2010年01月17日00時28分掲載  無料記事
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反貧困

「無断外泊200名」「2万円持ち逃げ」は事実誤認  ワンストップの会が都に緊急要請

  東京都が国の要請を受けて実施した「公設派遣村」の利用者に対して、「無断外泊200名」とか「2万円を持って逃亡」、飲酒事件などといった報道が相次いだ。反貧困運動の一環として「派遣村」問題の取り組んでいる市民組織「年越し派遣村が必要ないワンストップ・サービスをつくる会」(以下、ワンストップの会)は1月12日、東京都庁で緊急記者会見を開催し、現場の状況を報告すると同時に、東京都に対して緊急要望書を提出した。その中でワンストップの会は無断外泊200名は完全な事実誤認で、大多数の利用者は真剣に努力していることを強調。東京都に対し、誤った報道、利用者パッシングをただすため、直ちに記者発表をおこない、正確な数字や都としての管理・運営体制の不備などの問題点、経過を明らかにすること、などを要望している。(日刊ベリタ編集部) 
 
  ワンストップの会は記者会見で次のように述べた。 
 
(1)先週後半から「無断外泊200名」とか「2万円を持って逃亡」、飲酒事件など、東京都の「生活総合相談」の利用者(大田区の宿泊施設滞在者)の不祥事に関する情報が、一部メディアで盛んに報じられています。しかし、これらは誤った情報に基づく完全な事実誤認か、ごく一部の心ない利用者の行動を誇張して、生活再建に真剣に努力する大多数の利用者の心を深く傷つける行為と言わざるを得ません。中には、「?」マーク等をつるとか、今回とは全く関係ない昨年の「年越し派遣村」の写真を掲載して無関係の脚注をつけるなどの報道もあります。マスコミ各社には事実を正確に取材した冷静な報道を求めるものです。 
 
(2)事実誤認の報道が続いているにも関わらず、東京都が正確な数字や具体的な経過や事実をプレスリリースせず、いたずらに混乱を放置していることは大きな問題です。ワンストップの会は、その是正を強く求めるものです。 
 
(3)ごく一部ですが、心ない利用者が飲酒や貴重な行動費2万円(交通費、昼食代)を費消したことは事実であり、ワンストップの会としても非常に残念に感じています。しかし、大多数の利用者は真剣に各種制度を利用した生活再建の道に踏み出し、真剣に努力しています。生活保護について言えば、多くの区で今週前半に開始決定が出る予定であり、住まい探しが佳境にはいっている状況です。 
 
(4)今回誤った報道が続いているのは、宿泊施設における管理体制の不備が大きな原因ではないかと推察されます。「無断外泊200名」との報道がありますが、東京都は「その数字のもとは朝食と夕食を食べた人数の差ではないか」と言っていますが、宿泊施設が辺鄙なところにあり、夕食時間が17時半であることから帰れず、食べれなかった人が最初は続出しました(現在は20時半までであれば、夕食が取ってある)。実際の外泊者は40数名のようですが、福祉事務所で「2日ぐらいでアパートを探すように」と言われ、遅くまで探し回ったため帰ることができなくなったが、連絡先がわからなかったなどの報告が多数寄せられています。大田区の施設は施設の性格から電話番号が公表されておらず、東京都もあわてて施設内に東京都本部の携帯電話を後追いで引きましたが、その番号は現在も徹底されていません。東京都も努力はされているようですが、こうした管理体制の不備の中で、正確な情報が流れていないのですが、その是正、少なくとも正確な情報のリリースは緊急課題です。 
 
(5)なお、同施設の環境は様々な問題がありますが、特に医療体制の不備は深刻な問題であり、雑魚寝の集団生活にも関わらず健康チェックがないこと、医療機関に係るにも救急車をなかなか読んでもらえないなど、様々な問題が発生しています。その早急な改善が必要です。 
 
  以上のような現実を踏まえ、ワンストップの会は宿泊施設の中にはいって相談活動に全力をあげ、連日100名を超える面談を実施し、各種制度を使ったアドバイスや支援をおこなっている。この体制は1月18日まで続け、支援を強めて生活再建のメドをつけるとともに、継続した支援をすすめていくとしている。同時に、東京都に共同したとりくみを呼びかける緊急要望書を出した。。 
 
▼東京都への緊急要望書 
2010年1月12日 
東京都知事 石原 慎太郎 殿 
 
年越し派遣村が必要ないワンストップ・サービスをつくる会 
代表 宇都宮健児(弁護士)、略称:ワンストップの会 
TEL:080-3432-9023  Email:hakenmura@mail.goo.ne.jp 
 
年末年始の生活総合相談にかかる緊急要望 
 
貴職の日頃からのご活躍に敬意を表します。 
 
私たちは、昨年の年越し派遣村の実行委員やボランティアなど有志があつまり、「年越し派遣村が必要のない」施策をつくるために結成された会です。私たちは国の政策を受けて東京都が実施された「生活総合相談」を成功させるために宣伝活動や相談活動などのサポートをおこなってきました。特に1月4日以降は施設内に立ち入ることを許可いただきながら、総合相談活動など今回のとりくみを成功させるべく、全力を尽くしてまいりました。 
 
数日前から、「無断外泊200名」など事実無根の報道が相次ぎ、貴職は1月18日をもって「生活総合相談」事業を終了する旨、明言されています。残念ながら、ごく一部の利用者が飲酒等の問題行為をおこなったことは事実であり、私どもも非常に残念に思っています。しかし、大多数の利用者は一刻も早く生活再編に踏み出そうと懸命の努力を続けています。多くの利用者が今週に生活保護費の支給が認められる方向であり、現在は住まい探しの佳境です。そうした最中に「生活総合相談」を終了し、宿泊施設を閉じられることは止めるべきです。 
 
「無断外泊200名」と言われていますが、実際の外泊者数は40数名であり、それも東京都の連絡体制の不備から、当初は外泊の届け出先や急きょ設置された宿泊施設の東京都本部の電話番号を知らない人が大多数で、外泊者の大半は転出予定地でネットカフェ等の安価な施設に泊まり、アパート探しなどに走り回っていた人たちです。東京都がマスコミの誤った報道を直ちに否定せず、放置されていることに、私たちは大きな疑念を抱いており、早急な改善を求めるものです。 
 
また、現在の宿泊施設は畳の大部屋に雑魚寝にも関わらず、医療体制が貧弱であることを強く憂慮しています。利用者の多くは、経済的理由から医療機関の受診が中断していた人々であり、慢性疾患の悪化や伝染性の疾病の罹患も懸念され、住まいを失うという状況のもとで、肉体的にも精神的にも追い詰められており、いっせい健康チェックの実施など、早急な対策が必要です。 
 
私たちは、国と東京都が協力して、年末年始に派遣切り等で仕事と住まいを失った労働者に宿泊施設を提供したことは大きな前進だと受け止め、今も施設内で相談活動を担っているわけですが、せっかくたどり着き努力している彼ら・彼女らに生活再建の道を閉ざすことなく、支援の継続・改善を求めて、下記のとおり緊急要望を提出いたします。 
 
1.「無断外泊200名」「2万円持ち逃げ」など、誤った報道、利用者パッシングをただすため、東京都として直ちに記者発表をおこない、正確な数字や都としての管理・運営体制の不備などの問題点、経過を明らかにすること。 
 
2.努力している利用者の生活再建の道を1月18日以降も閉ざさないこと。そのため、区市や国とも相談して、宿舎確保のめどが立っていない利用者を対象に、もっと交通の便のよい地に臨時的な宿泊施設を確保し、各種手続きやアパート探しや就労活動の時間的余裕を確保すること。 
 
3.全員の先行きのメドを建てるため、ワンストップの会の持つ相談情報と貴職の名簿を突き合わせ、具体的な個別支援・アドバイスを協力して実施すること。 
 
4.生活保護の手続きについては、昨年12月25日の厚労省通知「失業等により生活に困窮する方々への支援の留意事項について」の趣旨をいっそう徹底し、面談等が遅れている一部福祉事務所への指導を強め、1月18日という日付を意識した迅速な支給を実現すること。また、派遣切りや解雇等によって住まいを失った経過にかんがみ、居宅保護を原則として、本人同意のない施設への誘導を止めるよう指導を徹底すること。 
 
5.他の制度に関しても、1月18日を意識した迅速な手続きを関係実施機関に徹底すること。例えば、住宅手当+総合支援資金で実際に敷金等が入金され住まいに入居できる時期が2月初旬もしくは中旬以降になる事例などについて、即刻是正措置を取ること。 
 
6.女性や夫婦、病弱者等、大田区の宿泊施設以外に置かれている利用者については、東京都による情報提供や支援がいっそう遅れている実態にかんがみ、1月18日以降も当分の間、施設提供を継続し、支援の強化をはかること。女性については、特に精神的ケアを含めた支援を強化すること。 
 
7.現行の宿泊施設における医療・健康問題については、集団生活における感染の拡大を防止するとともに、医療中断からの健康悪化がすすんでいる状況にかんがみ、早急に全員の健康チェックをおこない、必要な医療を提供すること。当人から申し出があった場合には、不当な制限をかけることなく、迅速に医療機関に搬送すること。障害等のある利用者については、障害ニーズに応じた適切な障害者福祉につなげること。また、バリアフリーや個室対応等適切なシェルターを確 
保するとともに、居宅生活へつなぐこと。 
 
8.短期間で十分な宣伝もない中で833名もの人が今回の「生活総合相談」を利用した事態にかんがみ、今回の実施状況を振りかえって、恒久的なワンストップ体制の構築や第2のセーフティネットの改善など、制度改善を政府に求めていくこと 
 
《疾病・障害をもつ人のワンストップでの対応における改善申し入れ》 
 
1、急迫状態にある人の相談がありえることをワンストップでも共有し、きちんと対応すること。はじめから患者や障害者を排除した相談体制を改善すること。 
(1)窮迫状況にある方は生活保護申請を速やかに進めること。 
(2)医療受診を希望する人を速やかに医療機関に繋げること。 
(3)適切に障害者福祉制度等の福祉制度の紹介、繋ぎまで行うこと。 
(視覚障害の方のガイドヘルプ、介助体制、障害加算、障害年金、地域の自助グループ、相談先等) 
 
2、医療機関受診、入院対応について 
(1)症状が悪化している場合等で移動(病院、福祉事務所、宿泊施設間等)が困難な場合、タクシーや救急車対応等の利用が可能であることを適切にインフォメーションすること。くれぐれも阻害するような行為をしないこと。 
(2)体調が安定しない人の入院期間を、生活保護受給者であること等を理由に不当に制限し、追い出さないこと。医療機関にも周知徹底すること。又、退院後の宿泊施設の確保等丁寧に対応すること。 
(3)退院後、安静が必要な患者をネットカフェ等、安静療養ができない宿泊施設に誘導して症状を悪化させることがないようにすること。安静療養できる宿泊所を提供すること。 
 
3、集団生活が難しい人やバリアフリーの宿泊施設の確保 
(1)メンタル症状や、女性の対応、性障害等から集団生活が難しい方の個別対応ができる緊急宿泊設備(個室対応を含め)を整備すること。 
(2)車椅子の方等のバリアフリー対応した緊急宿泊を整備すること。 
 
4、なぎさ寮で続いている不適切な対応の改善を求める。改善計画を期日を決めて提出すること。 
(1)入所している人の健康管理を、定期的に各部屋にまわって声かけ確認すること。医療受診希望がでた場合には速やかに医療機関につなぐこと。 
(2)体調が悪いと訴えた、受診した方を後日経過を追って声かけ確認すること。 
(3)医療機関への紹介が十分でないまま、亡くなられた方がいる。相談対応の経緯、原因究明の結果を公表し、2度と再発させないこと。 
(4)亡くなられた方がでた後も、緊急で医療が必要な人が救急車を呼ぶことを阻害した職員がいる。改善対応を明らかにすること。 
(5)「救急車を呼んだ責任を誰が取るのか」と救急車をよぶことを妨げる、救急隊員から求められた救急車の同伴を断り「救急車を呼んだので責任をとれ」と相談者の胸を小突く等の対応した職員がいる。名前を明らかにし、2度と繰り返させないように、謝罪させること。 
 
5、メンタル的要因や病気、障害特性等により18日以降の行く先がなかなか決まらない人もいる。すべての人を途中で路上に放り出すようなことがないように公的保護責任を果たすこと。 


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