2010年04月12日13時38分掲載  無料記事
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中国

熱血女性弁護士のNGOを突然閉鎖 民主化恐れる当局、NGOの締めつけ強化か

  女性の人権擁護のために活躍する熱血女性弁護士、郭建梅のNGOが3月25日、突然閉鎖された。事務所はこれまで、北京大学から「わが校の誇り」と絶賛されきた。この事実から、エリート中のエリートである一人の女性が底辺で苦難をしいられる女性たちのために働く志の高さと、民主化を極端に恐れるあまりNGOを窮地に追いやろうとする中国当局の焦りが感じられる。海外から国内NGOへの寄金にも法的に高いハードルが設けられようとしている。(納村公子) 
 
▽「北京大学の誇り」のはずが… 
 
 15年来、財産や売名のためでなく、ひらすら公共のための弁護活動を続けてきた郭建梅弁護士は、その50歳の誕生日の日にこんな結果となるとは思いもしなかった。 
 
 3月25日、北京大学社会科学部がネット上でこう発表した。「北京大学法学院婦女法律研究およびサービスセンター、財政経済ニュース研究センター、法律研究センター、憲法政治研究センターの4研究組織を閉鎖する」と。そして「公告の日から以後、上述の組織は一切北京大学と関係することはなく、北京大学も管理責任を負わない」と強調した。 
 
 通常の組織整理以外で注目されたのは、北京大学法学院女性法律研究およびサービスセンター(以下、女性法律センターと略す)が閉鎖されたことだ。同センターは、公益弁護士〔公共の利益のために活動する弁護士〕郭建梅により1995年12月に創設され、中国で最初に設立された女性のための法律支援と研究を行う民間組織であり、中国では最も早い時期に設立されたNGOの一つでもある。 
 2000年以降、彼女らの提唱により、法律支援協力ネットワークがつくられ、現在28の省および自治区の100近い弁護士事務所が参加し、公益法律支援の分野では先導的な組織となっている。現在、11人の弁護士、5人の職員、そして数十人の臨時職員がいる。 
 
 中国では独立した民間組織の設立がむずかしいため、大学などの研究機関の系列になるか、「工商枠」の企業系列になるか、この2つが現在の中国でよく見られるNGOの方式だ。女性法律センターは前者の例である。郭建梅は北京大学を卒業後、北京大学をプラットホームとして彼女のライフワークである公益活動を展開した。 
 
 北京大学によって何度も「わが校の誇りだ」「あらゆるセンターのナンバー1だ」と絶賛されていたこの組織の主要メンバーは、郭建梅を含め誰も閉鎖にされるとは思ってもいなかった。 
 
 「27日に初めて聞いたんです。テレビのニュースを見た友人から教えてもらったんですよ。私たちにはなんの連絡もありませんでした。情報は全部北京大学のホームページの公告だけで、説明は一切ありません」 
 と、郭建梅は本誌に述べた。インタビューの電話の向こうで彼女は何度も声を詰まらせていた。「私の誕生日だったその日にこんな仕打ちにあいました。35歳から50歳になるまで公益の発展を進めてきたのに、こんな結果になるとは! 誕生日のその日、悲しくてずっと泣いていました」 
 
▽廃止の通達は教育省が 
 
 郭建梅をよく知る友人たちはみな驚いている。中国で最初の公益弁護士として、彼女の姿勢は常に穏健で、女性法律センターと政府との関係も親密であり、関係部門に何度も法律上の意見書を出したり、立法に関する提議や報告を出している。郭建梅は本誌に語った。 
「現在、家政労働者保護の立法を進めていて、商務省や全国女性連合から法律の調査と起草を委託され、私たちはどの組織よりもよくやっているとまで言われていたんです」 
 
 北京愛知行研究所〔LOVE KNOWLEDGE ACTION:エイズ予防知識の普及、エイズ患者への支援などを行うNGO。設立2002年〕の万延海所長は本誌の取材に対し、女性法律センターが閉鎖されるという情報を聞いて、「たいへん驚いた」と述べた。 
「彼女たちの影響は大きく、政府との関係もよかった。国際的場面でも政府側に立って発言していた。そうすればお叱りを受けないのだ。我々のような批判することが多いNGOは危なくなってくる」 
 
 中山大学の系列になっている公民社会研究センターの朱建剛も、有名な女性法律センターが突然閉鎖されたことに「遺憾である」と述べた。 
 郭建梅は本誌の取材で、同センターの閉鎖は教育省から直接北京大学に通達されたと証言した。「上のほうが私たちに不満だったのです。予兆はありました。3か月前、教育省から北京大学に電話があり、私たちに話があると。でも、こんな形で閉鎖されるとは思ってもいませんでした」 
 
 郭建梅によると、教育省が北京大学に通達したときの理由は、女性法律センターが海外からの資金を得て、公益弁護士のネットワークをつくったので、政治的リスクが高いというものだったという。 
 
 また、1年前大学側は彼女たちに具体的な訴訟案件に関わらないよう警告していたという。外部では、同センターの閉鎖は、この数年で彼女らが「玉嬌事件」〔2009年5月、湖北省巴東県で起きた殺人および傷害事件。同県内のホテル職員玉嬌が、県内の野三関鎮政府役人3人に売春を強要され、抵抗して果物ナイフで1人を殺害、2人を傷害した。玉嬌は事件後すぐに自首し、裁判の結果、正当防衛が認められ無罪となった。中国では広く注目され、この事件を題材にした演劇や歌などがつくられた〕、「李蕊蕊事件」〔2009年8月、北京の簡易宿泊所で起きた強姦事件。安徽省に住む李蕊蕊(21歳)が中学生のときいじめが原因で退学せざるをえなくなったことを訴えに上京し、地方から直訴に来た人ばかりを収容する宿泊所に入れられ、その監視員の男に強姦された。李蕊蕊は警察に訴えるが強制送還されたうえに精神病院に入院させられる。犯人は自首して実刑8年に処せられた〕などの案件に関係したためだと推測しているが、郭建梅によれば、原因はいろいろあると感じているという。 
 「政府はまず民衆が立ち上がることを恐れています。第二に、外国の組織が介入して色の革命〔非暴力による政権交代〕を起こされることを恐れ、第三にデリケートな案件が政府のイメージに影響することを恐れています」 
 
 しかし、彼女は当局が最も心配しているのはやはり「社会が立ち上がって集団を形成したり結束したりすること」だという。 
 
 2010年1月8日、女性法律センターは北京で「公益弁護士ネットワーク第3回年度フォーラム」を開催した。フォーラムでは主として労働権および就職差別、女性への暴力、公益問題の訴訟と公益弁護士、公益弁護士ネットワークの将来など熱い問題が討論された。フォーラムには内外70人近くの有識者、弁護士、公益法人、NGO、報道関係者が参加した。 
 
 北京大学側は同センターを閉鎖した後、郭建梅に電話で釈明してきたという。 
「彼らは、この事件で社会から北京大学が非難されることは必至であり、北京大学のイメージや信頼に大きな影響が出るとわかっていたが、こうするしかなかったと言っていました」 
 
 北京大学社会科学部の程郁綴部長は「北京青年報」紙の取材で、同センターを閉鎖したのは学術組織の「新陳代謝」だと表明している。北京大学HP掲示板には学生、教師による不満や抗議の言論が現れたが、翌日削除された。 
 
 郭建梅は大学側の釈明に遺憾の意を示した。「私のことを優秀な北京大学の人材だ、私たちのセンターはナンバー1だと言いながら、新陳代謝などと言って、時代の発展に適さない組織は閉鎖するなどと言っていますが、非常に遺憾です」 
 「私は北京大学の人間として、かつての北京大学のことは誇りに思っています。蔡元培先生が創設した当時、北京大学では民主、法治、公平、正義が論じられました。いま、孫東東〔北京大学教授、中央テレビのキャスターも務める精神科医。2009年、地方から直訴に来る人間の99パーセントは精神障害者だという発言をして物議をかもした〕のような人間にいまだに北京大学で教鞭をとらせていながら、私たち弱者のために努力している組織には弾圧を加える。北京大学の精神はもう死んでいます」 
 
 北京大学の名誉よりもっと心配なのは、社会でいま生まれたばかりの何万にものぼる、女性法律センターのような民間組織の生き残りである。 
 
▽海外からの寄金に高いハードル 
 
 中山大学公民社会研究センターの朱建剛主任は、国内におけるNGOにとって「オープンはしたが引き締めにあう」という状況が存在していると述べた。「地域サービス、貧困支援の分野は開放されたが、法的な権利擁護の分野では引き締めの趨勢にある」という。 
 
 2009年、公盟〔北京公盟コンサルティング有限責任公司〕が巨額の脱税の容疑で罰金を科せられ、創設者の一人、許志永が拘束された〔2003年に創設された同公司は、「公共の利益のために」を掲げ、民主的な法治制度の確立を目標として政府に提言などを行っている。許氏は2009年脱税容疑で一時拘束された〕。その1年後、同じ大学の法律の専門家、郭建梅の女性法律センターが閉鎖された。 
 「公益のための法律のNGOは彼らがいちばん嫌いなNGOです。この方面では、大地震後ずっと引き締めにあっています」と郭建梅は言う。 
 
 公盟と同じく、企業の系列になっている北京愛知行研究所は、長年エイズの予防と人権擁護の推進に携わっている。万延海所長は、引き締めはますます強まっていると感じている。「オリンピックが終わり、建国60周年の行事も終わり、北京には差し迫った任務もなくなり、ここで系統的に整理しようとしている。最近、外貨管理局が打ち出した新しい規定は、我々にとってほとんど致命的だ」と万所長は述べる。 
 
 国家外貨管理局は2009年12月25日に「国家外貨管理局による国内組織外貨寄付管理における関係問題の通達」を公布した。その第5条はとくに国内企業に対し、海外非営利組織からの寄付金について詳細に規定し、寄付の受け入れに高いハードルを設けた。万延海、郭建梅は、これは明らかに中国の工商枠でのNGOと民間組織に向けたものだと考えている。彼らの活動資金は9割が海外の寄付である。 
 
 同「通達」の規定は、寄付を受ける側はとくに外貨管理局が認可した外貨口座でなければならず、寄付項目の契約書は公証を得なければならないとし、なおかつ寄付を贈る側の経営資料も出さなければならないとしている。万所長によると、公証という段階について外貨管理局の資料をよく調べたところ、非常に込み入っていて、しかも不透明なのだという。 
 
 「寄付する側は国の公証を必要とし、さらに中国外務省の現地大使館で承認を得て、その後書類を持って銀行に行くと、銀行側は中国で出された公証を求めてくる。国によって法律は異なるのであり、もし贈る側のNGOの証明が規定に合っていなかったらどうするのか。贈る側の所在地に大使館、領事館がなければどうするのか。中国では公証というたぐいの書類の前例がまったくない。きっとさまざまなルートで費用がかさむだろう。手続きがうまくいったとしても、公証1枚のために、数千ドル程度の寄付金を得ようとしても最低3か月はかかる」 
 
 「民間組織にとっては、水道の蛇口にカギをかけられ、そのカギは他人の懐にあるようなもの」と万所長は言う。「通達」は2010年3月1日から施行された。3月12日、愛知行を始め国内十数のNGOは「通達」に関して討論し、このような規定は資金源がもともと不安定な草の根NGOにとってほとんど致命的だとの認識に達した。万所長が資金のことで窮地に陥ったとき、郭建梅はいろいろな組織と国家機関との間で仲立ちをした。「閉鎖されてしまったからには、なんとしても独自に立ち上げなければ。この道を行くしかありません」 
 
 郭建梅は公益弁護士になった当初、重い鬱病になったが、現在、自分は「剣も槍も通らない」人間になったという。「私はよい弁護士になりたい。法の機能を担い、法治の精神を求める弁護士になりたい。現在、社会矛盾が突出していますが、私たちは矛盾を解消しようとしているのです。私たちのような人間が恐れられる。そんな社会は本当におかしいのです」 
 
 彼女の夫で北京大学出身の作家、劉震雲は、もし公益弁護士に進まなければ彼女はとっくに勝ち組グループに入っていたという。 
「15年ですよ。なぜこれをやらなければならなかったのか。それは生ける屍になりたくないから。自分自身、心の中ではとても光栄なことだと思っています。とてもうれしいのです。だって自分の人生もむだではないと思えますもの。生きているならそうでなければ。公益弁護士というこの仕事を私はとことんやっていくつもりです」 
 
〔 〕は訳注 
 
 郭建梅プロフィール:1983年北京大学法律学部卒業、現在、中華全国弁護士協会憲法および人権専業委員会委員、全国労働組合女性労働者委員会委員、北京市海淀区政治協商会議委員。公益弁護士としての活動で、2007年、エイズ予防と患者支援の第一人者、高耀潔医師とともに、アメリカのNGO「生命の声」(名誉会長:ヒラリー・クリントン)によりリーダーシップ賞を受け、2010年1月、文学および女性問題の専門家、艾暁明(中山大学)とともに、フランスの「女性の自由のためのシモーヌ・ドゥ・ボーヴォワール賞」を受賞した。 
 
原文=『亜洲週刊』2010/4/11 張潔平記者 
翻訳=納村公子 


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