2009年03月02日11時04分掲載  無料記事
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危機打開へ「日本の立ち位置」明確に 米新政権に注文つける政策転換を望む 池田龍夫

  「思えば戦後日本は、米国との二国関係を唯一の基軸として経済・外交を展開してきた。冷戦の終焉後も、欧州が対米関係を再設計したのとは対照的に、日米同盟を創造的に見直す気迫も体制もないまま二一世紀を迎え、9・11後の展開の中で、『アメリカについていくしか仕方がない』という思考停止の中で、イラク戦争と金融資本主義の肥大化という流れにおいて、『傍観者』のつもりで『関与者』となってしまった。 
 今、世界が『全員参加型秩序』というべき方向を模索している中で、日本の立ち位置はどうあるべきか。…『実体性への回帰』と『自律性への志向』はそうした方向への思いを込めた指標でもある。我々は歴史と自らの足跡に学び、思慮深く進まねばならない」(寺島実郎氏=『世界』09・2号)との指摘は、「日米同盟一辺倒」の戦後日本の進路に修正を迫る警鐘である。 
 
 1月20日スタートしたオバマ米政権の〝Change〟への意欲に期待する声は高いが、前途はイバラの道。破局的な金融危機をどう乗り切るかが当面の最重要課題であり、激化する民族紛争処理への国際的合意への道程は険しい。 
 危機打開を求めて、各国がオバマ新政権に注文をつけ、合意点を見出して平和への道筋を早急に示すことは、各国政府の責任であろう。ところが、日本に目を転じると、余りにも次元の低い政争に明け暮れており、国民が展望と気概を失っていることが嘆かわしい。 
 
▽「人を殺すな」…マハティール書簡に感銘 
 
 本稿では、感動させられた指摘・警告の幾つかを紹介して、「世界的危機」を考えてみた。マハティール前マレーシア首相のオバマ大統領宛て公開書簡(09・1・15付)を、「天木直人氏ブログ」で読んで感服したものの、マスコミが全く報道していないため、重要個所を拾って参考に供したい。 
 
 「変革を求めている貴方の多くの決意の中に、次の項目を付け加えるよう提案させていただきます。 
(1)人々を殺す事は止めなさい。米国は目的を達成するために人々を殺すことがあまりにも好きです。今日の戦争は職業軍人が互いに殺しあうものではありません。それは、おびただしい無辜(むこ)の市民を殺すことです。 
(2)米国の資金と武力でイスラエルによる殺戮を無条件で支持する事を止めなさい。ガザの人々を殺している戦闘機や爆弾は米国から供給されたものです。 
(3)イラクでは米国の制裁で五〇万人もの子供たちが死んでいきました。薬や食糧の不足で、不倶者も多数生まれました。 
(4)大量の人を、より効率的に殺せるような新兵器を開発しないよう研究者に命じなさい。 
(5)軍需産業にこれ以上の武器を作らないよう命じなさい。世界に武器を販売する事を止めなさい。 
(6)世界の国々を民主化しようとする事を止めなさい。民主主義が、米国と同じように他国で機能するとは限りません。米国は自らが転覆しようとする独裁政府よりも多くの人々を殺してきました。 
(7)金融機関という名の賭博を止めなさい。ヘッジファンドやデリバティブや為替取引を止めなさい。銀行が、膨大な実体のない融資を行う事を、禁止しなさい。 
(8)京都議定書やその他の環境問題についての国際合意に署名しなさい。⑨国際連合に敬意を払いなさい。 
 
 貴方は二〇〇九年中に達成すべき多くの決意を既に固められていることでしょうから、これ以上申し上げません。貴方が私の提案した事のほんの一つか二つを実現できるなら、貴方は偉大な指導者として世界に末永く記憶されるでしょう」。 
 
 オバマ大統領は選挙戦中から「核廃絶」を訴えていたので、書簡への明記はなかったものの、九項目すべてが正鵠(せいこく)を射た提言である。 
 
▽新たな理念は「正義」! 
 
 「自由には、市場原理主義の『フリーダム』と、人間の尊厳を守り、市民の基本的権利を尊重し市民的自由を最大限享受できる社会にする『リバティー』の二つの意味がある。市場原理主義は、自国の経済成長を追求し『他国はどんな被害にあってもかまわない』という論理で、イラク戦争も含めた米国の単独行動主義はひどかったが、最終的には金融危機という形で跳ね返ってきた。危機を契機に米国の一極支配は終わりを迎えつつある。オバマ氏は市場原理主義を抜本的に転換し、新たな国際協調の枠組みを再構築するリーダーシップを発揮してほしい。ただ、市場原理主義に近いメンバーもいて、実際にはどこまで期待できるか分からない」と、宇沢弘文・東大名誉教授が指摘(『毎日』2・6朝刊)する通りであろう。 
 
 イラク戦争に反対したドビルパン仏首相(当時)の発言(『朝日』2・3朝刊インタビュー)も傾聴に値する。タカ派のラムズフェルド米国防長官(当時)から「古いヨーロッパ」とののしられた時、「そうだ。フランスは古い国だから敢えて米国の戦争に反対する」と切り返した気骨ある人物。 
 
 「前例のない危機だ。『困難な時期を乗り越えれば景気がよくなる』という日本のバブル崩壊のような危機ではない。エネルギー、環境、食糧などの枠組みを揺るがす長期的な『構造危機』だ。今は文明の転換期だからだ。五世紀にわたり支配してきた欧米の権力秩序の崩壊と中・印など新興国の台頭の中で共存の新世界秩序、新しい理念が必要だ。この十年間はブッシュ米政権とネオコンによる『力の支配』だった。9・11テロの恐怖がもたらした発想で、力で世界秩序を築き、平和も創出しようとした。だが、これは成就しなかった。 
 新たな理念とは何か。私は『正義』であるべきだと考える。不正義は暴力の源、テロの背景となる。ストレスを高め、屈辱心を植え付ける。苦しむ人々について知り、不正義の存在に気づくことが、変化につながる。不正義をただすことで『身勝手な力が世界を支配する時代は終わった』と内外に示すことができる。 
 当時『戦争は避けられない』と悟ったのは、国連安保理外相級会議を翌日に控えた03年1月19日だった。その日私はパウエル米国務長官と会い、彼自身が戦争を避けられないと考えていると知った。フランスは国際社会が戦争に引きずり込まれることを決して認めないこと、そのために拒否権行使も辞さないことを、はっきり告げようとした。 
 この闘いは国際社会にとって、政治的にも文化的にも極めて重要だった。人生と歴史の中では『ノン』と言える時がなくてはならない」。 
 
▽「日米同盟」の見直しが緊要 
 
 日本の政治に目を移すと、日本国家の構想力の貧困に愕然とさせられる。麻生首相が「バブル崩壊後の十年を乗り切った日本の被害は少ない。オバマ政権になっても日米同盟の基軸は変わらない」と平然と語っただけでなく、与謝野金融・財政担当相までが当初「経済危機の日本への影響は火傷程度」と言ってのけたことにあきれる。ブッシュからオバマへの歴史的大転回の意味が全く分かっていないだけに、「対米追従路線」を見直そうとの意欲のないことが、憂慮に堪えない。 
 
 冒頭に引用した寺島論文は「日本の立ち位置をこの際考え直すべきだ」と主張していたが、紹介した論文共通の論点といえよう。金融危機問題とともに日本にとっての不安要因は、日米軍事提携強化へ向けた動きである。 
 
 「日米政府は、新たに締結する在沖米海兵隊のグアム移転協定の中に『ロードマップ(工程表)の順守』を明記する方針だという。ロードマップとは2006年5月、日米安全保障協議委員会でも合意された在日米軍再編に関する最終報告『再編実現のためのロードマップ』のことである。ロードマップを『政治文書から条約と同レベルの合意に引き上げる』(外務省幹部)ことによって、ロードマップに盛り込まれた日米合意書に強い法的拘束力をもたせる、ということだ。 
 なぜ今、協定を締結するのか、なぜ『ロードマップの順守』をあえて協定に盛り込まなければならないのか。次期衆院選を控え、政権交代が取り沙汰される中で、『選挙結果にかかわらず、米軍再編は最終合意通りに進める』との姿勢を明確にする狙いがあるのは明らかだろう」 
 と、沖縄タイムス(2・9)社説は「住民不在の露骨な策だ」と指摘していたが、米軍再編の衣の下には鎧(よろい)が透けて見える。ミサイル防衛システム導入など〝日米軍事一体化〟は国民の目が届かない所で進められている実態を警戒しなければならない。 
 
 オバマ政権に注文をつけ政策転換を迫る日本外交の積極姿勢が、今こそ緊要である。さらに国際舞台で、堂々と各国に訴え続ける努力を強く要望したい。 
(いけだ=ジャーナリスト) 
 
*本稿は、「新聞通信調査会報」09年3月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です 


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