2009年03月10日00時53分掲載  無料記事
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社会

在留許可を求める比国籍カルデロン一家の父強制収容 17日に一家全員強制送還か

  在留許可を求めている比国籍のカルデロン・アラン・クルズ氏とその家族は、2月27日に東京入管に出頭した際、入管職員らに3月9日まで退去するよう命ぜられていた。一家の両親は9日に入管に出頭し、父アラン氏は強制収容となった。弁護士によれば、今週中に途比の意思表明をしなければ、妻サラ氏も中学生であるノリコさんも、16日までに強制収容し、その翌日に一家全員を強制送還するという。(村上力) 
 
  このカルデロン一家の件に関しては、3月9日の段階で2万名分の署名が集まっている。また、一家の地元埼玉県蕨市議会は、全員一致で一家の在留許可を求める意見書を提出した。また、国際人権団体であるアムネスティインターナショナル本部・日本支部は一家の在留を求める声明を出し、法務省にも在留許可を要請している。国連の人権機関であり、安全保障理事会と同格の人権理事会も、この件に関心を示しているという。 
 
  森英介法務大臣は前々回の出頭日である2月13日に、一家そろっての在留と認めないという判断をした。入管および法務省は二つの提案をした。1.一家そろってフィリピンへ行く、2.ノリコさんだけ日本に残るか、である。家族と代理人弁護士である渡邉彰悟氏は、ノリコさんはフィリピンで暮らす場合には小学生からやり直さなければならないこと、またノリコさん自身が日本で生活基盤を持っていることなどを考慮し、強制退去は受け入れられないとしている。 
 
  強制送還された場合、日本へは5年間再入国することができないとしている。そこで法務省はこの一家に、特例的に1年以内の家族訪問を認める余地があると表明しているが、一家は家族の離散は避けたいという姿勢だ。 
 
  アラン氏とサラ氏は渡邉氏とともに入管に出頭。入管は、法務省の提案のどちらかを受け入れ、その意思表明を要求した。しかし両親はノリコさん一人を日本に残すという選択を「親としてできない」として、選択を拒否。渡邉氏によれば、入管は「それではやむをえませんね」とアラン氏を収容したという。 
 
  入管はその意思表明を13日(金)までにしなければ、16日にサラ氏もノリコさんも収容し、その翌日17日に全員強制送還する可能性も示唆した。その場合は、特例的な1年以内の再入国も認められないという。なお、出頭の際に入管に提出する予定だった要請書と、再審情願申立書は、受け取りを拒否されている。 
 
  ノリコさんは、「すぐにでもお父さんを返してほしい」と目に涙を浮かべながら言う。会見中、サラ氏は終始うつむいて、時折目を覆う。この一家は幾度も記者会見をしているが、今回は不安な表情を隠しきれていない。「強制収容」「強制送還」という重圧が、一家の上に圧し掛かっているようだ。だが、厖大な量のフラッシュの中でも、ノリコさんはうつむくことなく前を見つめつづけていた。 
 
  会見で、渡邉氏は以下のように訴えた。 
 
「さまざまな国際的機関からの問題意識が伝えられているのにも関わらず、入管側はあまりにも急ぎすぎているし、この中学1年生の修了すら待てないのかと思います。なんでこんなに焦るのかという思いを否めない。家族をバラバラにするつもりは無いとか言いますけど、その事実は変わらない」 
 
「僕らはずっとこういう問題について、今まで送還されてきた例も見てきている。だけどそういう送還がおかしいのではないかという問題意識をずっと持っていました。それでどこかで、そういった入管の政策の執行については転換が必要だと、それはやはり今後外国人の受け入れが必要だということをいろいろなとこで言われる中で、今現在、こんなに長期に安定して生活している外国人を、なぜ受け入れられないのか。それを受け入れるべきではないのか。それによって将来外国人を受け入れも成るのではないのかと思います。今回のノリコさんの件にしても、人道的な配慮、子どもの権利の観点からも、あってしかるべき姿勢(在留許可を認めること)だと思います。同じような案件が上がってくれば同じように処理すればいいと思います」 
 
「日本がやはり、こどもの権利や家族の保護の問題について、今まであまりにも尊重していなかったということが実態なのであって、それは改められるべきだと思います。今回のケースが、そのターニングポイントになりうる事件なのであって、そういう事件として見ていただきたいと思っています。別に特別扱いをしてほしいのではなくて、これを機に転換してほしい」 
 
【取材者として】 
 
  この件がもし、強制送還という形で収拾するのであれば、すべての非正規滞在者へ大いなる恐怖を与えることになってしまうであろう。否、国際的な問題意識を無視し、在留を求める2万名の市民の声を無視する司法制度は、非正規滞在者だけでなくすべての被支配の人々に対する脅威となるであろう。私たちは、管理され背番号を張られた市民でしかない。だからこそ司法制度に人道的配慮を求めるのは必然である。 
  残念ながら日本社会には、幼い少女に「お前は生まれながらにして犯罪者だ」などと言うような市民も有る程度いるのが事実だ。しかし、一体いかなる権利でもってそれが言えよう。そういった支配者意識に囚われた市民社会のあり方を、認めなければならない。 


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