2010年01月22日14時12分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

空港の全身透視  まるでヌード写真、テロ対策名目に心身すべてを管理  小倉利丸

  空港での全身透視スキャナーの導入が急速に広がっている。米国の他、イギリス、カナダ、オランダ、イタリアなどがすでに導入を決めている。(サンケイ、時事、中日など)読売は5日付けで次のようにEUの対応を報じている。 
 
◆報道された内容 
 
  欧州連合(EU)の執行機関、欧州委員会は4日の定例記者会見で、航空テロ防止策として、空港の保安検査の手順を定めたEU規則を改正する方針を明らかにした。 
  衣服の内側を透視できる全身スキャナーの使用を合法と位置付け、各地の空港に導入を促す方向で改正案検討を進めている。 
 
  全身スキャナーは従来の金属探知機と異なり、爆薬など非金属の危険物も発見しやすいとされる。ただ、下着の内側にある身体の形状、特徴を明瞭に映し出すことから、航空機搭乗客のプライバシー侵害につながる恐れがあるとして、欧州各国はこれまで導入に慎重だった。 
 
  EUは規則改正により、各地の空港当局が使用できる検査機器のリストに全身スキャナーを加える方針だ。合法性が明確になることで、多くの空港が導入に踏み切る可能性が高い。 
  昨年末の米航空機テロ未遂事件で、犯人は爆薬を衣服の内側に隠してオランダの空港検査を通過したとされる。オランダと英国は近く、米国行き航空便の搭乗客を対象に全身スキャナーによる検査を始める方針だ。 
 
  欧州委は2008年にも規則改正を目指したが、欧州議会が、プライバシー侵害や、健康被害への懸念を理由に難色を示したため、断念した経緯がある。 
 
◆まるでヌード写真 
 
  全身スキャンとして用いられるのは、backscatter x-rayとよばれるもののようだ。どのくらい透過によるプライバシー侵害だが、電子プライバシー情報センターのウエッブでは、右のような画像が提供されている。 
 
  Stop Airport Searchesのウエッブには下のようなもっと鮮明なヌード写真同様のデータ表示されている。 
 
  これらの画像からもわかるように、これがプライバシーの侵害にあたらないということであるとすれば、もはや「プライバシーの権利」などというものは失効してしまったというしかなかろう。これだけプライバシーを放棄すれば「テロとの戦争」に先進国が勝利できるのかといえば、まったくそうではない。 
 
  そもそもこのスキャナーが少量の液体など金属以外の物質を検知できる確率は低いとみられている。ピストルやナイフなどの金属類をわざわざ機内に持ち込もうとするようなヘマな「テロリスト」がいるだろうか?とすれば、一体なんのために、このような盗撮まがいの仕組みを導入するのか。 
 
◆人体への影響も 
 
  上記のEUについての報道にあるように、X線を使用することから人体への影響が危惧されて、導入が見送られてきた経緯があるが、今回は、その危険とテロとの危険を比較衡量して、導入に踏み切ったのだろう。 
  ガンによる死亡と放射線治療によるリスクを比べて、前者のリスクを回避するために後者を導入するというのと同様の理屈だが、上に述べたように、これがテロに対する予防や回避になるという客観的な根拠は皆無に等しい。backscatter x-rayの放射線量は微量といわれており、人体に影響があると明確に証明できるほどの高レベルではないことは確かだ。 
 
  しかし、私たちは、このスキャナーで検査されるて浴びる照射線量に自然界の放射線に加えた量を浴びることになる。微量であっても長年人が浴びてきた自然放射線量を越えることにリスクがないとはいえないのではないか、それが人によっては毎日といことになる。こうした微量の人工的な放射線被ばくへの疑問や危惧は原発が出す放射線をめぐっても繰り返し指摘されてきたことである。微量であるから大丈夫ということも、明確な根拠があるといえるのだろうか。 
 
◆疑心暗鬼を増幅 
 
  また、この全身透視スキャナーの導入の是非をめぐる議論が思わぬ副作用ももたらしている。このような、プライバシー侵害の効果も怪しいテクノロジーを導入するのではなく、テロ対策として、身元の確認など本人情報の精査をすべきだ、という議論が急速に浮上しつつある。 
 
  プライバシー侵害の程度の相対的な評価でいえば、実感というれべるでは全身丸裸よりは身元調査の厳格化の方が「痛み」は少ないが、しかし、実際的な波及効果という点では後者の方が圧倒的に大きな打撃がある。テロの定義もあいまいであり、その可能性のある人物を洗い出すというデータマイニングは、人々の思想信条、信仰、人間関係、人種、出身国、交友関係などあらゆる範囲に及ぶ個人情報を政府が網羅的に収集し、なおかつこれを政府間で共有するシステムを構築する強い欲求を生み出す。 
  セキュリティ産業がこれを後押しするだけでなく、結果として人種差別や宗教差別を加速化し、相互の疑心暗鬼を増幅することに、政府が加担することになる。全身透視スキャンに対する代替案にはなってはならない方向だ。 
 
  むしろ、上記のいずれも「テロ」を防ぐことは絶対にできないということを自覚すべきだ。前のブログにも書いたように、唯一の方法は、67億人の人々の幸福と希望をこの数世紀にわたって奪いつづけた先進国がこの数世紀にわたって構築してきた世界の秩序そのものが内在させている覇権主義的な世界支配の構造を変える以外にないのだ。 
 
(ピープルズ・プラン研究所) 


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