一層はっきりしてきた世界の現実。核兵器拡散を早急に食い止め、廃絶への道に踏み込まないと、狠狼綰北猫瓩砲弔覆る。地球環境を守る国際協調(CО2削減)はもちろん重要だが、「核廃絶」こそ加速させるべきだ。国家エゴに固執し続ければ「終末時計」の針は、限りなくゼロに近づく……。 
 
▽キッシンジャー氏らの訴えに共感 
 
 核超大国の米ブッシュ政権に代わって、新大統領が11月に誕生するが、秋葉広島市長が「核廃絶のため、米新大統領に期待する」と平和宣言で述べたのは異例なことだ。9日の「ナガサキ原爆の日」でも田上富久長崎市長が同趣旨の核廃絶宣言を出したが、両宣言には国際的潮流の変化が映し出されていた。米国の核戦略を推進してきた元国務長官ら4氏が発信した「核兵器のない世界に向けて」というアピールがテコになっており、田上市長の宣言文に明記されていた。 
 
 キッシンジャー元国務長官(ニクソン、フォード政権時)、シュルツ元国務長官(レーガン政権時)、ペリー元国防長官(クリントン政権時)、ナン元上院軍事委員長(民主党)が、米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」に昨年(07・1・4)と今年(08・1・15)二年連続で警鐘を鳴らしたことに端を発する。 
 「急速化する核兵器、核のノウハウ、そして核物質の拡散の結果、我々は劇的変化を目前にしている。これまで発明された中で最も恐ろしい兵器が危険な者たちの手に渡る可能性が極めて現実的なものになっている。我々が現在これらの脅威に対処するために講じている措置は、存在する危険から言って十分なものではない。核兵器が手に入り易くなっている現在、抑止は、その効果が下がってきている。一方、抑止に伴う危険は高まっている」とのアピールは、冷厳な指摘だ。 
 
 「核抑止論」に引導を渡すような警告であり、米次期大統領選挙戦を展開中のオバマ氏(民主党)マケイン氏(共和党)も、これに触発されたように「核のない世界」を訴え始めた。 
 
 「核戦争は人類滅亡を招く究極の環境破壊。国益を超えた『地球益』の発想に立てば、核兵器のない世界を求めるのは自然な流れだろう。かつての核抑止論者も変わり始めている。キッシンジャー元国務長官ら元高官四人の『核によるテロや核拡散を防ぐには核兵器をなくすしかない』との提言が、反響を広げている。英国の元外相ら四人が『簡単ではないが、核兵器のない世界は可能だ』と賛同し、イタリアの元外相、国防相ら五人も支持を表明した。 
 (しかし)日本国内の鈍い反応が気がかりだ。中国新聞ヒロシマ平和メディアセンターのウェブアンケートでは、『核兵器廃絶は可能』との答えは海外83%に対し、国内53%。被爆国でありながら、現在の核状況を変えるのは無理と初めからあきらめている人も少なくない。 
 戦後、核の傘に象徴される米国頼みの安全保障体制が続いてきた。その枠内にとどまることを絶対視してきた日本政府の責任は大きいと言わざるを得ない。今また、在日米軍再編を機に軍事協力に踏み込もうとしている。平和国家にふさわしい別の選択肢はないのだろうか。せっかく訪れている核軍縮のチャンス。発想を転換しなければ、それを生かすことは難しい」。 
 「ヒロシマ63年 核軍縮への道開く好機」と題した中国新聞8・6社説は、世界の潮流の変化を見据えた力強い主張だった。 
 
 西日本新聞(8・6社説)も「米欧に『革命的変化』…」と指摘し、「ノルウェー政府はオスロで国際専門家会議を開いて、核廃絶への枠組みづくりを模索し始めた。ノルウェーはかつて中東の和平協定を仲介した国である。今年は国際非政府組織(NGО)と連携して『クラスター爆弾禁止条約』を実現させた。その国が核廃絶への国際合意づくりに動き出した意味は大きい」と指摘。「核廃絶決議案を毎年、国連に提出しながら、安全を米国の『核の傘』に委ねるゆえに国際的な廃絶への動きにはあいまいな姿勢を続けている」と、消極姿勢の日本政府に苦言を呈していた。 
 
▽福田首相の犇疎な誓い瓩房宰勝
 
 朝日・毎日・読売、北海道新聞も「キッシンジャー提言」を重視した社説を掲げており、「核廃絶」へのうねりが一段と高揚した「原爆の日」と言えるだろう。 
 
 しかし、式典での福田康夫首相あいさつの空疎な言葉に失望させられた。「今後も非核三原則を堅持し、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向けて、国際社会の先頭に立っていくことをお誓い申し上げます」との文句を読み上げただけで、唯一の被爆国首相としてのメッセージ性は皆無どころか、形式的文言のお粗末さにあきれ果てた。恒例の牴討離ぅ戰鵐鉢當度の認識に違いないと思い、一昨年(小泉純一郎首相)と昨年(安倍晋三首相)読み上げられた文章と比較したところ、全く同様のフレーズだったことにも驚かされた。非核三原則が形骸化してきた現実を国民は危惧しており、国連における核軍縮討議にも及び腰の日本が「国際社会の先頭に立って…」と叫んでも、誰が信用するだろうか。 
 
 国連に提出した核廃絶決議に反対したのは、米国、インド、北朝鮮。この三カ国だけのエゴで、決議は実らなかった。中でも超軍事大国・米国は、クラスター爆弾など軍縮交渉に極めて冷淡だ。 
 
 「核廃絶に向けて外交をどう展開させていくか。第一に、最強の核保有国である米国に方針転換してもらうことだ。ブッシュ政権は核軍縮に冷ややかだったが、次期米大統領をめざすオバマ氏は『(核のない世界という)ビジョンを現実にするために力を尽くすのは米国の責任である』と語る。マケイン氏も『思い切って世界の核を減らす時がきた』と、米国の指導力を発揮する決意を強調している。この好機を逃してはならない。核廃絶への道程は長いが、まず助走を急ぎたい。米国の『核の傘』の下にいる日本だが、米国の同盟国であるオーストラリア、ノルウェーと提携し、大幅な核軍縮を次期大統領に促すべきだ」と『朝日』8・6社説は述べ、対米追従でない独自外交への転換を強く要望していた。 
 
 「米・印原子力協定」への懸念を示した『毎日』8・11社説も、重大な問題点を指摘していた。 
 「米国がインドとの間で原子力協定をまとめ、核燃料供給や原発建設などのビジネスに道を開くべく国際機関の承認を求めている。核拡散防止条約(NPT)に背を向けてインドが核兵器を持ったことは、この際、大目に見ようというのだろう。言うまでもなく、問題の多い協定である。これでは核兵器を米英仏露中五カ国に限定したNPTが完全に空洞化しないか。インドの核兵器を不問に付せば、北朝鮮に核廃絶を迫りにくくならないか――。そんな疑念がすぐ頭に浮かぶ。 
 …経済成長著しいBRICSの一角をなすインドの核ビジネスは魅力だろうが、パキスタンとの紛争再燃の可能性も含めて、インドは十分に安定した国とは言いがたい。両国やイスラエルの核に対抗心を燃やすイランの出方も不安材料だ。日本はインドの特別扱いに、明快に反対すべきである」という主張は、当面の核政策のポイントを示している。 
 
 「今年五月、クラスター爆弾禁止条約が採択された。九年前に発効した対人地雷禁止条約と同様にNGОと中堅国が主導した。核廃絶への道も、しっかりとゴールを見据え、着実に一歩を重ねていく」(『道新』8・6社説)努力の集積が、核廃絶につながる。 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」08年9月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です 


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