2010年01月25日14時21分掲載  無料記事
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遺伝子組み換え/ゲノム編集

遺伝子組み換え作物栽培禁止の解除で懸念される豪州産ナタネの遺伝子汚染  日本の生協組織が調査  清水亮子

  生活クラブ生協は非遺伝子組み換えナタネも求めて、1997年から西オーストラリアからナタネを購入している。その西オーストラリア州で州政府がそれまでの遺伝子組み換え(GM)ナタネの栽培モラトリアム(期限付き栽培禁止)を解除したため、2009年からGMナタネを実験栽培する農家が出てきた。GM作物はいったん野外で栽培され始めると昆虫や風などによって花粉が飛散し、近縁の植物に移転する。いわゆる遺伝子汚染だ。オーストラリアでもそのことが懸念されることから、同生協は2009年12月、現地で栽培実態や流通管理、遺伝子汚染対策などについての調査を行った。調査に加わった清水亮子さん(市民セクター政策機構)の報告を、「遺伝子組み換え作物いらない!キャンペーン」のニューズレター(1月20日号)から紹介する。(日刊ベリタ編集部) 
 
◆白熱するモラトリアム論議 
 
  遺伝子組み換え作物の栽培をめぐって、オーストラリアは揺れ続けている。生活クラブ生協は、1997年から非遺伝子組み換えのナタネを西オーストラリア州から購入し、定期的に現地を訪れている。今年の視察は、いつもにも増して緊張感の商いものとなった。なぜなら、西オーストラリア政府は2009年にGMナタネの実験栽培を実施し、17名の農家が、自らの農場でモンサント社のラウンドアップ・レディ・カノーラ(RRナタネ、除草剤ラウンドアップに抵抗力を持つナタネ)を栽培したからだ。 
 
  西オーストラリアのGM作物をめぐる状況は、2008年の州議会選挙以降、大きく様変わりした。選挙では前政権党の労働党が大きく議席を減らし、自由党と国民党の連立政権が誕生した。労働党政権は、一貫して遺伝子組み換え作物の栽培に反対の立場をとり続けているが、政権交代直後の2008年末、テリー・レッドマン農業大臣(国民党)が、GMコットンの栽培とGMナタネの実験栽培を許可したのだ。 
 
  オーストラリアでは、2003年に連邦政府の安全性審査が終わり、RRナタネは承認された。しかし、市場への影響を考慮した上で栽培禁止措置をとる権限が州政府にあるため、その権限を使って、2007年まではすべてのナタネ栽培州においてGMナタネの栽培モラトリアム(期限付き栽培禁止)が設けられた。しかし2008年初め、東部の2州、ニューサウスウエールズとビクトリアがモラトリアム期限切れとなり、GMナタネの実験我眼を実施。 2009年には商業栽培が行われた。 
 
  酉オーストラリアでは、2003年に「遺伝子組み換え作物栽培禁止地域法2003」(GeneticallyModified Crops Free Act 2003、以下「法律2003」)が制定され、この法律を使って当時のキム・チャンス農業大臣が2004年に出した指令によって、西オーストラリア全体がGM作物栽培禁止とされた。先述のGMコットンの栽培とGMナタネの実験栽培は、同じ法律の「例外規定」に則って大臣が「例外指令」を出したことによって行われたものだ。同法には、「農業大臣は、特定の条件下においてGM作物の栽培を許可することができる」とある。 
 
  この「法律2003」は、施行から5年が経過し、2009年は見直しの年に当たった。見直しのプロセスとして「意見書」(submission、目本でいうパブリックコメントに当たる)の提出が州政府によって呼びかけられ、法律内に定められたスケジュールによって、提出された意見書の内容をまとめた報告書が12月24日までに州議会と農務大臣に提出されることになっていた。 
 
  注目された報告書は、11月27日に議会とレッドマン大臣に提出された。それによると提出された意見書は400以上。うち9割がモラトリアムの延長を政府に求めた。報告書は、意見書を検討した結果として「法律2003は有効性を保ち続けている」「大臣が例外を認めてGM作物の栽培を許す決定を下す場合は、もっと透明性の高い、市民参加のプロセスがとられるべき」「GM栽培の圃場についての情報は、周辺農家に確実に知らせるべき」などと勧告している。 12月13目から実施された今回の西オーストラリア視察では、この報告書が州政府の政策にどのような影響を与えるのかを探ることも目指した。 
 
◆集荷・流通段階の検査体制は 
 
  西オーストラリア産ナタネはまず、農場からCBH(Co-operative Bulk Handlers)という穀物集荷業者のレシーバルポイントヘと運ばれる。そのナタネを港に輸送するまでがCBHの役割だ。レシーバルポイントでは、NON−GMとして持ち込まれた場合には、まず検査紙によるテストを行う。その他、雑草の混入やら油糧の基準を満たしているかなどの検査もする。各レシーバルポイントから作物が持ち込まれるところがメトログレインセンター。メトログレインセンターに持ち込まれる際にはPCRテストが行われる。 
 
  2009年のGMナタネの作付けは17人の農家で800ヘクタール。 2009年に関しては、レシーバルポイントでの検査紙による定性検査(ストリップテスト)、メトログレインセンターでのPCRテスト、船積前の追加のPCRテストと計3回の検査が行われた。今後のIPハンドリングの在り方については、GMナタネの栽培状況と照らし合わせながら、適宜変更していくことになっている。 
12月15目にCBHの管理するメトログレインセンター、レシーバルポイント、そして今乍GMナタネを試験栽培したナタネ農家を訪問した。 
 
  メトログレインセンターには容量1000tのサイロが32本あり、そのうち1つが生活クラブ行きの非GMナタネ専用に使われている。また、2本はGMナタネ専用として使われていた。サイロにナタネを送り込むエレベーターは、同一のものが使われているが、「エアクリーナーで完全にクリーニングを行っているので、問題ない」と説明された。メトログレインセンターヘとナタネや小麦などを運び込むトラックは、幌で覆われており、こぼれ落ちによる自生植物については、農薬を使用して枯らしているそうだ。 
 
  ちなみに、西オーストラリア農務省のホームページでは、テリー・レッドマン大臣がメトログレインセンターでGMナタネの搬入を視察した様子がビデオで流され、今年試験栽培されたGMナタネの分別が、徹吻妁に行われたとアピーブレしている。 
 (http://www.agric.wa.gov.au/PC_93788.html?play=true&id=1) 
 
  エイボンという町のレシーバルポイントでは、たんぱく質、油量、水分量、雑草の混入などについて品質基準を満たしているかどうか調べるためのサンプリング調査を行っている。1つとても気になったのが雑草の基準だ。雑草の規準を記した文書には、「ワイルドターニップ、1グラム当たり6粒まで」とあった。 
ワイルドターニップは、ナタネと同じアブラナ科の雑草で、ナタネより少し粒が小さく、割ってみると中身が白いそうだ。ナタネは中身が黄色いので、それで区別がつく。もしGMナタネが雑草化したら、非GMナタネにワイルドターニップと同様に混入するはずだ、と思いながら基準を見た。これがストリップテストで判別できるのかは、今後大規模にGMナタネの栽培が始まった際には、点検が必要である。 
 
◆実験栽培農家を訪問 
 
  州内を南北に走る小麦ベルトの北端にあるカンダーディン。ここで4000ヘクタールの農地を耕作するデイビッド・フルウッドさんを訪ねた。今年は1600ヘクタールに小麦、残り2400ヘクタールに大麦、ナタネ、ルーピンを800ヘクタールずつ栽培したという。そして、そのナタネの半分はGMナタネだ。 
小麦、小麦、大変、ナタネ、ルーピンの順番で5年4作の輪作を行っている。GMナタネの収量について尋ねると、「収量は在来ナタネとほぼ同じ。しかし、自分にとって一番重要なのは収量ではない。GMナタネの導入で雑草コントロールが簡単になる」とフルウッドさん。西オーストラリアではライグラス、ワイルドラディッシュなどの雑草が深刻で、RRナタネを植えることによって、RR除草剤で雑草を徹底して駆除でき、小麦、大麦などのシリアル類の雑草コントロールが容易になるとフルウッドさんは考えている。 
 
  しかしオーストラリアでは、除草剤ラウンドアップに抵抗力を持つライグラスが広がり始めている。RRナタネは、雑草コントローソレという面でいつまで有効なのだろうか。 
 
  非GMナタネとGMナタネの間の距離についてフルウッドさんは、「OGTR(オーストラリア政吋遺伝子技術規制局)の基準は5メートルだが、自分は12メートル間隔をあけた」と区分管理に自信満々といったところだった。 
しかし、この5メートルは、OGTRの基準とはいえ、モンサントの推奨値にすぎず、なんら科学的根拠はない。ちなみに甘いと批判される日本政府の基準でさえ600メートルで、4キロ離れたところでも交雑したという研究結果もある。 
 
◆汚染の責任は誰が負うのか 
 
  冒頭で記した「法律2003」の見直しの話題に戻りたい。報告書では、「透明性ある市民参加の決定」を求めているのだが、報告書は、2009年の議会の最終日に提出され、2010年の議会の審議は2月になるまで始まらない。にもかかわらず、レッドマン大臣は1月末までには何らかの決定を下すとメディアなどに語っている。大臣はGM作物の商業栽培にあくまで意欲的で、モラトリアムを解除しないまでも、2010年は2009年以上に大規模な実験栽培が行われるか、ことによっては先述の「例外措置」によるGMナタネの商業栽培すら許可しかねないと見られている。 
いずれにせよ、酉オー--ストラリアのナタネをめぐる状況は、大臣の判断待ちという状態だ。 
 
  そんな中、いち早くGMナタネの商業栽培に踏み切った東部の州では、市民団体「GMクロップウオッチ」の活動によって、すでに汚染が顕在化していることがわかった。GMクロップウオッチは、市民からの寄付をもとに100セットのGM検査キットを購入。農家と協力して地域の道路端で調査活動を行っており、すでにニューサウスウエールズ州やビクトリア州ホーシャムで、RRナタネの自生が確認されている。 
 
  「自生ナタネの除去については、道路管理当局、郡、州、連邦政府いずれも責任を負おうとしない」とGMクロップウオッチのジェシカ・ハリソンさんは言う。 11月12日には、抜き取った自生RRナタネをモンサントのメルボルン事務所に突きしに行くという直接行動に訴えた。 
 
  私たちが訪間中の12月16目には、ビクトリア州にある2つの非GMサイロからGMナタネが検出されたというニュースも飛び込んできた。それぞれ500トンのサンプルに1%の混入が見つかったが、サイロを管理するグレインコープのデビッド・ジンズ氏は、新聞のインタビューに答え、サイロの中には2000トン入るので、「実際の偶発的混入植は0.25%」と発言。混人饒の基準は0.9%なので非GMナタネとして出荷することができる、 
とした。基準植以下なので、原因の調査も行わないという。 
 
◆GM汚染防止対策の負担はすべて非GM農家にかぶせる 
 
 汚染についての報告が続々とある一方で、汚染に刻する責任は一方的に非GM農家が負わされるような形で西オーストラリアではGMナタネの導入が検討されていると「憂慮する農民ネットワーク」のジュリー・ニューマンさんは指摘する。 
 
「ここでは、シュマイザー事件は起こりません。非GMナタネの農家がナタネを販売するとき、検査でGMナタネが検出されたとしたら、農家はそのナクネをGMとして販売して、特許権使用料をモンサントに支払わなければならないのです」 
 
  オーストラリアはUPOV条約(植物新品種保護に関する国際条約)に加盟しているので、農家はエンドポイント・ロイヤルティとしてモンサントに支払う必要が出てくる見込みという。また、キム・チャンス前農業大臣が召集したGMナタネ検討委員会が最終報告としてまとめた「GMカノーラに関するインフォメーション・ペーパー」(2009年5月)には、オーストラリア油糧種子連盟の事務局10長の発言として「非GMの販売を望む農家は、作付け前に種子の状態の確認(筆者注:非GMの種子であることの確認)をしなければならない」と書かれており、現に東部の州では、購入した種子のPCR検査の費用を非GM農家が負担した。 
 
  GMナタネが環境へ拡大していかないための努力は、GM農家が責任を持って行うべきではないだろうか。それなのに、オーストラリアでは、非GMナタネをもっぱらニッチマーケットとして扱い、非GM農家に汚染防止のためのあらゆる手段を講じることが求められている。そして、そのコストが、最終的に価格として消費者に跳ね返るとしたら、あまりにも公平性を欠く。 
 
◆豪州市民のたたかい 
 
  今回の訪問で、西オーストラリアでGM作物の導入に反対している多くの人々に会った。 12月16日には、緑の党のリン・マクラーレン州誰会議員の事務所で、「私の子供たち、孫たちのためにGM作物と闘っている」という消費者たちのネットワーク「GMフリー消費者ネットワーク」のメンバーたち、有機農業の生産者など10名近くと交流した。GMフリー消費者ネットワークのメンバーは、「私たちがクリスマスにほしいのは、GMフリーだけ」(マライア・キャリーのクリスマスソング″A11 1 want for Christmas is You″のパロデと、レッドマン大臣にハガキを出すキャンペーンを展開した。環境保護協会は2010年、GMナタネの自生調査を行う予定という。 
 
  こういった人々や、ジュリー・ニューマンさんのようなGMナタネ導入に反刻する農民とのネットワークを強化し、モンサントのような私企業が私たちの食料を独占するような仕組みを断乎として拒み続けなければならない。 
 
(市民セクター政策機構) 


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