2009年12月05日12時11分掲載  無料記事
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外国人労働者

国家試験改善が急務 インドネシア人看護師らの受け入れで支援団体が政府に要望書提出へ

  日本とインドネシアの経済連携協定(EPA)により来日しているインドネシア人看護師・介護士候補生たちと、その受け入れ機関を応援しようと、今年5月に発足した『ガルーダ・サポーターズ』の集いが11月28日、大阪府吹田市で開かれた。受け入れ施設の責任者や候補生たちが多数集まり、現状報告や現行制度の問題点、および国家試験に関する対策などが話し合われた。ガルーダ・サポーターズでは、今月中にも改善策をとりまとめ、政府に提出する予定だという。(和田秀子) 
 
■多くの問題点をはらんだEPA 
 
 現在、第一陣として2008年8月に来日したインドネシア人看護師・介護福祉士候補生たちは、それぞれの受け入れ病院や施設で働きながら、日本語学習や国家試験合格のための勉強を続けている。 
 
 この日は、受け入れ機関や候補生らを対象に、ガルーダ・サポーターズが実施したアンケート調査の中間報告がなされたのだが、その結果から見えてきたのは、EPAの制度自体に対する問題点だった。 
 
「EPAでの受け入れ方法に関して改善すべき課題はあるか」との問いに対し、9割を超える受け入れ施設が、「やや課題がある」「多くの課題がある、問題だらけだ」にチェックをつけた。課題があると考える理由としては、「日本語学習に対する国の支援や関わり方に問題がある」「国家試験対策について現場任せになっている」「受け入れ施設の経済的な負担が大きい」などが挙げられており、改めて、政府が受け入れ施設側に丸投げをしている実態が浮き彫りとなった。 
 
 いっぽうで、アンケートに答えた候補生たちの半数近くが「EPAの課題」として挙げたのが、「インドネシアでの説明が不十分」という点だった。 
 
 つい先日も、「資格や業務の内容、給与水準などがインドネシアで聞いていた話と違う」として、看護師候補生の一人が帰国したことは記憶に新しいところだが、こうした事態を招いた原因は、人員集めに躍起になっていたインドネシア政府が、給料から保険料や税金などが天引きされることを正確にアナウンスしていなかったことや、現地の新聞に誤った賃金体系が掲載されるなどの行き違いがあったからだと見られている。 
 
■受け入れ施設側にも大きなプレッシャー 
 
 受け入れ施設側も候補生側も、ともに頭を悩ませているのが日本語の習得と国家試験対策だ。候補生たちの9割近くが、「研修や仕事、生活で困ったことは?」という問いに対して、「日本語学習」や「国家試験の対策」を挙げており、3〜4年以内に試験にパスしなければならないプレッシャーを感じている。 
 
 しかし、候補生たち以上にプレッシャーを感じているのは、受け入れ施設側だとも言える。 
 
 ほとんどの候補生たちは日本語の知識がゼロの状態で来日し、6ヶ月間は国の研修施設で日本語研修を受ける。しかし、受け入れ施設に移ってからは、すべて施設側が用意したカリキュラムや教材に沿って、日本語学習ならびに国家試験の勉強を続けることになっている。つまり、候補生たちが国家試験に合格するか否かは、受け入れ施設側の肩にかかっていると言っても過言ではないのだ。 
 
 現在2名の看護師候補生を受け入れている大阪府内の病院の看護部長は、現状報告会のなかでこう訴えた。 
 「候補生たちが日本語をマスターし、3年間で国家試験にパスすることは容易ではない。私たちは病院を挙げて彼女らの勉強をサポートしているが、このままでは国家試験に合格することは絶望的。日本政府は『どうぞ来てください』と言って彼女らを迎え入れたのに、このまま大多数の候補生を追い返してよいのだろうか? 早急に国家試験の方法を見直してもらわねば、この先、候補生を受け入れることは難しい」 
 
 同病院は候補生を受け入れるにあたり、看護部長みずからがインドネシア語の会話集を買い集め、病院内でスムーズに仕事ができるよう、日本語学習のための教材を作成した。さらには、地域のボランティアを講師に招き、国家試験対策や日本語の勉強会を毎日のように行っている。 
 もちろん、かかる費用はすべて施設持ちである。受け入れる病院や施設によって差は見られるものの、どこの受け入れ先も「なんとか合格してもらいたい」という思いで教育にあたっていることは間違いないだろう。 
 
■介護の質を落とさずに、候補生たちのレベルを引き上げることが大切 
 
 “国家試験合格”という目標を実現可能な着地点にするためには、どのように制度を見直せばよいのだろうか。 
 国家試験の対策としては、現在のところ「漢字にルビをふる」「試験時間を延長する」さらには、「在留期間を延長して試験を受けられるチャンスを増やす」などが検討項目として挙がっている。 
 
 「試験時間の延長」ないし「在留期間の延長」に関しては、どの受け入れ機関や候補生たちからも賛成する声が多いようだが、「漢字にルビをふる」という改善策に関しては、「候補生たちは“漢字”を象形でとらえて意味を覚えようとしているので、ひらがなでルビをふってもあまり意味がない」という意見や、「老年介護の分野では、インドネシアにはない看護用語も登場するため、漢字で覚えたほうがスムーズ」といった意見が一部の施設から挙がっているという。 
 
 ガルーダ・サポーターズの共同代表であり、みずからも訪問看護の第一線で活躍する看護師である宮崎和加子さんは、「すでに国家試験合格を諦めて、『3年間日本で稼いで帰ろう』と目標を切り替える候補生も出てきている。早急に国家試験の方法を見直すことで『がんばればチャンスがある』ということを示してやることが大切」と述べたうえで、「とは言っても、試験を簡単にして合格させれば良いというものではない。看護や介護の質を下げて、被害を受けるのは患者や利用者。日本の看護レベルを落とさずに、候補生たちを引き上げていく方向で見直しをすることが大切」と、国家試験の方法も含めて、EPA制度自体の改善の必要性を示唆した。 
 
 いずれにせよ、候補生や受け入れ施設側の苦労が無駄にならないよう、早急かつ柔軟な対応が求められている。 
 
注:文中のアンケート結果は中間報告です。正式な結果は12月中に集計される予定。 


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