2009年01月26日13時53分掲載  無料記事
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中国

中国の政治的トンネル  魏京生

openDemocracy  【opendemocracy特約】世界は経済危機のただ中にある。それは、2009年にはさらに深刻化するであろう。西側の人の一部には、溺れる者が藁をもつかむような対応をする人がいる。彼らは言う。中国政府はたくさんのお金を持っている。だから、われわれを危機から救ってくれるようにアピールしよう。そこでは、彼らが理解していないことがある。北京の政府は世界はもちろん、自国をどのように救うことができるか分からないということを。 
 
 中国は2兆ドルの外貨準備を持っている。だが、この富の外観は、富める者と貧しい者の間の巨大な格差を覆い隠している。中国の富の70%は、その市民の0.4%の手の中にある。一方、2億400万人、人口の16%は1日1.25ドル以下の収入しかない(2005年の世界銀行のデータによる)。この極端な富の集中は、中国政府にとって深刻な経済的問題であるだけでなく、政治的問題でもある。 
 
 第1に、これは国内市場を維持するには、あまりにも少ない消費者しかいないということを意味する。新しい「世界の工場」は、世界経済の運命に極めて依存している。中国の輸出は2008年12月に2.8%下落した。10年間で最大の減少幅になった。中国の輸出販路の多くは崩壊しつつあり、これに伴って国内景気も下落させている。都市部の公式の失業率は4%であるが、これは信頼性がなく、もちろん過小評価したものである。まともな統計学者によれば、20%以上であるかもしれないという。中国の経済危機は、米国や欧州のよりずっと厳しいものである。 
 
 第2に、失業が増大し、賃金が低迷すると、大金持ちと中国の政治支配者に対する憤りが高まるであろう。2009年1月26日ごろの中国の旧正月の後、多くの労働者が都市に戻ってきても、工場は閉まっており、仕事はなくなっているであろう。多くの他の者はより家に近いところにとどまるが、地方にも仕事はないであろう。政府は彼らの反応を恐れている。 
 
支配の落とし穴 
 
 2008年11月、北京当局は米国にならって、不況から脱するために4兆元(6000億ドル)の公共支出政策を発表した。これは、中国ではうまくいかないであろう。その政府は人民によって選ばれたのではなく、その政策は官僚資本家の利益のために行われているのだ。この政策の受益者は、一般の中国市民ではなく、資産を中国の外の安全な場所に動かすことができる支配エリートに関係を持つ大企業の所有者である。 
 
 中国政府は 追い込まれている。その富と権力の多くの源泉である官僚資本家階級を助ければ助けるほど、国民の大多数との関係をますます悪くさせる。唯一の脱出方法は、1930年代のフランクリン・ルーズベルトのニューディールのような計画で、困窮し、仕事のない中国人を助けることであろう。 
 
 この方針を取らないと、それ自身の崩壊につながる中国人民の蜂起の危険がある。中国の多くの部分で、暴力に転換している住民の不満という山のような証拠がすでにある。政府の統計でも、「突発事件」(抗議に対する公式の婉曲表現)は2006年の8万件から、2008年には恐らく10万件に増えている。この不満の風潮は、中国の歴史が繰り返してきたものである。それぞれの王朝の終わりは、暴力の最高潮で特徴づけられた。 
 
 それに対して、軍事的抑圧はうまくいかない。軍の下級歩兵は、仕事を失った地方出身の労働者の親類である。将校の家族も、経済の低迷に苦しむであろう。しかし、中国政府は大金持ちのビジネスマンと官僚の階級に依存することはできない。なぜなら、この特権階級は、その富と権力を守るために政治的にも行動するからである。 
 
 中国はなにしろ、これまでに多くの内部エリートの政治クーデターがあった。それは1970年代に歩みを速めた。1971年の毛沢東に対する林彪のクーデターの失敗から、文化革命を終わらせた1976年の華国鋒による「4人組」の打倒まで。経済危機に対処するトップの顔のすげ替えは、中国の深い構造的問題にとって一時逃れの手段ではありえる。最初のスケープゴートは温家宝首相かもしれない。 
 
 しかし、中国の深刻な問題への解決策は、ずっと深いところまで行かなくてはならないであろう。民主主義では、政府の終わりは普通の出来事である。けれども、独裁体制では、生と死の問題である。2003年に胡錦濤主席と温家宝がその地位について以来、首脳の交代のプロセスは一層非情なものになった。今日のエリートの政治闘争は、一層の処刑と長い禁固刑を伴う。通常、汚職を罰するという名の下に行われる。共産党内のさまざまな既得権益を持った者の間の内部紛争は増加しており、それぞれの派閥のライバルに対する責任のなすり合いは、一層ひどくなっている。 
 
転換点 
 
 中国内のどのような背景を持った人々も、次のように言っている。1989年6月の天安門の虐殺から20年後のいま、独裁政権は苦境に陥っており、2009年か2010年に中国人は共産党に対する我慢が限度に達するであろう。国民の怒りの強さは、1970年代の毛政府と1980年代の汚職に対して向けられた憤りをはるかに超えている。 
 
 現代中国の人々は先人とは異なっている。彼らはもはや、賢明な皇帝や公正な判事が支配することを期待しない。民主主義だけが彼らが望むものを保証するということを知っている。つまり、繁栄、安全、公正な扱いである。中国の支配階級もこれを考える。彼らがすでに子供とお金を西側に送っている理由である。その証拠は、ロサンゼルスからレークジュネーブまでで見ることができる。そこでは中国の大金持ちが彼らの膨大な現金使い、不動産を買っている。家から離れなれない人々はそのような選択は持たない。しかし、彼らの時代はきつつある。 
 
*魏京生 中国の人権・民主主義の活動家。1978年の「民主の壁」に書いた文章で懲役15年の刑に処される。1993年に仮釈放。1994年に再逮捕、政府転覆陰謀罪により再び懲役14年の判決を受ける。1997年、再び仮釈放。米国に送られ、以来米国に住む。1996年に「ロバート・ケネディ人権賞」と「サハロフ思想自由賞」を受賞。 
 
 
本稿は独立オンライン雑誌www.opendemocracy.netにクリエイティブ・コモンのライセンスのもとで発表された。 . 
 
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(翻訳 鳥居英晴) 


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