2009年06月24日11時41分掲載  無料記事
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社会

体感する多文化コミュニケーション 多様なルーツ、多様な文化を歌に乗せ交流

  100余年前から、多様な文化を許容してきた港町・神戸。そんな異国情緒ただよう街にふさわしいイベントが、6月19日メリケンパーク近くの『神戸上屋劇場』で開催された。今年2度目となる「Shake Forward! (シェイクフォワード!)2009 」と題したこのイベントは、ミックスルーツなアーティストたちが集い、若者の音楽“ヒップホップ”にのせて、自らのアイデンティティを認識し、多文化コミュニケーションをはかろうというものだ。「ミックスルーツ」とは、様々な文化や国のルーツを背負っている人々のことを指す。ハーフやクオーター、在日外国人などが含まれる。(和田秀子) 
 
  イベントを主催しているのは、多文化共生をすすめるネットワーク「ミックスルーツ関西」。その代表を務める須本エドワードさん(27歳)自身も、父がベネズエラ人で母が日本人というミックスルーツをもつ人物だ。3歳から日本で暮らしているというが、ものごころついたころから自らのルーツを考えるようになり、「見た目や国籍でステレオタイプに判断される」ことに対して違和感を抱いていたという。インターナショナルスクールに通っていたエドワードさんは、同じ悩みを抱える友人らとともに「ミックスルーツ・ジャパン」を立ち上げ、音楽や芸術活動を通して多文化共生をすすめるイベントなどを開催してきた。 
 
  そんななか、「日本で暮らすミックスルーツたちの“ロールモデル”になりたい」と、自らのアイデンティティをヒップホップにのせて歌うアーティストらと出会い、意気投合。この「Shake Forward!」を開催するようになったという。 
 
△それぞれのルーツを歌にのせて 
 
  この日ステージには、ミックスルーツをもつアーティストたち9組がステージに立っていた。 
 
  元Jリーガーという異色の経歴をもつ『GeneZ(ジーンズ)』のボーカル・矢野マイケルさんは、ガーナと日本のミックスルーツ。「いつも人の視線が気になってしようがなかった」というマイケルさんは、この日ステージでも「ガーナと日本のハーフということで悩んだこともあったけど、それをプラスに変えてがんばっていきたい。ひとりが100歩進むより100人が1歩ずつ踏み出すことで、世界は変えられる」と訴えた。 
 
  また、「両親がボートピープル」というベトナム人のナムさん(20歳)は、自らのルーツを綴った『俺の歌』のなかで、こんなメッセージを伝えてくれた。 
 
「感謝する、戦争で生き残ったじいちゃん。感謝する、死なずに海を越えたことに。大声を出して出てきたぜ、この世に。さぁ、ここからが俺の人生の始まりだ…」 
 
  ナムさんは、「小さい頃ベトナム人であることが嫌でたまらなかった」というが、現在は自身のルーツに誇りをもち、ベトナムの大学に留学している。 
  この日、「はじめて息子のステージを見た」というナムさんのお母さんは、「ずいぶん成長してくれたわね」と、顔をほころばせながら息子の晴れ姿を見守っていた。 
 
△会場にはミックスルーツの子どもたちの姿も 
 
  多様なのはステージに立つミュージシャンだけではない。 
 
  「ここは外国だろうか?」と思うほど、観客たちも多様な人種であふれていた。なかでも印象的だったのが、親に連れられて来ていた小・中学生くらいの子どもたちが多かったことだ。はじめは、「ライブイベントに子どもを連れてきて大丈夫なんだろうか…」と心配したが、彼らにはこのイベントに参加する大きな理由があったことを、後から前出のエドワードさんから聞き、納得した。 
 
  この日、会場にはナイジェリアのルーツをもつ小学生の女の子が来ていた。このところ、「なぜ自分だけ見た目がちがうのか」ということに悩んでいたようで、ステージで堂々と歌う同じルーツの兄貴分たちを見て号泣してしまったという。きっと、小さい胸に抱えていたものがあふれ出したのだろう。 
  このほかにも、「引きこもりになっていたミックスルーツの子どもが、ライブを観てから学校に行けるようになった」という嬉しい報告もあったようだ。 
 
△ワークショップを開催し、子どもたちと交流 
 
  さらにライブ翌日は、「たかとりコミュニティセンター」にて、ライブに出演したアーティストたちと地元の子どもたちが参加して、ワークショップが開かれた。 
 
  ワークショップの内容は、『アーティストと一緒に、ラップミュージックを作ろう』というもの。子どもたちとアーティストが一緒になってチームを作り、テーブルに配られている色紙から連想するワードを画用紙に書き出していく。そして、書き出したワードが歌詞になるように、うまくつなぎあわせていくというものだ。 
「My Skin、バナナの色、神の栄光でもある地球の色」など、それぞれが思いつきで出したとは思えないほど、深い意味合いの込められた歌詞ができあがっていく。 
  そして最後は、作ったばかりの歌をアーティストと子どもらが一緒になって歌い、2日間にわたるイベントは幕を閉じた。 
 
  このワークショップに参加していた学生たちに感想を聞くと、次のような答えが返ってきた。 
 
「生まれも育ちも日本ですが、ハングルネームを使っているので、いまでも自己紹介するときはドキドキします。今日は、いろんなルーツをもつミュージシャンと出会えて、とても勇気がわきました」(在日コリアン 女子高校生) 
 
「いろんなルーツをもつ人たちの中にいると、不思議と安心します。ふだんは意識していないけど、いつも心のどこかに居場所のなさを感じているのかな…」 
(在日中国人 女子高校生) 
 
  多様なルーツをもっていること、そして多様な文化を背負っていることは、プラスであって決してマイナスではない。しかし日本では、まだその多様性の素晴らしさが充分に認められていないようだ。こうした活動を続けることで、肌の色や国籍ではなく、ひとりひとりのパーソナリティが尊重される社会へと近づいていくだろう。 


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