2010年04月07日10時34分掲載  無料記事
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外国人労働者

3人が合格したけれど… 外国人の看護師国家試験に関係者は総合的改善策望む

  看護師国家試験の合格発表が3月26日行われ、経済連携協定(EPA)により来日した外国人看護師候補生の受験者254人うち3人が合格したと発表された。内訳は、インドネシア人2人、フィリピン人1人だ。看護師の全国平均合格率は89.5%だったが、外国人はわずか1%という結果。日本語能力が高い障壁となっていることがうかがえる。合格者のひとりヤレド・フェブリアン・フェルナンデスさん(男性・26歳・インドネシア)への緊急電話インタビューと、関係者の話から、今後の制度の在り方や支援の方法を考えたい。(和田秀子) 
 
■国家試験合格に必要なもの 
 
 「肩の荷がおりました」 
国家試験に合格した今の心境は? という問いに、心から安堵したような声でそう答えるヤレド・フェブリアン・フェルナンデスさん。 
“肩の荷がおりた”なんて言葉が口をついて出てくる時点で、彼の高い日本語能力がうかがえる。 
 
 ジャカルタ出身のフェルナンデスさんは、日本とインドネシアのEPAにより、2008年8月に来日。母国では4年間、心臓専門の病院で看護師として勤めていた。 
 
 多くの候補生たちがそうであるように、彼も来日するまで日本語能力はゼロ。昨年の国家試験では、「問題を読むこともできず、惨敗でした」と苦笑いする。そんな彼が、わずか1年で合格できた要因は何だったのか? 
 
 「彼は日本語の理解力が高く、日本独自の看護理論を理解できていた」と、合格の要因を分析してくれたのは、昨年末に開かれた看護師国家試験対策(ガルーダサポーターズ主催)で、彼を指導したことのある日下修一准教授(獨協医科大学看護学部)だ。 
 
 外国人が国家試験に合格するためには、日本語技能検定などの一定のモノサシだけでは計れない「日常的な会話力」が必要だと言う。なぜなら看護師の国家試験には、日本語の細かなニュアンスを問うような問題が多い出題されるため、日常会話が理解できなければ解けない問題も多いからだ。 
 さらには、“キュア”(治療)よりも“ケア”(介護)に重点を置く日本の看護を理解するためにも、文化的背景まで含めた知識が必要だ。 
 フェルナンデスさんには、来日からわずか2年足らずで、これらを理解するだけの日本力が備わっていたと日下准教授は言う。 
 
■ポイントを絞った勉強法 
 
 では彼はどのようにして、短期間のうちにこうした力を身につけたのだろうか? 
「あくまでも私に合った勉強法ですが……」と前置きしたうえで、フェルナンデスさんが教えてくれたのは以下の方法だ。 
 
 日常会話の習得においては、とにかく実践に重きを置いた。 
「何時間も教科書に向き合っているのが苦手なので、とにかく病院のスタッフや患者さんたちと会話しました。分からない言葉が出てきたら、すぐにメモして後で調べ、徹底的に使い方を覚えました」 
 力がついたかどうかは、病院で日々行われるミニテストで判断したと言う。 
 
 彼が“肩の荷がおりた”などの、日本人らしい表現を上手く使うことができるのは、たくさんの日本人とコミュニケーションをとってきたからこそ、なのだろう。 
 また、日本のポップスが大好きで、歌詞の意味を考えながらいろんな曲を聴いていると言う。お気に入りのアーティストは、レミオロメンや平井堅、ミスターチルドレン、BUMP OF CHICKENなど。病院スタッフたちとの飲み会があるときには、カラオケで歌うこともあるそうだ。 
 
 次に国家試験対策に関しては、まず過去問題を5〜7年間くらい遡ってチェックし、よく出題されている問題ばかりをピックアップした。問題のなかで使われている漢字を書き出し、意味が分からないものは調べ、覚えるまで繰り返し問題を解く。そしてもうひとつは、診療科目ごとに日本語で病名を書き出し、「発疹(ほっしん)」「麻疹(ましん)」といった難しい漢字が用いられている症名と合わせて丸暗記した。 
 「ポイントは、よけいな問題に気をとられすぎず、よく出題されている問題に集中して繰り返し覚えることです」と言う。 
 
■病院側の強力なバックアップ体制 
 
 このような本人の努力に加えて、病院側の手厚いバックアップが合格を後押ししたことは言うまでもない。 
 同病院には、フェルナンデスさんだけでなく、もうひとりの合格者リア・アグスティナさんも在籍している。合計3人の合格者のうち、2人も同病院から輩出しているのだから、バックアップ体制が良かったことは疑う余地もないだろう。 
 
 フェルナンデスさんの話しによると、午前中だけ看護助手の仕事をこなし、午後からの4時間は、看護部長や総務部長などに交代で勉強を教えてもらいながら、日本語の習得や国家試験対策に励んでいたそうだ。 
 
 本人の能力やモチベーションもズバ抜けて高く、病院側のバックアップ体制も極めて厚い、という3拍子そろった好条件だったからこそ、日本語能力ゼロの状態からたった2年で合格できたのだろう。 
 
■あと1年で間に合うのか? 
 
 あと1回しか受験チャンスが残っていない候補生も多いなか、果たしてあと何人が合格できるのだろうか? 
 
 「今回3人の合格者が出たことは、あくまでも“例外”だと思ってください。」と警鐘をならすのは、ガルーダサポーターズの共同代表、宮崎和加子さんだ。 
 
 “例外”というのは、どういうことだろうか? 
外国人看護師候補生たち自身も、受け入れ側の病院も、置かれた状況のなかで全力を尽くしている。しかし当然ながら、候補生たちの能力や学習速度、モチベーションなどは人によって異なるし、病院側のバックアップ体制も一律ではない。使う教材も勉強の進め方もまちまちだ。人員に余裕がない病院の場合は、国家試験前といえども十分に勉強時間を与えてやれないこともある。そんな状況のなか、3年以内に合格できるケースは極めて“例外的”だということなのだ。 
 
 岡田外務大臣も3月26日の会見のなかで、「国の制度のもと、日本で看護師や介護士になろうと志をもって来日している人たちが、本来資格がありながら大半が試験に合格できないというのは決して望ましい状況ではない。改善できる点があるのはないか?」といった趣旨のことを発言している。あと1回の受験チャンスしか残っていない候補生も多いなか、国はどのように改善するつもりなのだろうか。 
 
■9億円の予算を有効に使うには 
 
 厚生労働省は、今期約9兆円を注ぎ込んで外国人看護師・介護士のためのイーラーニングシステムを構築するとしている。しかし、宮崎氏も前出の日下准教授も、「イーラーニングを利用するのはよいが、よほどカリキュラムを精査し、ポイントを絞って勉強しなければ、3年間で合格するのは至難の業だ」と憂慮している。 
 一定の成果をあげるには、少なくとも2年間はしっかりと日本語を学び、1年間は日本の看護を学ぶ“時間”が必要だからだ。 
 
 さらに気がかりなのは、候補生たちの教育を担当している海外技術者研修協会(AOTS)や、その他の日本語研修機関どうしが、ほとんど横の連携を図れていないことだ。 
 そのため、それぞれが独自で似たような教材を開発しており、ノウハウが共有されないばかりか費用もかさむ。本来ならば、トップに立つ厚労省や委託を受けている国際厚生事業団(JICWELS)がまとめ役となるべきなのだろうが、それも上手く機能していないのが現状だ。 
 こんなにバラバラな状態で、果たして効率的で体系立った教育システムが構築できるのか、大きな疑問が残る。 
 
 何度も言うが、第一陣で到着した候補生たちは、泣いても笑ってもあと1回の受験チャンスしか残されていない。これまでの試みが無駄にならないよう、滞在期間の延長も含めて検討してほしい。また、フェルナンデスさんを含め、今回合格した3人の方々には、心からの拍手を送り、今後の活躍を見守っていきたい。 


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