2008年10月16日12時12分掲載  無料記事
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農と食

中国食品汚染の根本原因は共産党独裁下の腐敗と社会的不公正 周勍(中国のフリージャーナリスト)

  汚染牛乳だけではない。今度は中国から日本に輸入された冷凍インゲンから殺虫剤が検出された。だが中国では食品汚染がほぼ普遍的に起きているという。なぜなのか? 根本原因は共産党の一党独裁体制にある、と中国のフリージャーナリスト周勍氏は指摘する。同氏は養豚を例にあげて、食品安全を管理する集団管理体制の無責任体質と腐敗、さらに農民を社会の最下層に追いやる不公平な社会制度を鋭く批判し、これを放置すれば食品問題は体制全体を揺るがす導火線になりかねないと警告する。(納村公子) 
 
 農業を主たる産業とする中国中部の河南省に、中央で農業部門を主管する副総理が現地省政府の役人たちを従えて養豚農家を視察したときのこと。養豚場の豚はどれも毛並みがつやつやとし肉もたっぷりつき、堂々たる体格をしているのに役人たちは目を見張った。しかし養豚場のすみには痩せて薄汚い豚が数頭いるのも目に入った。 
 そこでなぜこうした違いがあるのか、副総理が農民に尋ねたところ、農民は、見た目のいいのは「痩肉精」(痩肉=赤身。塩酸クレンブテロールを使った薬物)を食わせているのだという。これを食べさせると肉が鮮やかな赤になり高く売れるからだと答えた。そしてこれは都市向けのもので、自分たちはふつうの豚を食べるというのだ。 
 副総理はびっくりして言った。「痩肉精は人体に有害なんですよ!」 
 だが、農民はあっさり答えた。「わかっています。でも街の人は公費で医療が受けられるから大丈夫です」 
 
 社会の最下層で生きている農民たちには、うっぷんを晴らすための彼らより下のイジメの対象はない。だから、豚を使って都市市民に復讐することで麻痺した良心の口実にしたのだ――というのでなかったら、最低の社会保障すら与えてくれない不公平な社会に対する報復であり、日ごろ彼らを搾取する高官の口に汚染豚が入れば、彼らは溜飲を下ろすだろう。 
 
 社会公正がなければ社会に希望は持てない。汚染食品もこの不公平な社会制度の反映にすぎない。中国共産党がつくり出したこの制度、党の存続のためでしかないこの体制をどうにかしなければ、すべての悪い現象はひどくなる一方となる。 
 
 「痩肉精」汚染のひどさについて、第17回党大会で「特進」した習近平は、福建省省長だった2001年1月27日、CCTVのインタビューで省内でこうした事件が起きていると述べている。これが事件の始まりだった。だが「痩肉精」はそのころから科学研究上普及項目であった。 
 
 私の画家の友人は日ごろ豚レバーが好きで、酒のつまみによく食べていた。しかし、あるとき絵の仕上げのとき手が震え、失敗作になってしまった。震えの原因は何なのか。病院で検査したところ、塩酸クレンブテロールの害だという。以後、そうした豚肉をやめたところ病状は快復した。 
 
 「痩肉精」害の最もひどいとき、100人以上が被害を受ける事件が数百回起きていた。軍人や運動選手も中毒している。しかしなぜかいくら禁止しても事件は発生する。 
 その直接的な原因は、食品安全管理上で行われている集団責任制にある。 
 1頭の豚の出産から解体、販売まで中国では8つの部門が共同管理している。豚が生まれて飼育されるまでの過程は農業部門である。農業部門はこれを利用して飼料を生産する企業に生産許可証という特権を発行し、許可費を徴収する。豚の飼育期間の衛生防疫は衛生部門が担当し、防疫費を徴収するのだが、養豚農家が具体的な防疫対策を行うかどうかには関与しない。豚の解体の際は工商局が管理し、解体費を徴収するが、豚が解体基準に合っているかどうかにはかかわらない。 
 もしこの間に問題が起こったとしても、これらの部門は責任をなすりつけあうだけだ。責任範囲が入り組んで責任の所在がはっきりしない制度のために、典型的な無責任体制ができあがっている。 
 
 これらの部門が養豚の管理権をほしがるのは、許可証を発行することで費用を徴収することができるからだ。こうした費用は税金ではなく、全部それぞれの部門の金庫に収められる。もっとこわいのは、食品安全を管理する部門でありながら、問題が起こるのを期待していることだ。 
 昨年3月、アメリカ向けペットフードに問題が発生し、各方面からの関心が高まったとき、各部門はこのときとばかり上級部門に食品安全確保のための予算を要求したのだ。その予算はどう使われたのか。養豚を例にとれば、彼らは30万元(約450万円)ほどで車を購入し、せいぜい2万元(30万円)の検査ボックスを買ってそれを車に載せ、「食品安全検査カー」に仕立てる。 
 これをあちこちに走らせて人目を引く宣伝工作をやる。だが、豚肉の安全性などには誰も責任を負ったりはしない。だから、もし予算の60%でも食肉安全のために使ったりすれば、それはよい役人だと言うことができる。 
 
 いくつもの部門があっても1頭の豚さえ管理できない。こんな状況が続いていくとしたら、われわれ納税者が養っている役人の群は1頭の豚にもおよばないと声をあげるしかない。現在、こうした食品安全を脅かす事件が頻発している原因は、まさに旧ソ連が墓穴を掘ることとなった硬直した官僚体制にある。組織や集団の利益のためなら何をしてもかまわない。――中国共産党は、ソ連共産党の跡を追って自身の葬儀へ向かう道で暴利をむさぼる政党なのである! 
 
 歴史を見れば、1917年、ロシア帝国が倒れたのは当時の首都、サンクト・ペテルブルクでパンがなくなり、民衆が抗議デモを始めたことがきっかけだった。1981年、食肉供給の問題が引き金となり、ポーランドの社会主義制度が揺らいだ。――ポーランド政府が食肉供給の20%削減を発表したことで社会が動揺し、主婦たちも堪えかね、ワルシャワなどの主要都市で数千人の市民が「肉を食わせろ」というスローガンを叫んでデモを行った。こうした事件は旧ソ連や東欧諸国で起きている。 
 
 いま、食品安全の問題はまさに中国で社会的事件を引き起こす導火線となっている。 
 
翻訳=納村公子 


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