2009年05月21日17時21分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=200905211721214

社会

『マンガ嫌韓流4』 酷悪な日本ナショナリストの“グロテスクマンガ”

  以前から気になっていたが、なかなか手をつけられなかった出版物がある。「マンガ嫌韓流」シリーズだ。この分厚い政治マンガは、今回で4作目となり、シリーズ累計90万部も売れているらしい。いい加減、看過はできないなと思い、勇気を出して買ってみた。(村上力) 
 
  このマンガのストーリーは、主人公沖鮎要がさまざまな人々と「日韓問題」などで討論していくものだ。4作目は「在日韓国人による本格的な『日本侵略』がすでに始まっている!!」と強調されている。「第1話『在日韓国人の“日本侵略”』在日の“日本乗っ取り”はすでに最終段階」から始まり、「第10話『在日全員送還への道』『在日問題』の最終的解決とは」という流れでストーリーが展開されていく。 
 
  このマンガは、在日コリアンおよび「朝鮮民族」に対して、とても過激な描写をしている。たとえば以下の一説を参照してみよう。「第8話 ”強姦民族”の起源(ルーツ)と哀しき属国史 ”性犯罪大国”韓国」において、「朝鮮民族の犯罪的傾向」について研究しているという「先生」との話の一幕だ。 
 
沖鮎要 「・・・ということは現在の/朝鮮民族というのは/中国に送られなかった・・・/・・・つまり美女ではなく/ブサイクな女性たちの/子孫ってことだね」 
先生 「中国に女性を/送り続ければ/当然朝鮮半島内の/男女比  は大きく狂い/男性の数が圧倒的に/多くなってしまった/ことだろう/女性にありつけなかった/多くの男性は性欲を解消/するために・・・/強姦するしか/なかったと/考えられる」 
 
 「先生」はほかでも、以下のように主張する。 
先生 「強姦できないような/心優しい朝鮮人は/若い女性の数が/少なかったから/子孫を残すことが/難しかっただろう/善良な朝鮮人の遺伝子は/そのような過酷な/「強姦生存競争」によって/淘汰されてしまったのでは/ないだろうか・・・?」(p216-p219) 
 
  このような調子で、途方もない「論理」が展開されていく。 
 
  上記の一幕をとっても、このマンガに描かれている記述は現実の前に脆くも崩れ去る。韓国・朝鮮人には、美女もいれば、美男もいる(各々の好みによるが)。そもそもこの出版物は、歴史の検証や論考には全く役に立たない。実在する個人、団体、民族名を登場させるものの、記述したものに責任を取る姿勢が欠けているのである。このマンガの最後のページに極めて小さく「この物語はフィクションであり、登場する人物、団体名は架空のものです。実在の人物、団体とは一切関係ありませんので、ご注意ください。」と書かれている。自分で意図的な描写をしておいて、一体何が「ご注意ください」だろうか。 
 
  ではこの出版物には、一体いかなる意味があるのだろうか。 
  特定の集団に対する偏見を助長するという点において、作者山野車輪氏は長けている。絵としても日本人と、韓国・朝鮮人の描き方に明らかな差別がある。言動においても、韓国・朝鮮人は頻繁に「マンセー!!」「ウェーハッハッハ」「ガバババ」と奇声を上げ、動物的に描かれている。彼らの殆どが悪者で、どこか芳しくない存在として登場する。そのように描いた上で、「“日本侵略”がすでに始まっている!!」と危機を煽る。 
 
  一方日本人は美男美女で、理性的な存在に描かれる。 
 
  この「嫌韓流」の類の出版物に良くあることだが、例えば「嫌韓流 実践ハンドブック 反日妄言撃退マニュアル(桜井誠著 晋遊舎)」にも、「動物的な韓国・朝鮮人」と、「理性的な日本人」が登場する。そして日本人が勝手に描いた韓国・朝鮮人に喋らせ、それを日本人が論破するという形式がとられている。そして、読者(=日本人)が悦に入るという構図である。対象を都合よく描き、妄想に浸って優越感に興じているのだ。それは、その「実践」が社会問題化している過激なアダルトビデオと同質といえよう。 
 
  ところでこの「嫌韓流」シリーズは、かなりの人気を博しているようだ。シリーズ累計90万部とのことである。おそらく、兼ねてから在日コリアンに対する偏見を持っているであろう保守層や、「マンガ」という読みやすさや安さ(320ページで一冊1000円!)から若者を中心にシェアを伸ばしていると思われる。それと同時に、「反日韓国人撃退マニュアル(桜井誠著 晋遊舎ブラック新書)」などの「実践」のための出版物も出されている。このような出版物の氾濫が、多くの在日コリアンを傷つけていることを想起しなければならない。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。