2009年01月03日17時24分掲載
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中国
「『０８憲章』はごく基本的な権利の宣言にすぎない」 署名者・戴晴へのインタビュー
中国当局が神経をとがらせている「０８憲章」について、署名者の一人、戴晴女史がインタビューに答えた。戴晴は、中国人民解放軍の創立者で全人代常務委員会委員長を務めた葉剣英の養女で、いわば共産党エリート。天安門事件以前、記者として体制に反論する立場をとり、三峡ダム開発に人権擁護と環境保護の立場から反対をとなえ、天安門事件で投獄される。現在北京在住。作家活動と環境保護活動を続け、１９９３年に米ゴールドマン環境賞受賞。現在も中国の言論界では強い発言力がある。（納村公子）
戴晴は、『０８憲章』が宣言する公民権はあまりにも基本的なもので、社会変革の綱領と見るべきではないとしている。中国では権力者資本主義への転換がなされているが、「最も基本的なものもなく、どうして現代社会と言えるのか」との見解を示した。彼女は、中国の希望は自分が一人の人間であるべきだと自覚する人が増えていることにあるという。
戴晴は８年の歳月をかけて追い続けた『張東蓀売国事件』を香港で出版した。これは作家としても記者としても名の知られた戴晴が、この数年、心血を注いできた二つの事柄の内の一つである。この案件が中華人民共和国で最も古い、最高機関の決定による誤審事件でありながら、なぜか上層部はいまだに誤りを正そうとしていない。戴晴は、この数十万字に及ぶドキュメンタリーにより、読者とともにその理由を探り出そうとしている。
戴晴が心血を注いできた事のもう一つは、中国が主催したオリンピックである。彼女は一貫して反対の態度をとったが、その理由は中国がまだ盛大なパーティを開いて賓客をもてなし、大掛かりなパフォーマンスを披露できるような段階にはない、というものだ。本誌のインタビューを受けた時、戴晴は歯に衣着せずこう言った。「盛大なパーティを開いてお客様をもてなすには、家族みんなが豊かで幸福で、門を開け放ってみんなで思いきり楽しく食事をすることができなくてはいけません。問題は、当局の背後にあふれる被災者が、当局に深い恨みを抱いている。無駄遣いをしている場合じゃありません。自国の状況を良くすることが先決です」
時代のうねりに翻弄される宿命を負った戴晴は、天安門事件後、投獄された。ここ数年は環境保護などの事件やその領域に関わっているが、中国の発展状況を問題にして当局にマークされた。最近は『０８憲章』の署名者として、またマークされている。署名者に多くの学者や社会活動家が名を連ねる『０８憲章』は当局をひどく緊張させ、発起人の一人である劉暁波が逮捕された。戴晴もまた署名者の一人である。中国のために正義の声を上げる機会があれば、そこには必ず彼女がいる。
インタビューは香港の銅鑼湾（コーズウェイベイ）にあるレストラン「老北京」で行った。戴晴は「郷に入れば郷に従え」で流暢な北京語で話した。当局が我々一般庶民を軽んじていることを批判し、人のごく基本的な生存の権利を反映した『０８憲章』について話した。「署名した時は別に感慨無量というわけではなかった。絶対に死んでもやる、なんて気持ちはありませんでした」と戴晴は言った。劉暁波から電話があり、メールを見たかと聞かれたので、メールボックスを開いてそれを見たあと、「いいわよ」と言ってすぐに署名した。
戴晴はこう指摘する。「『０８憲章』はあまりにも基本的。私たちにも言うべきことはある。口にするのも恥ずかしいけれど、私は国を愛しているし、政権党のことを気に掛けているからこそ、言っているわけで、そうでなければ黙っている。ただのひとり相撲です。違いますか」
以下はインタビューの概要である。
──『０８憲章』の発起人、署名者の中には経済学者の名がほとんど見られませんが、これは３０年前の「真理の基準論争」（訳注：１９７８年、��小平派から出された「実践は真理を検証する唯一の基準である」とする評論によって、従来の極左的な毛派を批判した）時代の背景と共通するものでは？
戴晴 原動力となっているものは違うと思います。真理の基準問題討論と第１１回３中全会（訳注：１９７８年末の党中央共産党会議。これによって毛沢東の革命路線から実用主義の近代化路線に体制が転換する）後の改革開放は、事実上政権党が変革を必要と感じ、権力と限りのある知恵をしぼって、中国にまずまずの８０年代をもたらし、１９８９年の天安門事件の段階にまで発展させましたが、そこで断ち切られました。多くの人が胡耀邦と趙紫陽を同じ側と見ていますが、実はこの二人には違いがあります。
胡耀邦は党内の改革派でした。趙紫陽は共産党のあらゆるものをひっくり返そうとして、経済制度全体から変革を生み出そうとし、将来共産党の指導者は必要なくなるのではと考えていました。ここが違います。ただ、原動力となったのはどちらも共産党幹部であったこと、権力と発言権、決定権を持ち、ある程度の資源を手中にしていたことです。
前々から間違っていると思うところがあります。��小平を評価する時、「経済体制改革だけをして、政治体制改革はしなかった」と言われますが、実際はそうではありません。政治体制改革はやらずに済まされないものです。彼らはずっとそれをやっていて、今はもう完成に向かいつつあり、権力者のための資本主義を完成させました。権力者資本主義の中心人物、それを設計した者――すなわち経済学者、�勸頁�らです。以前はみな私の友人で取材相手でしたが、彼らはずっとこの道を歩んでいます。何が変革なのやら、でもこの道が彼らの理想で、実現させました。
署名者の中にこうした人物がいないのは当然です。多くの経済学者は特権階級を代表している。支配者の犬です。署名者は一般庶民の利益を代表しています。哀れな経済学者たちは、学術上の良心を第一優先としません。自分の利益が第一です。経済学者の名に値しない、名ばかりの、権力者が新たな政策を打ち出す際に解説を加える者に過ぎません。
──社会は変革の時を迎えているのでしょうか？
戴晴 いいえ。見るからに社会の矛盾は激しく、経済格差はとてつもなく大きい。当局は警察を動かす以外に手立てが無く、変革が起ころうとしているかのように見えます。けれども私が聞きたいのは、何が変革の原動力となるのか、どんな力が変革を成功へと導いてくれるのか。それが見えません。被災者なのか、移民なのか、楊佳か、また別の何かなのか。どれも違う気がします。『０８憲章』を社会変革の綱領とは言えません。みんな心の底から叫んでいます。「中国はイカレちまってて話にもならない、どうすりゃいいんだ、この先どうなっちまうんだ？」とね。けれども次の段階をはっきりと見定めている人はいません。綱領と見ることはとてもできない。変革の夜明けはまだ見えません。
──『０８憲章』の意義をどう評価しますか？
戴晴 言えるのは、ある人々が「中国はごく基本的な事すら出来ていない、何が現代社会なものか」と思っているということだけです。一部の金持ちは含まれません、だって彼らのお金は弱者を犠牲にして得たものでしょう。一番弱い者は声を発することすらできない河川や鉱山、森林、そして労働者たちです。あれは啓蒙的な、スローガンのような、遠い未来図のような理想であって、行動するための綱領ではありません。見たところとても単純な、人と社会が存在する上でのごく基本的な生存条件です。実際にやるべきなのに出来ていないこと。けれども行きたい方向へと通じる道すじがまだ見つかっていません。
原文＝『亜洲週刊』紀碩鳴記者
翻訳＝吉田弘美
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