2010年06月06日09時19分掲載  無料記事
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中国

上海万博(中) 華やかに「万博外交」 仏大統領夫妻ら各国指導者が続々来場

  万博外交とは、万博をめぐって展開する外交活動のことで、とくに今は2010年の上海万博に関連して使われる言葉だ。2カ月前の第11期全人代第3回会議の期間中、楊潔箎外交部部長は、2010年の外交の重点として「万博外交」を挙げた。 
 
 フランスのサルコジ大統領が開会式に立ち会ったのも万博外交の一例だ。サルコジは4月28日に華やかな代表団を引き連れて派手に中国入りしたのち、2日後に開会式に参加している。本来の計画では29日に中国入りするはずだったのだが、同じ日に欧州委員会のバローゾ委員長も中国入りすることになっていたので、訪中を1日前倒しして存在感をアピールしたのだった。これを見る限りフランスが中国を重視していることは明らかである。自ら率先して万博を盛り上げて中国人の心をつかむことで、ここ2年ほどこじれていた中仏関係を修復するのが狙いだ。つまり今回の訪中は関係回復のための「氷解」の旅だったのである。 
 
▽ブルーニ効果も成功 
 
 今回の訪中で、サルコジがはじめて妻のブルーニを同伴したことも注目を集めた。サルコジは大統領就任以来4度にわたって中国を訪れているが、夫人を伴ったのははじめて。モデルであり歌手でもあった「話題の女王」はどこへ行ってもメディアや人々の注目のまとだった。つねに違った服を身にまとい、1日に3度着替えることもあるほどで、さながらプチ・ファッションショーのようであった。 
 その優雅さで人気を集める夫人は中国人に向けて本場のフレンチモードを披露しつつ、夫と手に手を取り、仲の良さをアピールした。歓迎晩餐会の席上では軍の楽団がサプライズとして夫人の代表曲である「ケルカン・マ・ディ――風のうわさ」などを演奏した。夫人はこれに対し「中国を訪れたのははじめてだが、その歴史と発展ぶりに驚いた。ここには人をひきつける美がある。本当にすばらしい」と語った。 
 
 フランスのパビリオンは中国人のあいだでも非常に人気がある。外観は美しい竹かごのようで、透明なガラス壁の外側に網状の層がほどこされている。建物全体が水に浮かび、屋根からまっすぐ下に伸びる緑の植物が自然の心地よさを添えている。未来のイメージと水音の美しさをたたえているといった印象だ。館内にはロダンの「青銅時代」、ミレーの「晩鐘」など総額7億ユーロ(約9億ドル)を超える国宝級の展示品が7点もある。このことからもサルコジの力の入れようが見て取れる。 
 
 サルコジが万博期間中に中国を訪れたことは中国人にとって喜びであり、メディアは彼を追い続けた。北京の宣伝担当部門はただちに命令を出し、サルコジの訪中についてはいつも通りの落ち着いた対応を旨とし、過剰な報道を避けるよう呼びかけた。 
彼はこれまでに中国人を激怒させるような行いもしたし、逆に喜ばせるような発言もしている。今もっとも対応の難しい大物政治家である。大統領就任から3年、中国を含むほとんどの大国と衝突し、その一方で重要な場面になると、当のけんか相手と積極的に友人関係を結んでしまう。徹底した現実主義者であり、残された2年の任期中に再び中仏関係に波紋をもたらす可能性がないとも限らない。このことをメディアは忘れてはならない。注意をおこたれば、いったん事が起きたときに中国人の過剰な反仏感情を招いてしまうだろう。 
 
 上海復旦大学国際関係・公共事務学院国際政治系の陳志敏教授は、今回のサルコジの訪中について、中仏関係が正常な状態に戻った表れだと語る。もちろん中仏間には未解決の問題がたくさんあるが、それが外交関係にダメージを与えるほどではなく、意見のくい違いは対話を続けながら解決していくべきだという。 
中国現代国際関係研究院欧州研究所の余翔研究員も2009年4月に出された中仏の共同プレスコミュニケが、一度は冷え切っていた中仏関係の転換点となり、さらに今回のサルコジ訪中によって全面的な関係回復が成されたと語る。とはいえサルコジ政権発足以来、中仏間で起こったトラブルを考えると、今後の外交関係についても慎重に見守るべきであろう。 
 
▽国交のない国も参加 
 
 上海万博は中国の外交上の枠をも飛び越えている。中国政府総代表補佐の徐波はこう述べた。「国交のない23カ国のうち、パナマなど21カ国が上海万博に参加しています。これは中国の国連常駐代表団が、それぞれの国の国連常駐代表と外交覚書を交わすことで実現したのです。国内が政治的に困難な状況にあるそうした国も、政府要員をなんとか上海に派遣してくれています。政局が不安定なキルギスもスケジュールどおり参加しており、臨時政府職員とキルギスの中国駐在大使であるクルバエフ氏も申し合わせどおり上海にいらしています」。 
 
 万博はすでに、中国がグローバルな公共外交〔パブリック・ディプロマシー(広報外交)を指す。政府機関が広報や文化などのソフトパワーによって他国民に働きかけ、自国のイメージアップを図り、外交目的を達成する〕を展開するための最良の場となっている。なにしろ万博参観のために、100名以上の外国元首あるいは政府首脳が上海を訪れている。また開幕式には、20名の外国指導者と20余名の外国要人が出席した。 
 その面々はアルメニアのサルキシャン大統領、コンゴのサスヌゲソ大統領、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長、フランスのサルコジ大統領、ガボンのボンゴ大統領、ケニアのキバキ大統領、マラウイのムタリカ大統領、マリのトゥーレ大統領、マルタのアベーラ大統領、ミクロネシア連邦のモリ大統領、モンゴルのエルベグドルジ大統領、パレスチナのアッバース大統領兼パレスチナ解放機構(PLO)執行委員会議長、韓国のイ・ミョンバク大統領、セーシェルのミッシェル大統領、トルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領、カンボジアのフン・セン首相、EU欧州委員会のバローゾ委員長、カザフスタンのマシモフ首相、オランダのバルケネンデ首相、ベトナムのグェン・タン・ズン首相らだ。このほとんどが公式訪問で、バローゾ委員長は正式訪問であった。 
 
 万博の開幕前夜になっても、多くの国家指導者から開幕式に参加したいという申し出が相次いだ。このようなことは外交の場面では非常に稀である。中国側は、急なことで対応できず申し訳ないがご理解いただきたいと回答し、本国館または中国館の開館時、あるいは万博閉幕式など、ほかの重要な催しに出席していただいてはどうかと提案するしかなかった。 
 
 4月29日、浦東空港は上海史上最大の波を迎えた。「政府要人団」の入国ラッシュである。統計によればこの日、6組の大統領代表団、3組の首相代表団、18組の大臣代表団、7組の政府職員団など、400名近い要人がここから入国し、1日の要人入国者数の新記録となった。4月に入り、日韓両国からの団体は1日平均50組以上が入国し、早くも万博旅行ブームを巻き起こしていた。かつて万博に何度か参加している日本は、もともと国民に強い「万博指向」があるのか、この上海万博でも参観意欲がもっとも高い。統計では4月の日本人旅行客は10万人を超え、国別入国者数のトップを飾っている。 
 
 同じ4月29日、初の万博旅行チャーター機が韓国麗水(ヨス)市の乗客160人を乗せ、浦東国際空港に着陸した。上海万博が迎える初めての海外ツアー客の団体だ。この中に麗水市長と、2012年に開催される韓国麗水万博の実行責任者がいた。麗水市は上海万博の見学のために4機の飛行機をチャーターしており、この日到着した第一陣には公務員や民間組織の職員が多いとのことだった。上海万博を視察し、麗水万博の準備に役立てるのだという。中韓両国政府は2つの万博を契機に互いの交流を深めること、2010年を中国訪問年とし、韓国は100万人の旅客を上海に送り込むこと、2012年は韓国訪問年とすることをすでに取り決めている。 
(つづく) 
 
〔 〕は訳注。 
原文=『亜洲週刊』2010/5/16 江迅記者 
翻訳=本多由季/佐原安希子 


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