2009年03月27日21時17分掲載
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中国
毛東沢主義で「改革・開放」を粉砕せよ！ 極左の城「烏有之郷」の実態
昨年のチベット反乱を中国当局が武力弾圧したことについて、「１２の意見書」で政府を批判した王力雄氏や、民主化を求める「０８憲章」の公表に対し、最も激しく反発したのが「烏有之郷」と名乗る結社だった。北京市内に書店と講演会場を持つ同社の本拠地に「亜洲週刊」記者が潜入ルポ。そこには、「改革・開放」を進める現代中国とは別世界の毛沢東思想関連の非合法書籍やＤＶＤがずらりと並んでいる。なぜ今、「極左」なのか？（納村公子）
ここ数年来、人々の関心をよんでいる「烏有之郷書社」は北京にある。「烏有之郷」というのは烏託邦（訳注：ユートピアの音訳語）のことであり、烏有之郷に集まった定年官僚、学者や読者は、「四人組の名誉回復」、「文化のための大革命に対する名誉回復」のために、「毛沢東主義」によって中南海で政務を司る「修正主義グループ」を粉砕するのだとあからさまに表明している。彼らは改革開放の寛容さを利用し自分たちの思うところを実行しようというのだ。
「極左」（ここでは改革開放へ反対し、毛沢東時代の制度を懐古し、共産主義原則の放棄を憂うること）の方向からの突破を目指し、非合法で書籍の印刷出版を行っている。烏有之郷の大講堂では毎週講座が開かれ、メールマガジンが発行され、ネット・サロンが設けられ、また宣伝チラシやDVDが不定期に発行される。烏有之郷のサイトは彼らの言葉を語る場である。
改革開放の進行過程でさまざまな問題が生じ、社会の末端の人々のなかには改革開放で利益がなかったり、利益が非常に少なかったりする人もいる。社会的な矛盾が大きくなるにつれ、毛沢東への迷信をふたたび持つ人が増えた。烏有之郷はそのような人々をマーケットにしている。
当局は何年もの間、烏有之郷への取り締まりを行わなかった。これは北京の政界や学界には異常に思われている。だが２００９年の両会（全国人民代表大会および政治協商会議）開会直前の２月２８日の夜９時、１０時という時間に、北京市海淀区蘇州街にある烏有之郷書社に突如として北京警察が立ち入り、４、５人が事情聴取を受けた。
１０日後、烏有之郷のサイトに牧川の書いた長文がアップされた。最近、「中国青年２０００」というハンドルネームの人物が文章を発表し、「極左サイト『烏有之郷』はなぜいまだに取締を受けないのだ」と厳しい問いかけをした件についてである。
牧川は文章のなかで、いわゆる「中国青年２０００」とは一人の人間ではなく、「ここ最近、烏有之郷を口汚く言う一連の文章が出ていることや、張宏良（中央民族大学教授で烏有之郷のリーダー格）のブログが閉鎖されたこと、またその他の事情から思うに、複数人が事件を仕掛け、政府に圧力をかけていると思われる。それで多くの愛国者らが迫害された」と書いている。事情を知る者によると、ここでの「その他の事情」とは警察の立ち入り捜査のことを指すという。
３月６日の午後、記者は烏有之郷の取材をしようと、蘇州街１８号院１号楼の「長遠天地」ビルに行き、やっとのことでC棟を探し当てた。看板もなく、外から見る限りは一般の住居棟と何ら変わりない。外部の人間には、上の階にさらに書店があるなどとは見当もつかない。C棟に入り、ちょっとしたホールを抜けて、右手の階段を上り、エレベータで９階に上った。書社はせいぜい２、３０平米といったところだが、それに続く講演室は１００平米はある。
烏有之郷書社はつい数ヶ月前まで、北京大学西南門を出たところの資源賓館の３階にあった。記者は資源賓館のころに２度行ったことがあるが、書店は大勢の人でにぎわっていた。
今回訪れてみると、この民営の書店には書棚の前で本を選んでいる客が２人と、忙しく本の整理をしている店員が２人いるだけで閑散としている。書棚を２回ぐるりとまわりながら眺めてみたが、毛沢東関連のものが数多く並び、「左」派と保守派の学者の著作も多かった。
０３年９月に烏有之郷書社設立以来、書社主催の講座や刊行された書籍はじつに異彩を放つもので、イデオロギーの主流から距離を置き独自の政治主張を提起している。
一か月ほど前に刊行された『毛沢東思想万歳』（当時の紅衛兵が集めた文革中の毛沢東による内部講話）、『張春橋文献』などは制作実費だけをもらっているというのだが、厳密に言えば書籍コードを取得していない非合法な印刷物である。また、「人民を組織してこそ現代修正主義グループによる統治を転覆できる」といった類のDVDの棚はなくなっていた。それは警察の立ち入り捜査があったからかもしれない。
小さな店内で目を引くのは壁に掛けられた烏有之郷のプレートだ。「好書ありて朋友あり 思想ありて責任あり」と書かれている。また壁にはフレームが二つかけてある。その一つは全国政治協商委員の周秉徳（周恩来の姪）の色紙で、「烏有之郷、理想はばたく所 ２００４年１０月２４日」と書いてあり、毛沢東の写真も３枚並べられていた。
もう一つは集合写真で、２００６年２月の全国政治協商会議の開会直前に、政協委員の董良キ[キ＝羽の下に軍]（董必武の娘）、周秉徳、劉太行（劉伯承の息子）などの人らが、烏有之郷書社で行った社会調査の後に参加者と一緒に撮ったものだ。
記者は、書店の一角の床に烏有之郷の重要メンバーである中央民族学院教授の張宏良の著作紹介を印刷したチラシが落ちていたのを拾い、店員に見せて尋ねてみた。「このチラシにある本は売ってますか？」
店員はチラシをのぞき込むと、とたんに険しい顔になり言った。「これをどこで手に入れた？」。「そこに落ちていたのを拾ったんです」。「これはうちの内部資料だ。勝手に拾わないでくれ」と言いながら、店員はチラシをひったくってその場を去っていった。
０８年４月、北京の有名な評論家・馬立誠はここで本を６冊買ったという。それらには書籍コードがなく自家製本のため値段も結構なものだった。前国務院発展研究センター副総幹事や、もと冶金工業部副部長、前鞍山鋼鉄公司総理を務め、90歳を過ぎた馬賓の『毛沢東を記念して』はB５判くらいの大きさで、書名の下には「２００６年１２月２６日」と大きく書かれていた。これは毛沢東の誕生日である。
裏表紙には「出版費 ３０人民元」と印刷されていた。別の本は梅俏の書いた30万字に上る『毛沢東の「珠峰」』だった。馬立誠によると、これは「文革」後30数年来でほとんど見かけくなった本で、「左」の視点から「文革」を捉えた長編作だという。
聞くところでは、烏有之郷メンバーから、忠誠心を示すためにすべてのメンバーは毛沢東のバッヂをつけ、毛主席を毎日称え、メンバー二人で話をするときは必ず「毛主席に誓って」と言い、右手の手のひらを左胸に置くという動作をすることにし、さまざまな毛沢東への批判の言辞を毎日批判するという提案があったという。
烏有之郷のサイトにこの内容が書き込まれると、リベラル派の学者やかなりの数の読者から反発され、彼らも不適切と思ったのか、書き込みを削除し、毛沢東への忠誠という行為をとるかとらないかは、個々のメンバーが自分で決めることにするとの通知をしたそうだ。
０８年の春から夏にかけ、８月１５日を挟む前後１週間内に北京で大地震が起こると言って、メンバーやシンパらに身の安全のため早めに逃げるよう通知している。またメンバーは中国伝統医学を大いに奨励し、病気になっても西洋医にはかからないよう勧めている。
この書店は毛沢東時代を偲ぶ人にとっては別天地だ。０８年の毛の誕生日に中国毛沢東主義共産党が結成され、『中国毛沢東主義共産党より全国人民に告ぐ』と『中国毛沢東主義共産党規定』を発表された。
烏有之郷のメンバー内では上掲の『全国人民に告ぐ』がよく読まれている。この書では、「中華民族にとってもっとも危険な時期が到来している！ 30年来の事実がすべてを物語っているのだ。すなわち中国共産党の指導権を握る修正主義統治グループが推し進めるいわゆる『改革開放』とは、すべてにおいて徹頭徹尾、資本主義路線の復活であり、すべてにおいて官僚的、そして買弁的な売国路線である」と述べられているのだ。
同書にはさらにこう書かれている。「中華民族は彼らによって分割および侵略の内憂外患という危険の瀬戸際まで追い込まれているのであり、全国各民族人民はふたたび塗炭の苦しみの中に放り込まれ、新たに半封建、半植民地的官僚買弁資本主義、および帝国主義の三つの‘大山’に圧迫され搾取されているのだ！ ゆえに中国毛沢東主義共産党は全世界に向け宣言する。中国人民には中国共産党の走資派反動統治グループに対し、造反するに理あり！」
さらに同書はこうも続ける。「彼らが『四つの基本原則』に真っ向から背き、これに代えて『四個堅定不移』（訳者注：解放思想堅持、改革開放推進、科学的発展と社会協調、小康社会の実現。胡錦濤が17回全国代表大会で述べたスローガン）を置いたというこの一点において、我ら、造反するに理あり！ 中国共産党第17回全国代表大会なる場で公然と毛沢東思想を破棄し、中国共産党第７回全国代表大会以来の『中国共産党党章』の規定、また『中華人民共和国憲法』の規定に違反し、社会主義制度を転覆、資本主義を復活させ、『中華人民共和国刑法』の規定を犯し、修正主義中国共産党をすでに確固たる不法集団に変えてしまったというこの一点において、我ら、造反するに理あり！」
またこのような記述もある。「彼らが外国というよからぬ輩を手引きし、領土・領海・鉱山・資源・銀行・工場・橋梁を売りに出し、民族の尊厳を売り渡し、中国をアメリカ帝国主義の属国にしてしまったというこの一点において、我ら、造反するに理あり！ 彼らが権力をかさに私利をむさぼり、コネとカネで裏取引に走り、庶民の住宅を強制的に破壊し、罪もない人間を悪事に遣い、飲食や女遊びやギャンブルにうつつを抜かし、愛人を囲い、恥じる心も無く、どこまでも腐敗しているというこの一点において、我ら、造反するに理あり！ 彼らがファシスト的専制政治を敷き、猛り狂ったように革命造反派を逮捕し、赤手空拳の学生を残虐に殺し、庶民の家に押し入って手荒に拘束するというこの一点において、我ら、造反するに理あり！」
もと中国共産党中央書記処書記で中央宣伝部長だった��力群が、烏有之郷書社の後ろ盾になっているというもっぱらの話だ。94歳になる��力群はもう体力もないが、先に挙げた馬賓、もと化学工業部部長の秦仲達、もと国家統計局長の李成瑞は烏有之郷の旗印となっている。烏有之郷の活動に参加し、サイトで言論発表する学者には、もと中国社会科学院副院長の劉国光、中央民族大学教授の張宏良、もと光明日報社副編集長の陳談強、国家発展開発委員会マクロ経済研究院の研究員である劉日新、中国社会科学院経済所研究員の左大培、もと北京大学党委員会副書記の[木梁]柱、雑誌『中流』のもと副編集長・孫瑞林、もと国務院発展研究センタ顧問の�乕陝�中国社会科学院研究員の許建康、中国人民大学教授の高鴻業、北京大学教授の胡代光、北京航空航天大学副教授の韓徳強、中国社会科学院経済研究所の前所長である張卓元、北京大学法学院教授の鞏献田、北京大学法学院教授の劉瑞複などがいる。
烏有之郷書社の責任者は範景崗である。そのサイトでは随時、『21世紀という高みから顧みる文革と毛沢東』『生きている張春橋』『政治を人民に返し文革を発動した毛沢東へ寄せる感謝』『温家宝の総理職は適任に非ず』『茅于軾「一僕二主」の名演技を見て』『中国の「エリート」高尚全の作法』といった文章を読むことができる。
０８年には北京在住の学者の何人かと引退した高官が、馬賓の著作『毛沢東を記念して』についての座談会に出席した。張宏良や鞏献田らがその席上で発言し、閉会後には『馬賓同志に学ぶ』と題したパンフレットが発行されている。
馬賓は、改革開放からこのかた頻発する問題について、「その歴史的な根源はプロレタリア文化大革命の後期にあり、指導権が修正主義分子により奪い取られたことから始まる。そして11期三中全会では毛主席路線が批判され、マルクス主義正統の路線は修正されてしまった」が、「毛沢東の一生を通じての貢献は大きく、文化大革命はそのなかでも抜きんでたものであった」としている。
馬賓は「第二次文化大革命とは実際には党内における今一度の思想引き締めや粛清である」と述べる。また「国際的にアメリカ帝国主義に抵抗し、国内では官僚と腐敗に抵抗し、党内の反修正主義と闘争するなかで、第二次や第三次の文化大革命を展開させる」とも語る。
さらに馬氏は「第二次文化大革命」の闘争目標を掲げる。それは「都市では改革開放期に私有化されてしまった一切の公有財産をすべて社会主義の全民所有へと戻す。農村では土地の国有化・労働の組織化・生活の社会化からなる三農政策を実施する」というものだ。
同氏はまた「毛主席、江青、張春橋、姚文元、王洪文らについて完全に名誉を回復し冤罪を晴らす」ことを求めている。著作『毛沢東を記念して』の座談会席上、張宏良は次のように述べた。馬賓という現象は孤立したものではなく、このことそのものが中国の左翼パワーが今まさに復興しつつあることを示していると。北京の学者には、馬賓や張宏良らの主張は「まさに復興しつつある中国左翼パワー」が「救国」のために出された処方箋と考える者もいるのだ。聞くだに身の毛のよだつ恐ろしい話である。
原文＝「亜洲週刊」09/3/22 江迅記者
翻訳＝氏家弘雅
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