2010年07月06日06時48分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201007060648422

検証・メディア

英「エコノミスト」デジタル・エディターのインタビュー◆ 屮薀ぅ丱襪真似をするのは相当困難」

英週刊誌「エコノミスト」の好調の秘密を探し出すべく、デジタル部門の編集長トム・スタンデージ氏にロンドン本社の編集部内で話を聞いた。(ロンドン=小林恭子) 
 
―他の媒体がエコノミストのモデルを模倣できますか?米ニュース週刊誌がエコノミスト型を目指すと言っていたようですが。 
 
 非常に難しいでしょうね。まずブランドの名声を作り上げるのが難しいでしょう。 
 
 例えば、米ビジネスウィーク。非常によい雑誌です。たくさんお金をかけていますし、ジャーナリストもたくさんいます。しかし、基本的に政治記事はあまりありません。その週のアフリカ情勢や中東情勢に関するブリーフィングがありません。週刊誌の中では大きなライバルとも言えるのでしょうがー。エコノミストは最初の半分が政治で、後半がビジネス・科学・テクノロジーです。ビジネスウィークはこの後半の部分のみを扱っています。 
 
 エコノミストの最初の半分ですが、地理的なセクションを設けているので、読者は、毎週、アフリカやアメリカ、中東に関して数ページが割かれることを知っています。こうしたページは他の記事が増えたからといって縮小されることはありません。しかし、ほかの多くの新聞(注:エコノミストは「ニュースペーパー(新聞)」と自己定義している)では、アフリカの記事を出したければ、ゴシップ記事などほかの記事とスペースの取り合いになります。そういうことがエコノミストではないのです。アジア、アフリカなどのカバレッジが毎週一定量あることが強みの1つとなるのです。 
 
 ほかに、ビジネスウィークやブルームバークがエコノミストを模倣できない点は、エコノミストがアメリカの出版物ではない点です。読者の半分はアメリカ人なのですが、アメリカの出版物ではないという点は大きな利点です。特に米ブッシュ前政権の時にそうでした。アメリカ人はアメリカや世界のほかの地域に関する、アメリカ以外の視点を知りたがっていました。ガーディアンもこの点から人気が出ました。多くの米国人がブッシュ大統領の行動を恥じていました。米国に対する外からの視点をほしがっていた。米国にいる読者の関心がエコノミストに恩恵をもたらしました。 
 
 グローバリゼーションもエコノミストにとっては追い風となりました。常にグローバルな視点を持ってきましたし、グローバリゼーションのハウスジャーナルとも言われてきました。このトレンドがエコノミストを助けました。一方、新聞社同士はグローバル化で競争することになりました。たとえばガーディアンはニューヨークタイムズと競争下にあります。グローバリゼーションの波はほかのニュース媒体に損害を与えたのですが、エコノミストには恩恵をもたらしました。ラッキーでした。 
 
―ウェブサイトは近年ずいぶん変わりましたね。日々のレポートが出るようになりました。サイト刷新までの動きを教えてください。 
 
 編集長が変わったのが2006年です。真剣にウェブサイトに取り組もうということになりました。2008年、内部でサミット会議を開きました。世界中からエコノミストのジャーナリストを呼んで、今後を話し合いました。 
 
 長年、私たちのウェブ戦略は、出来うる限り最小限のことをやろうというものでした。ネットがブームになった時、その将来性に関して懐疑的でした。これには歴史的な理由があります。 
 
 エコノミストができたのは1840年代―英国の鉄道ブームのころです。当時、鉄道はすごい、お金がたくさん儲かるビジネスだと人々は誉めそやしました。鉄道が英国の社会に大きな変化をもたらしたのは事実ですが、ビジネスに失敗してお金を失った人もたくさんいました。そこで、ブームに対して懐疑心を持つというのは伝統になっています。少し前の住宅ブームのときも同様のスタンスでした。 
 
 そこで、ネットに対しても、当初は警戒心を持ってきました。あまり何もしていませんでしたが、過去10年ほどの間に、ウェブサービスのチーム(「グローバルアジェンダ」)と紙のチームとを平行させてきました。別々のチームになったのは、もともと、ウェブの制作が紙の制作に影響を及ぼさないようにという方針があったからです。たとえば紙用に車の記事を書いた人が、ウェブにも車について書く・・とはならないように、と。 
 
 ウェブについて古い考えを持ったジャーナリストたちはサイトの拡充に反対の声をあげました。仕事が増える、関与したくないと言ったのです。そこで、別のチームを作ったのですが、多くの人がこれでは十分ではないと感じていました。紙の印刷(プリント)の記事をウェブにも載せるようにしたのですが、どうもそれだけでは、と。 
 
 プリントの記事をそのままサイトに載せた場合、対応が遅くなることも分かりました。エコノミストのプリントの記事を仕上げるには時間がかかります。事実の確認などをして、ニュースとしてサイトに上げるまでに、4−6時間はかかるのです。これでは十分ではないと感じていました。そこで、ほかの新聞社がそうしているように、プリントとサイトの制作を統合することが必要だと思ったのです。 
 
 たいがいの大手新聞社には大きなオンライン部門があります。プリントの編集部門とほぼ同じぐらいの大きさです。これを統合したのですが、オンラインの編集スタッフのほうがより多く残ったと聞いています。多くの痛みがありました。 
 
 私たちの場合、痛みは少なくてすみました。というのも、ネット専門のチームの人員は非常に少なかったですし、この人員は、もともと、前にプリントで働いていたジャーナリストたちでした。ネットに通じた若い人を雇ったわけではなく、もともとエコノミストのジャーナリストだったのです。 
 
 そして、プリントとウェブサイトの編集を統合させた後で、「チャンネル」を作りました、たとえば「ビジネス&ファイナンス・チャンネル」を作り、これに専門のエディターを置きました。このエディターは副編集長(プリントでもネットでも)でもあります。これが標準になりました。ジャーナリストも慣れてきて、ニュースが勃発すると、その日のうちに記事をサイトに載せるように書き、これを後でプリントにも載せるのです。 
 
 過去2,3ヶ月、力を入れてきたのはブログの使用です。これまでエコノミストはブログをあまり効果的に使っていなかったと思います。そこで私が変えたのですが、今ではブログの形で、ネットオンリーの記事がずいぶん増えました。ウェブサイトは雑誌の記事、ブログ、オンラインオンリーの記事、マルチメディアのコンテンツで構成される形になりつつあります。ブログは、意見や分析の記事が強みとなるエコノミストによく合うと思います。 
 
―ジャーナリストの仕事は増えましたよね? 
 
 そうでしょうか?週の間、ジャーナリストはセクションエディターなどにメールで何を書くかを相談しています。「こういう理由でこんなトピックが面白い」といった内容のメールを3つか4つの段落を使って説明しています。これはブログの内容と同じです。 
 
 また、大きなビジネス上の取引が成立したとき、私たちは廊下などで意見を交換しています。そこでは、私たちはすでに何らかの意見、アイデアを表明しているわけです。私はこうした意見をキャプチャーしたい。メールや廊下でのおしゃべりをキャプチャーして、ブログに出したいのです。自分でやっている人もいるし、ブログポストを担当する人に送ったりしています。何か起きたら、2−3分後にはコメントをサイトに出せるのです、写真などは後で加えればよいでしょう。これで、はるかに早いレスポンスができます。トラフィックもあがります。 
 
 あるニュースが発生すると、人はグーグルニュースを探しますが、その1時間後にはエコノミストのサイトにやってきます。前は記事を上げるまでに4−6時間かかっていたので、この時読みにきてくれた人に記事を提供する機会をふいにしていたのです。今は1時間ぐらいして出るので、劇的変化ともいえるでしょう。現実には死んだも同然になっていた分野ごとのページを、活気あるチャンネル毎のページに作り変え、スタッフによるブログをたくさん入れました。サイトは雑誌とは別の使い方ができます。雑誌の記事を保管し、雑誌のショップウィンドウでもあるのです。 
 
 2,3年前までは、雑誌を売るためにサイトを作るという考えがありましたが、もうそうではありません。補完するウェブサイトがある雑誌を作っているという考えです。これからは、アイパッドやキンドルや、さまざまな電子版を作りながら、紙も長い間作り続けるでしょう。 
 
―アイパッドの出現で、紙の販売に影響があることを心配しないのでしょうか? 
 
 まったく心配していません。アイパッドは紙と同じという意識です。お見せましょうか?(といって、アイパッドを開く。)エコノミストのアイパッド版はゼニオというパートナーと一緒にやっています。アイパッドで読むエコノミストは紙媒体の雑誌と同じです(画面上に、雑誌の紙面がそのまま表示される)。これを持って飛行機に乗れます。電車などでもみんな読んでいます。 
 
 雑誌の紙面がそのまま読めるアイパッドのよい点はネットのようにほかの事に注意が散漫しないことです。ウェブだったら、画面上のいろいろな場所に視線が飛んで、注意が散漫になりがちです。アイパッド上のエコノミストは、「必要なのはこれ一冊でよい」という幻想を与えてくれます。ウェブサイトは、エコノミストという特別な製品のあくまでも補完物なのです。読者が雑誌の紙面そのままの形のエコノミストをアイパッドで読むには購読料が必要になりますが、アップルに対してこちらから使用料を払うことはありません。 
 
―紙の雑誌とモバイル、ウェブサイトー3つの形がありますが、紙を読者が最も好む、というのはおもしろいですね。 
 
 多くの人がプリントで買うことを望んでいます。郵便状況が悪いところではオンラインのみが魅力的になるかもしれませんが。過去26年間、読者が増え続けてきました。オンラインで全部出しても、プリントの部数が伸び続けてきたことを考えると、読者はコンテンツもほしいけれど、雑誌というフォーマットも好きということでしょう。 
 
 さまざまな情報があふれる中、私たちが重要なトピックを選んで読者の手の中に入るものに作り上げるーこれがプリント及びアイパッド上のエコノミストです。ウェブサイトは同じ体験を与えてくれません。発行日の金曜日、雑誌のエコノミストかオンラインのエコノミストかどちらがいいかと聞かれたら、私は雑誌を取りますー読みやすいからです。ニューヨークタイムズを日曜日に買ったら、非常に分厚くて、捨てるページがたくさんありますので、サイトを見たほうが簡単です。ところが雑誌は1つにまとまってあります。エコノミストのウェブサイトは雑誌の代替にはならないのです。多くの新聞ではなると思いますが、エコノミストではならないのです。 
 
―エコノミストを真似たいと思うライバルは多いでしょうね。 
 
 一言で言えば、できないと思います。独自な特色があるからです。アメリカ物ではないし、また非常に強力なブランド(分析と意見、ウイット)があります。これをまねするのは難しいーブルームバーグもやろうとしていますが、意見やウイットが少ないのです。ウイットとオピニオンの強い媒体を作るにはどうするか?−何年もかかるプロジェクトだと思います。 
 
ー新聞社のウェブサイトの閲読有料化に関してはどう思いますか? 
 
 英大衆紙サンはサイトで利益を出していると聞いていますが、2つのタイプの新聞があると思います。1つはいったんスケールダウンしたら、オンラインオンリーでいけるサイトです。米ハフィントンポストがこれに当たるでしょうね。紙媒体ではありませんし、多くのボランティアがいます。ニューヨークタイムズもガーディアンもたくさんオンラインのアクセスがあり、大きなオーディエンスを持っているので、紙でなくてもオンラインだけで生き延びる可能性があります。あるいは専門紙―例えば、WSJ,FT、エコノミストなどは可能でしょう。仕事で使う場合が多いですし、会社が購読料を払ってくれます。 
 
 しかし、ほとんどの新聞はこの2つの流れの中間にあります。7月からサイト閲読有料化のタイムズはここに入ります。タイムズは昔はもっとエリートが読む新聞という感じでしたが、ルパート・マードックが買収してからは、より一般受けする新聞になりました。プリントの世界では正しい編集判断だったのでしょうが、今はどうでしょう。私自身はタイムズはあまり読みませんが、もし読もうとして有料だったら、ほかのサイトに行くでしょう。 
 
 私の見方としては、タイムズのサイト有料化はうまくいかないと思いますが、この見方が間違っていたらうれしいですね。 
 
―アイパッドが新聞を救うといっている人もいますが、どうですか? 
 
 アイパッドが新聞業を救うとは思いません。単に持ち運べるからといって、ビジネスモデルを変えはしないのでは。人にお金を払ってもらうには、何か特色がないと。 
 
―確認ですが、購読者でなくてもサイト上でエコノミストの記事のほぼすべてが読めますよね? 
 
 そうです。将来的には変えたいと思っていますが。アーカイブをもっといろいろな人に読んでもらって、より良いショップウインドウにしたいので、議論を続けています。アーカイブは現在、過去2ヶ月までのものが読めます。 
 
―ずいぶんと太っ腹ですね、購読していないのに。 
 
 そうですね、でも(すべてが即無料の)ガーディアンに比べればそれほど太っ腹ともいえません。これからは、一定の本数を無料で読める、FTやニューヨークタイムズのやり方(いわゆる「メーター制」)がモデルになるでしょうね。 
 
ーサイトのヒット数を教えてください。 
 
 毎月2900万のヒットで、400−500万人のユニークユーザーというのが自社の記録ですが、公式のユニークユーザー数は290万人ということになっています。 
 
「ニューズマグ」より 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。