2008年09月12日17時05分掲載  無料記事
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農と食

自由貿易は食料・環境危機を招く!(3) 中国の農業に国際競争力はない アウ・ロンユー(香港)

  脱WTO/FTA草の根キャンペーンが洞爺湖G8(先進国首脳会議)に向け開催した国際シンポで香港のNGO「グローバリゼーション・モニター」のアウ・ロンユーさんは、WTO体制の下で中国の食料自給率は次第に下がっており、それは世界の食糧需給に脅威を及ぼすだろうと指摘。また、中国の農業には国際競争力はなく、農民は国際市場での競争、生産資材の高騰、水不足、など多くの困難を抱え、いまや子どもと女性と老人しか農村にはいないといわれるようになっていると語った。(安藤丈将) 
 
  こんにちは、香港からやって来たアウと申します。今日は中国における食料危機の現状をお話ししたいと思います。 
 
◆次第に低下する食料自給率 
 
  現在、国際的に米の値段が上昇しています。中国の一人当たりの米消費量は、アメリカの1/3です(飼料や肥料用の消費も含む)。その中国でも、今、食料自給率の危機にあります。2001年のWTO加盟以降、食料市場の自由化が進みました。今では中国は、外国から穀物、大豆、綿を輸入しています。 
 
  すでに5年間の移行期間(2002〜07年)を終え、今年から外資による食料加工産業への投資と食料品の貿易ができるようになりました。大豆、綿花、食用油については、近い将来、危機に直面するであろうと見られています。これらを生産する農民は、外国企業と競争する力を持っていません。 
 
  現在、食用油市場は、6〜7割を外国企業に支配されています。国内の穀物の自給率も、低下を続けています。WTO加盟以前には、穀物自給率は98%でしたが、現在では95%になりました。今後は92%まで低下すると予測されています。 
 
  中国の食料自給率が下がっていくのは、世界の食料需要に脅威を及ぼす恐れがあります。なぜなら、中国の食料消費量は、世界全体の5分の1にあたるからです。政府は自分たちにはかなりの備蓄があるので、食料危機にはならないと言っています。もし私たちが政府の公式の数字を信じれば、問題はないでしょう。しかし実際には政府の食料調査の数値は、あてになるものではありません。とりわけ地方レベルの食料調査の数値は、信頼できないことがしばしばです。耕作可能な土地に関する数値も、あてになりません。 
 
  中国における食料危機は、現在のところ、そこまで深刻な問題ではありません。しかしもし中国政府の方針がこのままであるならば、将来の食料危機を招くでしょう。中国では国営の食料関連部門の民営化が進んでいます。これによって外資が中国の食料市場貿易をますます支配するようになり、中国政府が食料市場へのコントロールを失うのではないかという懸念があります。 
 
◆危機にある中国農民 
 
  中国の農業の状況が将来どうなるかも、予測するのが難しいです。ここ数年、国際的にコメ価格が上昇しています。中国のコメ生産者は、食料危機を利用して儲けることができるのではないかという楽観的な予想をしました。実際には肥料価格も上がっているので、かれらが考えているようにはいきませんでした。特に小規模のコメ農家は、肥料の値段の高騰に困っています。 
 
  先ほどタイの農民の方が、中国からタイへのニンニクの輸入による影響についての報告を話されました。中国政府は、現在、食料と果物を輸出したいと考えています。しかしながら、中国、特に北西部では、水資源の不足の問題があります。地下水を過剰にくみ上げることによって、地下水位はかなり低下しています。井戸水をくみ上げるには、地面を深く掘らねばなりませんが、普通の農家はそんなに深く井戸を掘れないので、農業用水が不足しています。水を十分に利用できない農家は、経済的に厳しく、破産に見舞われることもあります。 
 
  米や麦などの穀物生産者は、とりわけ大変です。農薬、肥料、農業機械用の重油など、農業への投資が増大していて、作物を売っても投資を回収しきれません。深い井戸を掘る資金もなく、毛沢東の時代に整備され、今では老朽化してしまった灌漑施設を修理するお金もありません。 
 
  一方、中国南東部では、淡水資源は比較的豊富です。しかし急速に都市化、工業化をしているので、近辺の水系の70%は水質汚染に見舞われています。中国南部においては、農民は自分の生産物を食べたがらないのです。そうした農地のすぐ近くには工場が設置され、そこから工業廃水が川に入っていきます。過去10年間、数百万人の農民が、土地を手放しました。大豆や綿花などの国産品は、安い輸入作物との競争にさらされ、負けてしまうからです。 
 
  一般的に言えば、中国の穀物農家に国際競争力はありません。農産品の中で国際市場における競争優位を保てるのは、野菜と果物ぐらいのものです。もし私が日本の農民ならば、わざわざ中国に行って農業をしようとは思いません。中国で農村に行く人は、「16・38・99」と言われています。1月6日は子供の日、3月8日は国際女性の日、99は老人を示します。子供の日、女性の日、老人しか農村に帰らないのです。それくらい農業と農村には、人気がありません。 
 
◆食料主権と民主主義を獲得しよう 
 
  現在、中国の官僚の中には、食料危機に関して異なる二つの立場があります。一つは食料危機を懸念して、多国籍アグリビジネスによる食料輸入に対して障壁を設けるという立場です。もう一つは、食料自給率の維持を断念して、国際的な農業市場への統合を強め、食料の輸出を進めていく立場です。 
 
  今のところ、将来の方向性ははっきりしていません。どちらの立場がヘゲモニーを握るかで、決まってくるでしょう。 
 
  私は、現在の危機に対する解決法として、食料主権という考えを支持しています。食料主権を確立するには、食料生産の部門だけでなく、他の経済部門にも民主主義が必要です。たとえば、資源の利用に関する民主主義を確立するといったことです。実際に働いている人に資源が渡らなくてはなりません。グローバル化が進んでいる昨今なので、農村の問題、食料の問題を考えるとき、現在の世界を支配している資本主義の力に対して、何らかの対抗をしていくことが大切です。もちろん現状を踏まえたうえで、スタートしなくてはなりませんが。 
 
  中国の農家も労働者たちも、草の根のレベルから抵抗を始める必要があります。自分たちの声が聞き届けられるよう、自分たちの権利を得ることができるよう、たたかっていかなくてはなりません。今私たちがおこなっているような国際フォーラムは、至る所で開かれていますが、中国の農業者や労働者団体の代表に会ったことはありません。 
 
  私たちは労働者に対して、ヨーロッパで講演をして回るツアーを企画したことがあります。自分たちの働いている会社に対して、疑問を呈するような話をしてもらいたいと要請したのです。ところが実際に講演する段階になると、まったく政府批判をしませんでした。それでも、ツアーが終わって帰国したら、政府に呼び出され、警告を受けました。ヨーロッパに行って、講演ツアーをしたら、それは国を裏切る行為であると言われました。次に同じことをしたら、刑務所行きだとも言われました。中国の農民や労働者は、まず、結社の自由、言論の自由を獲得しなくてはならないでしょう。 


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