2010年07月05日06時14分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201007050614431

検証・メディア

英「エコノミスト」デジタル・エディターのインタビュー 「パッケージで売る」やり方で、飛ぶ鳥落とす勢い

 先進国での新聞業界の暗い話や米ニュース週刊誌の不調が続く中、快進撃を続けている英週刊誌「エコノミスト」。ウェブサイトには雑誌記事に加えてブログ、デイリーの分析記事も満載だ。好調の秘密を探し出すべく、ロンドンの編集部でデジタル部門の編集長トム・スタンデージ氏に話を聞いた。スタンデージ氏はウェブサイト、携帯サイト、タブレット、e-reader 版を監修する。ビジネス、金融、経済、科学、技術面担当編集長から現職へ。雑誌・新聞でネットに関わるコラムを書くほか、「The Victorian Internet」など5冊の本の著者でもある。(ロンドン=小林恭子) 
 
―「デジタル・エディター」のかたわら、自分で記事も書くと聞きましたが? 
 
スタンデージ氏:そうです。編集スタッフの一員として会議に出る一方で、原稿も書きます。最近はケニアのモバイル・マネーに関して書きました。エコノミストの(新聞で言えば社説に当たる)リード記事も書きますし、「テクノロジー・クオータリー」という特集の編集もしています。 
 
 自分自身が現役のジャーナリストなのですが、テクノロジーの知識もあるので、これまではウェブサイトのビジネスモデルや新聞のビジネスモデルに関して書いてきました。エコノミストは政治や国際情報が中心の前半分(フロント)とビジネス、科学、金融、アーツなどの後半(バック)に分かれていますが、このバックの部分をずっとやってきたのです。 
 
 ジャーナリストはよく他人にたいして、「ああするべき、こうするべき」と指図をしていますね。新しい社長が就任したら、「こういう風に経営するべきだ」とか。「日本の首相はこうするべきだ」とか。エコノミストは非常に厚かましくも、経営陣に経営のあれこれを指南しています。ですから、たまには自分たちが実務をやるというのも、いいのじゃないでしょうかー悪い仕事をするかもしれませんけど。 
 
 でも、編集面と経営面を同時に見るというのは、例えばエコノミストの編集長もやっています。あるときには紙面を作る編集長の帽子をかぶり、またある時には経営の話になって、広告をどうするか考えないといけない、と。 
 
 今は純粋に編集の仕事だけではなくなって、毎日楽しく働いています。 
 
―それでは、新聞経営のあり方というのにも、一家言をお持ちですね?日本の新聞業界は危機にあると言われていますが。 
 
 日本は非常に面白い例ですよね。前に、エコノミストで日本の新聞業界に関する記事を出しました。新聞販売は高いレベルにあるが、その理由は完全に人工的なものである、と書きました。基本的に、新聞社が新聞を買い上げていて、それほどは人は新聞を読んでいない、と。配達システムにもおかしいところがありますよね。 
 
―宅配制度のことですか? 
 
 そうです。それに、新聞の購読をやめると、誰かがやってきて、ドアをノックするそうですね。新聞社から人がやってきてそんな風にしたら、販売が維持されるに決まっていますよ。しかし最近は、なぜかこれまでのようには売れなくなっていると聞きます。政府からのリークでスクープ記事が出来るなど、日本には独特の市場があるようです。 
 
 先ほど、日本の新聞業界を含めた伝統的なメディア業界が危機状態だという出版物が日本でよく出ている、とおっしゃいましたね。しかし、その「危機」というのをよく考えてみると、果たしてどうでしょう、正しいでしょうか。 
 
 よく言われていることですが、どうも人はすべての国がアメリカのようである、と考えているようです。アメリカの新聞業界が非常に悪い状態だから、世界の新聞界もひどい状態にあるのだ、とか。実はことはそんなに簡単なものではないと思っています。 
 
 世界の新聞の状況を見ると、実際、中産階級が伸びている国、たとえばインドでは新聞発行部数は伸びています。ブラジルもそうです。実は米国の新聞もそれほど悪くはないのです。景気の動向で人を切ってはいるけれど、前よりももっと経営が健全になっていると見ています。 
 
 それに、米国の新聞の規模を考えてみてください。私たちの基準で言えば馬鹿でかいのです。米ニューヨークタイムズのジャーナリストは1200人ですよ(注:英国の新聞は大手全国紙でも500人から800人程度)。エコノミストは世界中に人を置いていますが、たった65人なんです!ですから、ニューヨークタイムズで10%人員削減というと、すごくひどいように聞こえるけれども、もとが大きいんですよ。 
 
 米国の新聞は、人員削減後、将来的に今よりもはるかによい経営状態になるのではないでしょうか。同じトピックを何人もが取材する方法は変わるかもしれません。たとえば、地方紙がワシントン支局を閉鎖しています。名前をよく知られていない地方紙が、ワシントンでほかの新聞と同様に記者会見に出て、同じようなコメントをとって、何の利点があるのだろう、と思います。閉鎖したほうが意味があるのかもしれません。それよりも、地域の話に人を配置して、ニューヨークタイムズやウオールストリートジャーナルができないことをするべきではないでしょうか。 
 
 世界中の新聞業界が危機で、もう終わりだーとしてしまうのは、簡単すぎますよ。成功しているところもあるのですからーエコノミストもそうですし(笑)。 
 
―エコノミストでは、メディアの話を取り上げるとき、必ず終わりが前向きになっていますよね。何故でしょう? 
 
 そうですね、産業の将来と企業の将来を切り離して考えるからかもしれません。 
 
 例えば、音楽業界のことを考えてください。音楽業界は世界が自分たちのために回っていると思っています。オンラインでの音楽の提供が人気になっている状況に直面しています。私も音楽を買うなら、まずスポティファイなどで聞いて、どれがいいかを決めてから買いますよ。この間も、私の大好きなジャズミュージシャンのアルバムが出たので、スポティファイで2―3曲聴いて、よかったのでアイチューンズで買いました。CDを買わなくても、非常に多様で合法的な選択肢がたくさんあります。 
 
 でも、レコード会社の経営陣は、ネット時代のビジネスモデルについて、「まだ答えを見つけていない」といいます。つまり、彼らのいう「答え」とは、かつてのようなレベルの利益を得ることです。現実の世界では、この新たな市場環境では、得られるようなお金は少ないのに、です。気に入るかもしれないと思って先に音楽を聞かずに、アルバムを買う必要はもうないのですし、つまり、少ない数のアルバムが売れることを意味します。 
 
 音楽業界が、もし年間300億ドルにも上る収入を守りたいなら、ひどい状況です。しかし、顧客からすれば、すばらしい状況です。 
 
 ある企業の将来がどうなるかと産業の将来とは切り離して考えないといけません。 
 
 ニュースも同じですよ。これまでにないほど、さまざまなソースのニュースが提供されていますね。多様性がありますし、非常に盛んです。ニュース自体の健康状態は良いのですが、新聞業界はそれほど健康ではないかもしれません。今後、私たちがニュースを欲しがらなくなるいうことはないと思いますが、同じニュース企業から入手するとは限りません。生き残る新聞もあるでしょう。 
 
―エコノミストも生き残りますか? 
 
 生き残るでしょう。非常に特別なケースだからです。なぜほかの新聞がうまくいかず、多くのニュース媒体がエコノミストを模倣しようとしています。 
 
―例えば、米週刊誌ニューズウイークですね? 
 
 そうです。ニューズウイークの戦略はエコノミスを模倣することなんです。タイムも同様です。ブルームバークやビジネスウイークもエコノミストのビジネスモデルを好むと言っています。 
 
ーエコノミストのビジネスモデルとは、つまり、分析や質の高い記事のことでしょうか? 
 
 エコノミストのビジネスモデルは何を意味するのかーいい質問ですね。 
 
 ニューズウィークがやろうとしたのは、発行部数を減らし(250万部から150万部へーエコノミストは160万部)、より高い購読価格が払える読者を対象にして、発行部数自体を増やすことを目的にしない、というものでした。 
 
 エコノミストのビジネスモデルというとき最初に来るのが、まず収入の約65%が有料購読によるという点です。残りの35%が広告なのです。これは非常に珍しいのです。多くの出版物は収入のほとんどが広告です。 
 
 景気後退の中で、エコノミストは定価を上げました。エコノミストは広告収入ではなく、読者が払うお金に依存しているので、広告収入が少し落ちても(前年20%減、その前の年は10%減でした、大体ですが。一部の出版社は広告収入が60%落ちたところもあります)―私たちにとっては痛みでしたが、他のニュース媒体ほどにはひどくなかった。 
 
 エコノミストでは、広告収入の比率は常に低かったのです。広告収入で経営しようというのは、19世紀のアメリカ型モデルです。1851年には、米国では、典型的な新聞の収入のほとんどが広告でした。蒸気機関を使った印刷機を使えたので、非常に多くの紙を一度に印刷して、安い値段で売ることができました。定価が安いので(1ペニー)コスト割れになるところ、たくさん広告を出すことで、経営を維持したのです。これが米国の新聞経営のモデルになりました。これが150年間続いてきたわけです。問題は、広告がネットに移動した時、つまり、広告主が紙媒体にこれまでより少ないお金を出すようになった使うことになった時、収入のギャップをどう埋めるかです。米国の新聞の多くは今でも利益を出していますが、利益幅は低くなっているはずです。 
 
―店頭で買う場合と有料購読者の兼ね合いはどうでしょうか?販売部数が約160万部というとき、その中身を知りたいと思ったのですが。 
 
 言い忘れましたが、店頭で買う人もいます。かなり低い比率です。読者の大部分が年間の有料購読者です。購読料は年間で120ドルほど。 
 
 エコノミストは、伝統的に、景気後退時にはよく売れています。「ああ、すべてがおかしくなっている。エコノミストを読めばよかったな」と思うのでしょうね。 
 
 それと、ここがエコノミストの固有なところだと思うのですが、私たちは長い間、ウェブサイト上でエコノミストのコンテンツのすべてを開放してきたのですが、それでも売り上げには影響しなかったのです。 
 
―何故でしょう? 
 
 私が思うところでは、エコノミストは非常に珍しい製品ではないかと思います。エコノミストは、世界で起きているすべてのことを見て、分析し、これを手に持てるようなパッケージ(つまり1冊の雑誌の形)にまとめています。今のところは紙の雑誌の形をしていますが、アイパッドで見れる形が普通になるかもしれません(注:実際にエコノミストはアイパッド上で販売している)。 
 
 1週間のニュースをフィルタリングし、カプセル化するーこの点に人々は価値を置いています。もしあなたが非常に忙しくて、すべてのニュースを読む時間がなかったら、私たちは「エコノミストを1冊読んでください」、「大変な仕事はこちらがやって、何が重要かを決めてあります」、「これだけを読んでください」といいます。すると、読者の側からすれば、幻想かもしれませんが、エコノミストを読むだけで、世界の情勢をフォローしている、と思えるのです。同様のことをやっているのが(英国の週刊誌で、1週間の情報を短くまとめる)「ザ・ウィーク」です。 
 
 エコノミストも、ザ・ウィークも、たくさんのニュース・ソースがインターネット上にあることから恩恵を受けています。たくさんあればあるほど、読者のために情報をフィルタリングする媒体の重要性が増すのです。ブログやニュースのライバルなどが増えるのは、新聞にとっては悪いことです。新聞にはエコノミストのような独特の役割がないからです。新聞はニュースをレポートするだけですから、 
 
 過去に私たちがウェブサイトでコンテンツをすべて公開していても、雑誌の売り上げに影響を及ぼさなかった理由が、これだと思うのです。 
 
 ウェブサイトはこれを抱えて飛行機に乗るようなものではないですね。ウェブサイトは決して最後にならないー終わらない。雑誌であれば、読めば、「ああ、これで今週はニュースに追いついた」と思えますが、ウェブサイトにはこれがありません。常に「もっと」の部分があります。ウェブサイトは雑誌体験の貧弱な代用品なのです。 
 
 ウェブサイトに行く人は、雑誌を読む場合と違う期待を持っています。エコノミストのウェブサイトに来る人は、エコノミストが特定のトピックに関して、「今、どんな論評をしているのか」を知りたいのです。それと、何かを調べている時、たとえば海外に事務所を作ることになって、ビジネス環境などを調べたい時など。ウェブで読む人のやりたいことと雑誌を読む人のやりたいことが違うのです。この点が、ほかの出版物では損害になるのですが、エコノミストではそうなりません。すべてをウェブに載せて、悪い影響がほかの発行物ではありましたが、エコノミストはまったくそうではなかったのです。 
 
 1996年−97年ごろはマイクロペイメントでやっていたのですが、その後全部無料になり、最近では無料を少なくしつつあります。特に、アイパッドが出てきてからそうしています。 
 
 どんな風に変わったかといいますと、かつて私たちがやっていたのは、その週のエコノミストの記事のリストを最初の面に載せていました。このページが無料だったとき、インスタペーパーなどのソフトウェアを使って、サイトから記事をすくい取って大きなファイルにいれ、携帯に出せるようにした人がいました。エコノミスト側は、この時点で、サイトはもうひとつの雑誌になったと受け止めました。 
 
 そこで昨年、雑誌の記事のページを「有料の壁」(ペイウオール)の中に入れたのです。購読者のみが雑誌記事のすべてを読めるようにしました。サイトの中にはあるのですが、リンクされていないので、すぐには見えないようになっています。グーグルで探せばある記事があることが分かりますが、それを見つけるには雑誌を目の前においていないといけません。これは比較的最近の動きです。エコノミストのサイトから記事をとって、キンドルで読めるようにした人が出てきたので、手を打ったというわけです。ウェブサイトが潜在的な危険を引き起こした最初の例です。キンドルではエコノミストも有料で提供されていますから、「なぜ有料で読まないといけないのか、ただで読めるのに」と。やり方が紹介されていたので、手を打たなければと思いました。 
 
ー有料の壁に入れたと聞いて、やや驚きました。有料購読者でなくても、私の経験からは、現在でも、すべて読めるように思っていましたので。 
 
 雑誌の内容のほとんどを毎週サイトで出してはいるのです。しかし、すぐにではありません。つまり、発行日の金曜日に全部出すのではありません。グーグルリーダーにも全部は出しません。ドリッピング方式です。1週間かけて少しずつ出します。金曜日にサイトに行くと、その週の記事の大半が出ていますが、すべてではありません。1週間が過ぎる中で、前の週の記事がだんだん出てゆきます。次の週の木曜日、次の新しい号が印刷されるころ、ほぼすべてが無料で読めるようになっています。この時点では、次の雑誌がすぐ出るので、前の雑誌は売れないだろうという判断です。 
 
―では有料購読者と購読していない人との差は? 
 
 有料購読者は、雑誌の発行日の金曜日に、すべての記事が1つのバンドルとして読めることです。まだまだこのパッケージを買いたいという人がいるのです。 
 
 ウェブサイトに来て、記事だけ読んでまた行ってしまう人は確かにいます。しかし、実際には、ウェブサイトを通じて、多くの場合、紙の購読にもつながっています。記事を読んで、「購読したい」と思うようです。ですから、ウェブサイトは非常によいショップウインドウの役目を果たしています。そこで、1週間かけてすべてを出しても私たちにとってはよく回っているシステムです。しかし、これがうまく行っているのは、ニュース情報をフィルターし、分析し、カプセル化するというエコノミストの特徴があってこそです。(続く) 
(「ニューズマグ」より転載) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。