2010年06月12日11時36分掲載  無料記事
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中国

上海万博(下)史上最大の規模、中国の発展PRに巨費を惜しまず 多面的な交流の場を期待

  「大規模オリンピック」から「大規模万博」に至るこの2年間、大きいことを良しとする中国人の大事をこなす能力はつねに世界を驚かせてきた。今回は歴史上、規模が最大の万博であり、上海は万博史上に多くの新記録を打ち立てている。 
 
 5.28平方キロメートルという会場面積は、2005年に開催された日本の愛知万博会場の4倍で、サッカーコート990面分に相当する。国や国際組織の出展にとどまらず、18の企業館と50の都市館が出展し、7,000万人の集客が予想されている。ボランティアの人数、自力建設された館数は過去最多、1枚としては世界最大のソーラーパネルを搭載した屋根、世界最大面積の緑の壁……通常の万博はテーマ館は1つのみだが、上海万博には「都市・人」、「都市・生命」、「都市・地球」、「都市・足跡」、「都市・未来」の5つのテーマ館がある。『Better City, Better Life』〔より良い都市、より良い生活〕という万博のテーマをより多面的に、余すところなく表現するための主催者側の考えだ。 
 
 ここ数年来、上海は万博という600以上の工事現場からなる一大建設事業を展開してきた。そのうちの多くのプロジェクトが、拘留中の前上海市委員会書記の陳良宇〔2007年に収賄、職権乱用の容疑で逮捕。2008年、懲役18年の判決を受け現在服役中〕が裁定したもので、「陳良宇プロジェクト」と見なされてしまった。そのため資金が調わなかったり、施工が続けられなかったりして、スケジュールが2年も遅れ、最後のほうは必死に工期に間に合わせる羽目になった。 
 
 上海市政府はまったく新しい上海を造るため、18万戸の住宅と720の工場を移転させ、黄浦江沿岸に新しく公園を造った。また、10路線以上の地下鉄を建設したほか、新たに42本の万博バス専用路線を設け、1千余りの車両を投入してもいる。4,000億元(約580億ドル)という資金を注ぎこんで、万博のための上海を造りあげたのだ。しかし、この費用のうち、万博会場への投資は250億元にすぎないため、疑問の声も多くあがっている。 
 
 当局は今回の万博外交のためなら巨額の出費を惜しまないようだ。アルメニアはヨーロッパとアジアが接する山がちの小国であるが、4月29日に上海に到着したそのサルキシャン大統領は、上海浦西の静安区にあるシェラトンホテルが割り当てられた。そして開幕式の翌日には蘇州などへの旅行と買い物に出かけたが、すべての費用は中国が賛助したかたちだ。 
 また上海万博局は、万博に参加している各国指導者の夫人に贈り物を贈呈しているが、それは一人一着のつづれ織り〔絹織物の織り方の一つ〕のチャイナドレスだという。つづれ織りは古来「つづれ織り1寸は金1寸」と言われていた。中国の著名デザイナーが手がけたこれら60着のチャイナドレスは、すべて異なる色とデザインで水墨画のような趣きを醸し出しており、一着が10万元。つづれ織りの生地は蘇州西部の東渚鎮にある民間のつづれ織り・刺繍工場の職人が急ぎ制作したものだそうだ。 
 
▽目標に達しない入場者数 
 
 「万博での我々の目標は均衡だ。赤字も儲けも出さない」。中国共産党上海市委員会書記の兪正声はこう述べた。これを実現するには延べ7,000万人の入場者が必要だ。180余日のあいだ、毎日40万人ほどが入場するという計算になる。だが、開幕して最初の3日間の入場者数は延べ56万3,000人と、目標にはほど遠い。主催者当局は焦った。人出が多くなれば会場運営にあたってトラブルが続出し、大量の客をさばききれなくなる。 
 
 開幕前、6日間にわたって試験運営を行ったが、その最高責任者によればこれが「散々」だったという。交通手段の周知が徹底していない、入場待ちで長蛇の列ができる、参観予約がころころ変わる、毎日出る4、5千トンものゴミの処理の難しさ、暑いなか休憩をとるためのベンチなどの不足、メディアへの対応の混乱……試験運営でさえこれほどの問題が露呈した。上海には、ここまで規模の大きい国際行事を運営した経験がないため、細かい配慮が欠けているようだ。まだ多くの問題を改善しなければならない。 
 
 上海万博で発生する問題は万博外交にも影響する。アフリカ連合館スタッフの陳芙蓉は言う。「仕切りの壁などが一切ないので、入場者は並ぶ必要がありませんし、展示品にじかに触れられます。でもそのせいで、チンパンジーの剥製の頭は一日で禿げてしまいました。お客さんが撫でるからです。はた織り機は故障するし、椅子の脚が折れたり……夕方、閉館してからいろいろ修理するんです」。万博は礼節ある盛大な催しであるはずだが、中国人が会場の内外で垣間見せているその素養は、万博外交の展開にも影響している。 
 
 上海万博は、人々の関心が徐々に薄れてきている万博が勢いを盛り返すための、ターニングポイントになるかもしれない。2008年に博覧会国際事務局(以下BIE)〔1928年、国際博覧会条約に基づき創設された。本部はパリ。同局によって承認された博覧会が万博と名乗れる〕の事務局長に就任したロセルタレス氏にとって、上海万博は就任後初めて迎える万博だ。同氏にすれば、中国という最大かつ最も成長性ある経済主体のひとつとともに万博を開催することは、万博史上において規模が最大、予想入場者数も最多で、マネジメントも最も難しくなるということを意味している。 
 先ごろ同氏は上海のあちこちで、この上なく美しい言葉を並べて上海万博を称賛した。「オリジナリティ溢れる唯一の万博だ」、「私も上海市民と一緒にどきどき、わくわくしている」などがそうだ。ご存じのとおり、資金のないBIEはすでに最大の勝者である。博覧会条約に基づき、一部の展示館から30万ドルを徴収できるからだ。 
 
 万博は中国がソフトパワーを示す場である。と同時に出展各国もここを舞台とし、中国の民衆と将来の中国人投資家に、魅力的な国家像を示そうと試みる。中国との取り引きが盛んな国はとりわけその意図が明らかだ。イギリス、フランス、ドイツといった欧州主要国はみな、在中国大使みずからが乗り出し自国の展示を推奨している。新任の在中国イギリス大使のウッド氏などは北京に到着早々、万博についての発表会を行い、記者たちと一緒にイギリス館のPR映像を見ていたほどだ。そしてイギリス館は万博期間中、100以上のビジネス交流の機会を設けると発表した。 
 
 開幕式に参加するために上海にやってきたオランダのバルケネンデ首相は、こう述べている。「オランダは農業、エネルギーおよびイノベーション、水と水資源管理の3つの分野における中国との協力・交流を強化したいと考えています。我が国は農業科学の研究によって、世界有数の技術を得ており、小さな家や街中にも応用しているのです。来場者はそれをまじかに見ることができます。しかし、中国も農業の発展を非常に重視していますから、この分野において私たちが協力を強化することは可能でしょう。また、オランダも中国も持続可能な発展の実現を切望しており、新エネルギーおよびエネルギー関連のイノベーションにおける協力の余地も大きい。オランダは地理的な原因で、水と水資源管理の分野においては、貴重な経験と先進技術を有していますが、これも中国と分かち合いたいと考えています」。 
 
▽巨大な商機を求める各国 
 
 上海万博オーストラリア政府総代表のサックス氏は、我々の取材に対しこう述べた。「今回はオーストラリアの万博出展史上、最大の投資となりました。オーストラリア館では200以上の商業取り引きが行われるでしょう。それは鉱物資源など、中豪がこれまで協力してきた分野だけにとどまらず、金融・法律サービス、農業貿易、技術コンサルタントなどの分野にも広がってほしいと考えています」。同氏が言及した金融サービスなどの分野は、まさに進行中の中豪自由貿易協定の協議において、なかなか進展しない議題のひとつだ。この点からみても上海万博は、肩ひじ張らず意見交換する場を双方に提供しているといえる。 
 
 一方、中国との貿易がそれほど盛んではない国も、中国との商業協力の可能性を模索している。モナコは「世界最大の国と世界最小の国」というキャッチコピーを掲げ、両国が電気自動車の分野で協力することを求めている。金融危機の影響が深刻だったアイスランドとギリシャでさえ上海にやってきている。アイスランド館の職員によれば、同国は中国の勢いを借りて自国の経済を立て直したいのだという。 
 
 全国政協外事委員会の趙啓正主任の考えはこうだ。「上海万博は世界が交流する大舞台です。しかもその規模はひとつの連合国ほどもあり、各国が互いに学習する場となっています。万博を開催するということは、中国の国際意識が経済の発展にともなって高まったことを表しています。中国は今後、ほかの国際的な業務においてもより多くの義務、たとえば反テロや麻薬禁止、平和維持、自然災害の克服、気候変動枠組み条約の協議などに力を尽くしていくでしょう。世界に真の中国像を認識してもらいたいですね。完璧である必要はありません、ただ本当の中国を伝えたいのです」。 
 
 上海復旦大学の国際関係および公共行政学院長である蒋昌建教授は我々のインタビューにこう答えている。「万博外交は公共外交であり、国家間の外交とは異なります。多くの企業、一般市民、NGOがそれぞれの間で意思疎通を図り、交流し、互いの理解を深めるという、民間レベルの外交です。万博はこの公共外交に恰好の機会と舞台を与えるものでしょう。あらゆる面で公共外交を展開し、異なる国や地域からの人々が上海万博にいらっしゃるのを歓迎して、中国がどれほど発展したかを、あらゆる面から知っていただきたいと思います」。 
 
〔 〕は訳注。 
原文=『亜洲週刊』2010/5/16 江迅記者 
翻訳=佐原安希子 


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