2009年05月06日09時49分掲載  無料記事
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中国

反汚職論文がなぜ「違法情報」なのか サイト閉鎖の教授の提訴に支援の輪広がる

  中国で普遍的に蔓延している汚職体質を改善しようと訴える「反汚職学者」の胡星斗氏のサイトが3月、「違法情報」だとして一方的に閉鎖された。これに対して、胡氏は「反汚職論文がなぜ違法なのか。閉鎖は憲法で保障された自由の言論の権利を奪うものだ」として、多数の支援者と弁護団をバックに、サイト運営会社と、インターネットを監視している地方政府を北京の裁判所に訴えた。裁判所はいまだ受理していないが、進展が注目される。(納村公子) 
 
 燃え尽きた蝋燭、地に涙をこぼす 
 道を悟った春の虫、糸は腹に満つる 
 
 これは北京の学者、胡星斗氏が現実を嘆いたときに書いた詩「人生」の一節だ。 
 北京理工大学経済学の教授である彼は、3月25日午後、彼のウエヴサイトが「違法の情報がある」という理由で、蘇州ネット監察処(ネット警察)と、北京新ネット・デジタル情報技術有限公司から、突然、閉鎖するという通達を受けた。その有限公司のサービスセンターは、彼の3編の文章も添付してきた。それは、「労働教養(訳注:強制労働による囚人の教育)制度を廃止することについて、中国共産党中央、全国人民代表大会、国務院への建議書」「報道と世論の監督を強め、現代の報道制度を確立する。―新世紀報道と世論の監督シンポジウムでの発言」「グローバル企業は賄賂源、収賄した中国の役人はなぜ安泰なのか」である。 
 
 通達を受けた胡星斗氏は、「当然の学術的な議論と、腐敗反対を論じる穏健で建設的な論文を‘違法情報’だとした」ことに激怒した。そこで、4月2日、彼は北京海淀区人民裁判所に訴状を送り、上記の2組織を訴えた。しかし、裁判所は受理するかどうか、検討しなければならないという返答をした。 
 
 4月7日、本誌は北京新ネット・デジタル情報技術有限公司のサービスセンターに電話をかけ、やっとのことで「恵斌氏」を探し当てた。「恵斌氏」によると、胡星斗氏のサイトは「敏感な問題に触れているところがあるので閉鎖した。これは蘇州監察処からの通達であって、うちが閉鎖したくてしたわけではない。上から言われてやったのだ。彼らは公安局の部門で、ネットの監視をしている。その通達があったらから閉鎖した。うちがネットの内容を調べて閉鎖するようなことはない。彼らにはネットを監視する役割がある。うちでは胡星斗さんにはサーバーを変えて再開してはどうかと提案した」 
 
 胡氏から全面的に委託を受けている訴訟の代理人、北京京鼎弁護士事務所の主任、張星水弁護士は、4月6日の取材で言った。 
「サイトが閉鎖されたことについて、我々は法的手続きを通し、裁判所に新ネット公司を訴えた。この会社はネットユーザーにサービスを提供している。訴状は裁判所に送ったが、正式に受理されるかどうかは後日でないとわからない。我々は胡星斗の正当な訴えを支持し、法的手続きを通して公民の権利を守り、憲法が付与する自由な言論の権利を守ることは決して非難されることではない。我々は彼に法的支援をし、法の上で主張したい。この案件には期待を抱いている。ネットが検閲され閉鎖されることに対する訴えが受理されて最終的に勝訴するかどうか、おそらく中国大陸では成功した前例はない。胡星斗がその最初だ。彼は法的意識が高い」 
 
 胡星斗が自分のサイトを閉鎖されたことについて、弁護士に委託し法的権利を主張することは可能であり、このやり方は肯定されるものであり、積極的で進歩的な意味があると張星水弁護士は強調した。案件の審理結果がどうなるかはともかく、法的ルートで司法に救済を求め、司法の救済を通じて公正と正義を求めるやり方は、良識のある学者として、弁護士の尊重と肯定を受ける価値があるという。 
 
 裁判所が受理するかどうかについて、張星水弁護士は答えた。 
「裁判所が受理するかどうかは、いま何とも言えない。海淀区人民裁判所は、北京で、また全国でも模範とされる裁判所で、法を行うレベルは相対的に高く、知的財産権の保護についても重視している。胡星斗氏のサイトは思想のサイトで、彼の知識の成果と知的財産権を反映している側面がある。いくつかの論文のために閉鎖されたといっても、彼の名誉や人格の権利を損ねたのではなく、その知識と知的所有権が損なわれたのである。いまのところ裁判所から受理したという通知や、起訴却下の裁定書が届いていない段階で、われわれにも結論は出せない。受理されるかどうか、二つの可能性があるが、受理の可能性のほうが大きいと自信を持っている」 
 
 胡星斗氏の支援グループはかなり大きい。訴訟代理人として北京京鼎弁護士事務所の張星水主任を始め、公民権利保護ネットの汪海洋編集長、協力者として、人民監察ネットの朱瑞峰編集長、スポークスマンとして中国社会科学院法学研究所の范亜峰副研究員および朱瑞峰副研究員、補佐役に王光良、周敏。弁護団は35人の法学者と弁護士で組織されている。賀衛方、張星水、范亜峰、許志永、李方平、李和平、李柏光、江天勇、李勁松、程海、朱久虎、郭海燕、趙国君、杜兆勇、朱瑞峰、汪海洋、王雨墨、張立輝、韓一村、楊智勇、劉曉原、蘭志学、唐吉田、金曉光、ホウ紅兵、童英貴、李海江、桑聖元、常伯陽、王光良、王紅傑、陳小富、徐建国、周敏、劉子龍である。 
 
 胡星斗は取材を受けて答えた。「このような穏健で建設的な反腐敗の論が、蘇州のネット監察で‘違法情報’にされた。数日前には私が童英貴弁護士と起草した『中華人民共和国廉政法〈専門家による建議〉』が中国ネットで違法情報に値するとして削除されたことを考えれば、中国の反汚職は行き詰まっている。反汚職の学者による反汚職の著作まで‘違法’とされるということは、こうした反汚職の論文や立法の建議も権力にとっては邪魔者となっているのだ。権力に制限を加えなければ、腐敗した特権の利益集団が中国を危険に陥らせることになる。蘇州ネット監察処が通常の世論による監督に打撃を与えるとは、まさに無法であり、中国の国際的イメージをぶち壊すことだ。中国の法治の推進のため、憲法にある公民の権利を勝ち取り、地方の腐敗した利益集団の違法行為に抵抗するため、私は起訴に踏み切らざるをえなかった。決して泣き寝入りはしない」 
 
 ‘違法情報’とされた第一の論は、胡星斗氏が5年前に書いたもので、彼のサイト上やたくさんのサイトにも掲載され続けており、この5年間、一切削除要求されていない。この建議書と、以前の彼の「労働教育に関する建議書」ははやくから国内外で、強制労働教育の廃止を呼びかける改革の「第一声」として認められ、政府も改革プランも何度か示し、矯正制度に変えようとしている。胡星斗氏は、「国家の法治を推進するこうした論文を、蘇州ネット監察処は‘違法情報’と見ているのだ」 
 
 ‘違法情報’とされた第二の論は、「報道と世論による監督を強化し、現代の報道制度を確立する。―新世紀の報道と世論の監督シンポジウムにおける発言」である。この発言では「報道と世論の監督は国家の浄化を打ち立てる手段である」「国家の反腐敗組織『透明国際』の調査では、反腐敗で最重要かつ第一にあげられるのは報道と世論の監督である」とされ、「一部の人間が『安定こそすべてに優先する』を旗印に掲げ、国家の利益をはかるように見せかけ、安定のために正義を犠牲にし、役人たちが手段を選ばず醜悪さと真相を隠そうとすれば、社会道徳は衰え、政府の威信は失われ、官民の間は当然緊張の関係となり、汚職や腐敗はますます広まる」としている。 
 
 ‘違法情報’とされた第三論は、「グローバル企業は賄賂源、収賄した中国の役人はなぜ安泰なのか」というインタビュー記事だ。胡星斗氏によると、このインタビューは新聞にも掲載され、内容も過激なものではないという。その中では、グローバル企業の多くが賄賂にかかわったことが発覚しているが、このような腐敗は抑制されていない。その根本的原因は、中国が人情やコネの社会だからであり、反腐敗の制度が確立されておらず、司法、監督の部門も独立していないし、メディアが本来持っている機能が果たされていないことにあると述べている。 
 
 先日のインタビューで胡星斗氏は述べた。「私は強く言いたい。この‘違法’は何を基準にしているのか。社会の進歩を促し、反汚職を訴え、反汚職のための献策をすることが‘違法’なのか。反汚職の学者たちが反汚職の論文や発言を発表したり、立法を提議したりすることに、地方のネット監察が随意に‘違法’にできるとは、実におかしい。違法で違憲なことをやっているのは蘇州ネット監察処のほうだ。なんらの予告もなくサイトを閉鎖した北京の新ネットデータ情報技術有限公司は、蘇州ネット監察処の共犯だ。ユーザーとの契約に違反する。それで彼らを訴えたのだ」 
 
 あるネットユーザーは「胡星斗氏はペンをもって直言する正義の人だ」と言っている。胡星斗氏の詩にはこうある。 
 
 斗室(小さな部屋)は蒼茫たり吾独立す 
 眠れる万家いく人か醒める 
 
 まさに彼の嘆きである。 
 
胡星斗=1962年生まれ。北京理工大学経済学教授。社会的弱者に関心を持ち、政治体制改革を研究し、中国問題学を提唱する。労働改造制度と戸籍制度の廃止を訴える代表的人物で、反汚職や直訴制度を研究している。著書『問題中国』を始め、「憲政社会主義」「現代農村制度」「現代反腐敗制度」「現代報道制度」などの論文多数。 
 
原文=『亜洲週刊』09/4/19 江迅記者 
翻訳=納村公子 


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