2009年06月02日21時59分掲載  無料記事
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中国

天安門事件20周年 香港で関連書籍の出版ブーム 真相解明への歴史的記録 

  民主化を求める学生らの運動が戒厳軍によって血の海に沈められた天安門事件から、6月4日で20年。香港では8000人規模のデモが行われ、関連書籍も続々と出版されている。筆者は中国政府に近い立場にいた人から運動の中心にいた元学生指導者までさまざまだ。事件後の海外での民主化運動の記録もある。『亜州週刊』はその中でとくに注目されている本をいくつか紹介し、出版ブームの背景を分析している。 
(納村公子) 
 
 天安門事件から20年がたったが、政府はこの歴史の真相を隠し続けている。だが、国外には体験者とウオッチャーの見方がある。いま、香港の図書市場は天安門事件関連の出版物であふれている。その中で、張万舒著『歴史的大爆炸 「六四」事件全景実録』(香港天地図書)が、趙紫陽の口述記録を整理した本と対照することで、天安門事件の真相を知り、共産党首脳部の論争の謎を解明することができると、多くの識者から言われている。 
 1938年生まれの張万舒は、1964年に新華社安徽支社の記者となり、その後編集主任、副社長に昇進、1983年、北京の本社の国内ニュース部副主任、主任を歴任し、92年に新華出版社社長兼編集長になっている。 
 
 張万舒は事件当時、新華社国内ニュース部主任だった。新華社といえば中国政府側として最も権威のある機関であり、事件の発生からずっと、情報諮問センターの一つであった。張氏は上層部内部の対立の全過程を経験し、全国各地に駐在する新華社記者が現場で取材した一次資料をすべて直接処理したことから、日誌の形で知られていない事実や上層部の政治秘話を明るみにし、北京の現場から各地の状況までを天安門事件の全貌を詳細に記録している。20年来封印されてきた記録がこれで初めて世に出された。 
 張氏は、この本は「私たちが日々記録した歴史的事実であり、誰の手も加えられていない」という。 
 
 香港で出版された天安門事件関連の本には、このほか、 
『六四日記 広場上的共和国』封従徳著、香港晨鐘書局 
『血路1989』孔捷生著、香港夏菲爾出版 
『大夢 誰先覚 「中国之春」与我的民主歴程』丁楚著、香港海風出版社 
『天安門,路在何方』劉剛著、英華出版社 
『我的六四』高瑜著、香港文化中国出版社 
『100六四人物20年』帰化章・浦前編著、香港晨鐘書局 
『一個解放軍的1989戒厳部隊怎様対待軍中反叛者』蔡錚著、明鏡出版社 
『小平・胡輝邦・趙紫陽三頭馬車時代』高皋著、明鏡出版社 
『北京植物人』馬建著、明鏡出版社 
『回家』『再回家』我要回家出版社 
 などがある。 
 
 『六四日記 広場上的共和国』は、封従徳氏が18年かけて最終的に整理した日記である。封氏は1989年の民主化運動で、幅広い人々から誠実でまじめで、冷静な学生リーダーだと見られていた人物である。この「日記」で4月15日から6月4日までの学生運動で、北京大学から天安門広場の現場での目撃証言と考察、運動の中心的人物、重大事件、かぎとなる内幕、学生組織の上層部の決定と論争の全過程が記録されている。 
 封氏は著作で自分が北京大学準備委員会の結成に参加し、北京高等教育機関学生自治連合会主席および広場での副総指揮官に選出されたことから、6月4日未明、広場からの撤収を決定したことまで、興奮のスタートから悲惨な幕引きまでを回想している。北京の学者、陳小雅氏が言うように「この『六四日記』は優美な散文で、作者の誠実な記憶、良心のある反省、そして人間性溢れる発見が表されている」ものだ。 
 
 孔捷生氏の『血路1989』は視覚的かつ冷静な筆致で、世界を震撼させた事件を記録したものだ。タイトルは本文中の一編から取ったもの。当時、孔氏の家は天安門広場に近いところにあり、6月4日の事件発生後も広場を死守し、その後北京を脱出して広東に南下し、「黄雀行動」に助けられて亡命し、香港で『血路1989』『最後的北京』『穿過裂縫』という、天安門事件を記録する三部作を著した。『血路1989』は20年来、ネット上で流布し続け、現場を目撃した文献となっている。 
 5年前、孔氏はペンネームで大陸のネットに『血路1989』『最後的北京』をアップして大きな波紋をおよぼした。掲載した天涯ネットは1年あまり掲載を続けたが最終的に指示を受けて削除した。しかし、無数のネットユーザーたちが転送しあい、真相を知らないポスト天安門事件世代に民族の悲劇が伝えられている。 
 
 高瑜氏の『我的六四』を読んだ黎安友氏(米コロンビア大学政治学部教授)はこう言った。「この文集を読んでみれば、高瑜氏がまずジャーナリストとして有するべき勇気を備えていることに気づく。ジャーナリストは、政治世界での最も微妙な問題を捉えるものである。だが、この非民主の国家では政治的迫害を受ける。高瑜氏はかつて2度も投獄された。だが、彼女はそれで屈することなく、反対にペンをもって現実の迫害と闘っている。東国はその文章に伝説的価値をつけた。勇敢に現実と向き合う彼女の時事評論や政治論には、掘り起こされた国家の問題が反映されている。高瑜氏の観点に賛成できなくても、彼女が提示した問題とその答えを無視することはできない」 
 
 丁楚氏の『大夢 誰先覚 「中国之春」与我的民主歴程』は、香港の天安門事件書籍の中で目を引く一冊だ。「人を揺さぶる」権威性とおもしろさで注目されている。この本は、1986年から89年までを描いている。海外で始めての民主化運動組織「中国民主団結聯盟」(民聯)とその機関誌『中国之春』で起きた一連の出来事をめぐり、海外の民主化運動の盛衰の歴史と回顧を著した。 
 この本は、まえがきにあるように、「いまある種の民主化運動組織は実際にはアメリカと台湾当局が海外につくった情報基地にすぎない。『民聯』も例外ではない。これは『大夢 誰先覚』が投げかけた爆弾」である。こうした話は以前から言われていたが、嫉妬や利権をめぐる争いが、丁楚の本には驚くほど詳細に書かれ、読む人を驚愕させる。この本全体の主題は、王炳章、胡平、鄭為民ら「民聯」本部の上層部での主導権争いで、「台湾の情報・治安機関による資金援助」「特務事件」など核心に触れる事情で変化をつけ、スキャンダルなど内情が織り込まれ、民主化運動の苦悩が読者の前にさらけ出されている。 
 
 海外の民主化運動には「党」あり「派」あり、「会」も「部」もある。民主化運動家は多くても200〜300人しかいないのに、党派組織は50〜60にもなる。香港の評論家、王振■[王+昆]氏によれば、外の人には想像もできないが、海外の民主化運動の歴史はどうしてか泥沼状態になるという。乾いた砂のようにまとまりがなく、運動内部のスキャンダルはいつも「権力」と「資源」をめぐる争いで、権力を握っていないグループは争いに汲々とし、資源を得ていないほうは「分け前」をめぐって血みどろの争いをする。海外の民主化運動の悲劇は、「身内」が最大の敵になることだ。これこそ『大夢 誰先覚』が訴えることである。 
 
▽広場が人生を変えた 
 
 『天安門,路在何方』の著者、劉剛氏は、当時、公安によって指名手配された21人の学生指導者の一人である。ランクは3番目だった。劉剛は違う角度から天安門の参加者が求めた理想、勇気と苦しみを描いた。彼は、民主の道、牢獄の道、浄罪の道、自由の道という4部分に分けている。これもまさに天安門参加者の人生の道である。天安門事件を経験したことで、著者の心の軌跡と人生の軌跡は天安門広場で大きく変わった。 
 この変化は、天安門広場から始まり、一つは民主と自由に通じる明るい道と、もう一つは地獄と浄罪へ通じる暗い裏道を表している。 
 
 明鏡出版社、多維ニュースの創設者、何頻氏はイタビューに答えて言った。「大陸の友人たちに、香港と大陸との唯一の違いは、香港でならば大陸では出版できない雑誌や本を見ることができるとよく言われる。誇張した言い方だが、それは香港という自由な場で最も大切な価値はまだ失われていないことを示している。12年前、香港返還のころにあなた方のインタビューを受けたとき、私は香港の出版の自由が続くことを見届けると言ったが、この十数年間、明鏡はいまだ明らかな政治的圧力は受けていない。これがよい証明となる」 
 
 政治評論家でもある何頻氏は、香港の天安門関連書籍の出版ブームは、20周年を記念する現象であり、事件の記憶が薄れていくことへの不満の表れだと述べた。しかし、馬建氏の『北京植物人』が暗示するように、精神的には、中国人は天安門事件後、ほぼ植物人間状態にあり、天安門事件問題の解決はせっぱ詰まった問題と思われていない。 
 何頻氏は、「明鏡が今回出版した3冊の天安門事件書籍は、それぞれ異なる面を表している。明鏡では読者により多くの角度から歴史と現実を見てもらいたいと思っている。そうすることである種の政治勢力に惑わされないようにしてほしい。だが、これらの本が権力を握る者にどれほどの啓発になるか、あまり期待はできない。彼らは昇進にかけずりまわり、接待に疲れ、そのうえ本など読むだろうか」 
 
 天安門事件20周年のこのとき、趙紫陽の『改革歴程』を初めとする天安門事件関連書籍が香港で続々出版されている。しかし、誰にとっても1冊の本で完結はしない。足りない部分は自分の考えで埋めなければならない。 
 
原文=『亜洲週刊』09/5/31 江迅記者 
翻訳=納村公子 


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