2010年03月01日14時24分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

高校授業料無償化からの朝鮮学校除外は「日本の人権政策に歴史的な汚点を残す」  国際人権団体が警告

  東京に本拠を置く国際人権NGO、ヒューマンライツ・ナウは3月1日、高校授業料無償化政策からの朝鮮学校除外に関して、反対する見解をとりまとめ、鳩山首相はじめ関係閣僚、衆参議長、全政党党首に送付し、国会議員に要請を行った。この中でヒューマンライツ・ナウは「朝鮮学校のみを除外する措置は、憲法および日本が批准している人権条約上の義務に明確に違反する重大な差別であって、万一にも導入されれば、日本の人権政策の歴史的汚点となります」と日本政府に警告している。(日刊ベリタ編集部) 
 
高校授業料無償化政策からの朝鮮学校除外に反対する緊急の要請書 
        特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ 
                      2010年3月1日 
内閣総理大臣  鳩山由紀夫殿 
 
  政府が2010年4月から実施を予定している高校授業料無償化をめぐり、朝鮮学校の除外を求める声が閣僚から上がり、2月26日朝の会見では、鳩山由紀夫首相も朝鮮学校の除外を検討していると述べました。朝鮮学校のみを除外する措置は、憲法および日本が批准している人権条約上の義務に明確に違反する重大な差別であって、万一にも導入されれば、日本の人権政策の歴史的汚点となります。東京を本拠とする国際人権団体ヒューマンライツ・ナウは現在の事態を深く憂慮し、日本政府に対し、朝鮮学校の除外を行うことなく、差別なき平等な無償化政策を実施されるよう強く要請します。 
 
1、無償化法案 
  2010年1月29日政府提出の「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律案」(閣法5号)は、公立高校の保護者から授業料を徴収せず、私立高校、専門学校等には世帯の所得に応じて就学支援金を支給することとし、学校教育法では「学校」と認定されていない外国人学校を含む「各種学校」も、私立高校と同様の無償化の対象となっています。私たちは、日本が批准している社会権規約13条2項Cの定める高等教育への無償教育の漸進的な導入を実現する画期的な改革として、法案提出を歓迎します。 
 
2、朝鮮学校排除は、明らかな憲法・人権条約違反 
  ところが、現在、政府部内で、朝鮮学校のみを無償化の対象から除外するという案が浮上しています。公立、私立、そして様々な外国人学校を含む各種学校が全て無償化されるなか、朝鮮学校のみを排除することは、明らかに合理性のない恣意かつ重大な差別であり、日本国憲法の平等原則に抵触し、日本が批准した各種国際人権条約にも明白に違反します。 
 
1)経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約(社会権規約) 
社会権規約13条2項Cは、「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること」と定め、国籍等による差別を認めていません。 
  そもそも、社会権規約第2条2項は、「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する」とする無差別原則を宣言しており、社会権を漸進的に実現する場合も無差別が貫かなければならないことは締約国の義務として明らかです。 
 
2)あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約) 
  人種差別撤廃条約第2条は、「各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する(第2条第1項(a))と定め、同5条は、「第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族 的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。」とし、その対象には(e)経済的、社会的及び文化的権利、特に、(v)教育及び訓練についての権利が含まれることを明記しています(人種差別撤廃条約第5条第(e)項(v))。  朝鮮学校のみを無償化の対象外とすることは、人権の享有にあたり特定の人種を差別する措置にほかならず、明らかに人種差別撤廃条約に違反するものです。2月25日に開催された国連人種差別撤廃委員会でも、朝鮮学校の除外について専門家の間で懸念が相次いでいます。 
 
3)憲法、子どもの権利条約その他の国際人権条約 
  日本国に在住する者は、その国籍や民族を問わず、いかなる不合理な差別的取り扱いも受けない権利を有し(憲法第14条、自由権規約第26条)、特に民族的少数者の子どもたちは、母国語による民族教育を等しく受ける権利が保障されなければなりません(憲法第26条、自由権規約第27条)。子どもの権利条約は、28条1(C)は、高等教育に関する均等な利用の機会の保障を締約国に義務付け、また「文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観」(同29条)、「自己の文化を享有し」「自己の言語を使用する権利」(同30条)の保障を義務付けており、朝鮮学校の教育内容を理由に均等な教育機会保障において差別取り扱いをすることは許されません。 
 
3、閣僚の発言について 
  閣僚のなかには、北朝鮮拉致問題に対する対抗措置として朝鮮学校の無償化排除を主張する意見があります。拉致問題はそれ自体、政府が解決にむけ取り組むべき重大な人権侵害ですが、人権侵害の主体は国家であって日本に在住する在日朝鮮人でないことは明白であり、在日朝鮮人の子どもたちの教育権が制裁を受ける正当性はいかなる意味でもありません。 
政府関係者には、人種差別撤廃条約が禁止する「人種的憎悪及び人種差別の正当化・助長」(4条)につながりかねない言動を控えることが求められます。 
 
4、差別なき無償化を 
  以上のとおり、朝鮮学校のみの排除は国際的に確立された人権基準に明らかに反します。このような措置をとるようなことが万一にでもあれば、新政権の人権感覚は国際社会から厳しく問われ、重大な汚点を残すことになりかねず、せっかくの授業料無償化の趣旨に逆行することとなります。私たちは、新政権が確立された国際人権条約を尊重し、朝鮮学校の除外を行うことなく、差別なき平等な無償化政策を実施されるよう強く求めるものです。 
また、首相をはじめ全閣僚、全ての政党と国会議員に対して、このような深刻な差別政策を回避するために議論を尽くすよう要請します。 
 以 上 
 
≪関連する国際人権条約と条約機関からの勧告≫ 
 
⇒(1) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約) 
第2条2項[無差別原則] 
「この規約の締約国は、この規約に規定する権利が人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位によるいかなる差別もなしに行使されることを保障することを約束する」 
第13条[教育についての権利] 
「高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して機会が与えられるものとすること[社会権規約第13条第2項(c)]」 
 
⇒ 2001年 社会権規約委員会から発表された日本に対する委員会の最終見解 
「委員会は、かなりの数の言語的少数者の児童生徒が在籍している公立学校の公式な教育課程において母国語教育が導入されることを強く勧告する。さらに委員会 は、それが国の教育課程に従うものであるときは、締約国が少数者の学校、特に在日韓国・朝鮮の人々の民族学校を公式に認め、それにより、これらの学校が補助金その他の財政的援助を受けられるようにし、また、これらの学校の卒業資格を大学入学試験受験資格として認めることを勧告する。[第60項] 
 
⇒(2) あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約(人種差別撤廃条約) 
第2条[締約国の差別撤廃義務]第1項(a) 
「各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。」[人種差別撤廃条約第2条第1項(a)] 
第4条 「締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。」 
第5条第(e)項(v) 「第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族 的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。(e)経済的、社会的及び文化的権利、特に、(v)教育及び訓練についての権利 
 
⇒(3) 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約) 
第26条 「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する。」 
第27条 「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」 
 
⇒1998年 自由権規約委員会から発表された日本に対する委員会の最終見解 
「委員会は、少数者である日本国民でない在日コリアンの人たちに対する、コリアン学校が承認されないことを含む、差別の事例について懸念を存する。」「委員会はまた、朝鮮学校のようなマイノリティの学校が、たとえ国の教育カリキュラムを遵守している場合でも公的に認められておらず、したがって中央政府の補助金を受け取ることも、大学入学試験の受験資格を与えることもできないことについても、懸念する」 
 
⇒2008年 自由権規約委員会から発表された日本に対する委員会の最終見解 
「委員会は、朝鮮学校に対する国庫補助金が通常の学校に対する補助金より極めて低額であること、そのため朝鮮学校では民間の寄付に過度に依存せざるを得なくなっているが、こうした寄付には日本の私立学校やインターナショナルスクールへの寄付とは違い、税金の免除や控除が認められていないこと、また朝鮮学校の卒業資格が自動的に大学受験資格として認められていないことに、懸念を有する。」「締約国は、国庫補助金の増額並びに他の私立学校への寄付と同様の財政上の優遇措置を朝鮮学校への寄付に適用することによって、朝鮮学校に対する適切な財政的支援を確保すべきであり、また朝鮮学校の卒業資格を即大学受験資格として認めるべきである。」[第31項] 
 
⇒(4) 子どもの権利条約 
第28条「1 締約国は、教育についての児童の権利を認めるものとし、この権利を漸進的にかつ機会の平等を基礎として達成するため、特に、」「(c) すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して高等教育を利用する機会が与えられるものとする。」 
第29条1(C) 「 児童の父母、児童の文化的同一性、言語及び価値観、児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること。」 
第30条 「種族的、宗教的若しくは言語的少数民族又は先住民である者が存在する国において、当該少数民族に属し又は先住民である児童は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」 
 
⇒2004年 子どもの権利委員会の最終見解 
「委員会は、締約国に対し、特に公教育や意識啓発キャンペーンを通じ、特に(中略)韓国・朝鮮人(中略)の児童のために、社会的差別と闘い、基本的サービスへのアクセスを確保するよう、全ての必要で将来を予見した措置をとるよう勧告する。」[第25項] 


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