2008年12月14日09時09分掲載  無料記事
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社会

止まぬ在日朝鮮人に対する人権侵害 11・27強制捜査の当事者、立会人の証言 

 すでに朝鮮新報などで報じられているが、去る11月27日、上野の朝鮮商工会館付近は300人以上の機動隊が押し寄せた。“税理士法違反容疑”で同施設に対して警察による強制捜査が行われたのだ。世界人権宣言が採択され、今年で60周年。それにあわせて行われた在日朝鮮人・人権セミナー主催「世界人権宣言60周年記念集会 悪化する日本の人種差別」という集まりに、11月27日の強制捜査を受けた商工会職員、捜査に立ち会った弁護士などが参加し、一連の捜査の異常性とその後の状況について報告した。(村上力) 
 
 
◆強制捜査の発端と経過 
 
  強制捜査に立ち会った古川健三弁護士氏によれば、11月27日の上野の在日本朝鮮東京都商工会(以下、東京都商工会)、在日本朝鮮人商工連合会(以下、商工連合会)に対する強制捜査は、10月29日の在日本朝鮮東京都新宿商工会(以下、新宿商工会)への“税理士法違反容疑”を口実にした強制捜査に端を発している。古川弁護士はこの二度の強制捜査に立ち会った。 
 
  新宿商工会への強制捜査は朝の7時から夕方17時にわたり100人以上の機動隊を動員し行われ、それと同時に商工会会員などに対して公安警察による事情聴取が開始された。 
この強制捜査の後、任意捜査に応じた新宿商工会元職員が税理士法違反で11月27日に逮捕された。ちょうど同じ日に同商工会の上部組織である上野の東京都商工会、商工連合会に対し、同じ“税理士法違反容疑”で数十人の捜査員と300人ほどの機動隊を動員し強制捜査が入った。その際に抗議活動を行っていた青年が“公務執行妨害”で逮捕、翌日に釈放される。 
 
  12月3日、逮捕された新宿商工会の元職員のサポートをしていた青年が逮捕される。古川氏によると、10月の強制捜査の際に行われた事情聴取にこの青年は応じなかったという。翌日にこの青年の自宅に家宅捜索が入った。 
 
◆明らかな異常に浮かぶ疑問 
 
  大まかにこういった流れで捜査が行われた。ここから、いくつかの疑問、問題点が浮かび上がる。 
 
  まず、東京都商工会とはどういう組織なのか。商工会職員の李(仮名)氏によれば、戦前から日本に住んで商工業を営む人たちや、戦中に強制連行で日本に連れてこられた人たちが、言語の問題や差別などにより戦後日本の会社に就職することができない状況にあった。そのため零細な商工業や鉄くず拾いや建築現場などでの重労働に重視しなければならない人も多く、彼らの多くは税務申告をしていなかった。こうした状況を背景に、商工会は税務当局からの要請により1945年の10月に設立され、人員・融資の斡旋、情報の提供、経営の指導、同業者組合の設立など多岐にわたる業務を60年間続けてきた。関連するいくつかの納税貯蓄組合は税務署から表彰を受けている。 
 
  古川弁護士は「零細な企業家の中には確定申告をしないものもあるので、税務署はこういった商工会の活動を喜んでいる」と話す。 
 
  その商工会に今回、“税理士法違反”ということで強制捜査が入ったのだ。基本的に犯罪や法律違反というものは被害者が存在して成り立つものだが、一体、誰が被害を被ったのだろうか。なぜ“税理士法違反容疑”の捜査に機動隊数百人を動員しなければならないのだろうか。 
 
  税理士法違反というものは税理士ではない人間が申告書の作成に携わってはいけないという法律である、古川弁護士は「税理士法違反での判例は確かにあるが、全部執行猶予つきの判決が下っている、微罪の微罪」だと話す。本来、税理士法違反容疑の捜査は税務署からの告発により行われるのだが、今回は警察、それも公安部の外事二課(東アジア、主に北朝鮮担当)がいきなり動いた。 
 
  今回は10月の新宿商工会への強制捜査に続いて、11月の東京都商工会、商工連合への強制捜査となった。ここでも、一体なぜ“税理士法違反容疑”の捜査が上部組織に波及するのであろうかという疑問がわく。商工会の実際の業務は殆ど現場の人間の判断で行われるので、上部組織は全く関与していないので捜査したところで関連資料は出てこない。現場に立ち会った古川弁護士によれば、実際に東京都商工会の捜査の際はごく少数の資料しか押収しなかったという。 
 
◆公安警察の策謀 
 
  このことは、今回の一連の捜査と逮捕劇が、公安警察による恣意的なものであるということを示している。異常捜査といってよい。彼らの意図とは一体いかなるものだろうか?古川弁護士と李氏はいくつかの指摘をした。 
 
  その第一は、今回のような“税理士法違反”のような微々たる違法行為に対する容疑に、こういった大規模な捜査を行うことは、一般市民の在日朝鮮人への不信を煽ることを意図したのではないかということだ。10月の新宿商工会への強制捜査の際、同会会員に対して公安警察が直接電話をした。「こういった行為は会員らに恐怖を与え、同商工会の規模の萎縮を狙ったもの」ということがいえる。李氏によれば現在商工会関係者、総連関係者はリース契約がすべて組めなくなっているという。 
 
  第二は、みせしめ。12月3日の元職員のサポートをしていた青年の逮捕は「出頭しなければ逮捕する」といわれた。また、同日の東京都商工会、商工連合会に対する強制捜査への抗議行動に参加した若者がいわゆる“公防”で逮捕された。その状況を見ていた古川弁護士と李氏によれば、抗議の集まりに機動隊が迫り、一人を引っこ抜いて7〜8人で上から寄って集って殴る蹴るなどの暴行をしたという。これは抗議に参加した者に対しての大きな脅しになる。 
 
  公安警察は、情報収集を図るためにしばしば今回のような微罪を口実に強制捜査、家宅捜索などを行っている。古川弁護士は11月の強制捜査で捜査員が押収した資料に対し「それは関係ないだろ」と強く指摘したところ、捜査官は「じゃあやめときます」と言ってすんなりやめたという。捜査とは関係の無い資料を持っていこうとしたのだ。 
 
◆親を殴ってもしょうがないから、子供を殴るのか!? 
 
  こうした“事件”がなぜ起こるのか。その背景を古川弁護士と李氏の話をもとに二つの側面から考えてみた。一つは「国家意思」ともいえるものだ。 
 
  このような在日朝鮮人に対する国家的な人権侵害は、北朝鮮に対する経済制裁などの圧力の一環として行われていると李氏は指摘する。 
 
  11月27日の捜査はその後の6カ国協議を控えた中で行われた。10月29日の強制捜査の前に米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除した。そして日本政府は北朝鮮の核無能力化のためのエネルギー支援をがしない見解を示している。 
 
  内閣官房副長官である漆間巌氏は10月29日、「拉致を実行した党、軍に直結した特殊機関に日本政府のメッセージが伝わるようなルートをどう開拓するかだ」と発言している。李氏によれば、漆間巌氏は04年〜07年まで警視庁長官を務め、その頃朝鮮総連関連施設に対し「事件化できるものは全て事件化しろ」「商工会を徹底的に行け」と発言している。そして伸べ123箇所へ強制捜査が行われ、25人が逮捕されたという。 
 
  李氏はまさしく「親を殴ってもしょうがないから子供を殴ろう」という状況になっているという。季氏によれば、このセミナーが行われた日の午前中に、商工会関係者による会合が行われ、そこではこういった人権侵害が公然と行われる中で「はたして“人権”自体、我々にあるのか?」ということさえ討論されていたという。「我々は別に特別扱いを受けようとは思っていない。なぜ他と同じ扱いをしてくれないのか?我々は一体どうすればいいのか」と正直な思いを述べた。 
 
◆日本の「市民社会」による差別、排外主義 
 
  “事件”の背景として、もうひとつ見逃せないのは、日本の市民の意識という問題だ。 
 
  この事件は在日朝鮮人に対する人種差別、人権侵害のほんの一例にすぎないだろう。このほか年金制度、朝鮮学校への助成金、総連関連施設に対する差別的な課税措置などの制度的な差別が未だに存在する。しかしながら我々日本の市民社会は、国家的な人種差別・人権侵害に対してあまり声を上げられていない。「あの北朝鮮だからしょうがない」というような解釈が公安・右翼・マスメディアにより植えつけられ、まかり通っているのだろう。 
 
  それどころか我々日本の市民社会による在日朝鮮人への差別、その最たるものである暴行、襲撃、「チマチョゴリ事件」などの民族性を否定する事件は後を絶たない。李氏の友人も、かつて駅構内でいきなり首を絞められ、今現在精神的に障害を負っているという。こういった状況を差し置いて、我々は日本を“法治国家”や“民主主義国”などと言うことは憚られる。 
 
  12月5日、国籍法が改正された。これにより今まで外国人とされていた日本人の子らが、父親の認知により日本国籍を取得できるようになる。たしかに法案自体には問題点が存在するかもしれない。しかしながら、我々日本の市民社会の多くは、これを“売国法”などと揶揄し反対している。例えばMixiではこの記事に関連する700以上の日記がかかれたが、ほぼ全部の日記がこの法案に反対している。中でも“チョン”や“売国奴”などの差別的な言葉が目立つ。今後の我々日本社会の人種差別、排外主義運動に拍車をかけそうだ。 


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