2010年08月18日02時12分掲載  無料記事
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検証・メディア

英国で進む、統合編集局 ―元タイムズ編集局長ジョージ・ブロック氏に聞く

 ここ2−3年ほど、紙媒体(プリント)と電子版(オンライン)の編集現場を一体化させる「統合編集室」が世界中の新聞業界でホットなトピックとなってきた。いち早くマルチプラットフォームに対応する編集管理体制(コンテンツ・マネジメント・システム=CMS)を導入した国の1つとして知られるのが英国だ。米国、カナダ、欧州他国などでもそれぞれ統合化が進んでいるが、国によって導入の進度は異なり、あえて統合させない(ノルウェーのVG紙など)場合もある。(ロンドン=小林恭子) 
 
 英国で統合編集室が実現の運びとなったのは2006年頃から。高級紙テレグラフやガーディアンは新社屋への引越し(前者は2006年、後者は2008年末)をきっかけに編集室をマルチの出力用に作り変えている。 
 
 ロンドンシティー大学のジャーナリズム学部長ジョージ・ブロック教授は、昨年まで高級紙タイムズの国際版編集長だった上に、2008年までWAN−IFRA(世界新聞・ニュース発行者協会)の編集幹部の議論の場「世界編集者フォーラム(WEF)」の委員長を務め、今も中心メンバーだ。 
 
 さまざまな国の編集幹部と意見を交換をして見えてきたのは「統合編集局の必要性はその国の文化や新聞市場によって変わる」ため、「統合自体を目的化するべきではない」ということ。英新聞各紙が統合化に踏み切ったのは「若者層が紙の新聞を読む習慣をなくし、ニュース情報をウェブサイトから得ている」という事実、そして「ライバルとのネット上の熾烈な競争」に勝つ必要があったからだ。 
 
 このため、紙とオンライン投資のバランスの上で、タイムズの経営陣や編集幹部の中で迷いはなかったという。新体制の成功には、「新聞社のトップが統合を協力に推進するというシグナルを会社全体に出すこと」が肝要という。 
 
 マルチプラットフォームでの出力が常態となる編集現場の流れだが、例えばテレグラフでスクープ原稿があった場合、記者が電子版に短い第一報を出す。より長い第2報を準備すると同時に、合間を縫って、社内のミニスタジオで動画を作り、これを電子版に掲載する。事態の変化によって何度かのアップデートがなされた後、次の日の紙面用に解説が入った長めの原稿を作る。デスクは紙媒体の原稿ばかりか電子版での原稿にも管理責任を持つ。 
 
 また、日本では編成・整理・校閲にあたる「サブエディター」(原稿の内容を確認したり、記事に見出しをつける)は、記者、デスクあるいは紙面をレイアウトするデザイナーが職務の一部を肩代わりするようになっている。原稿を書き上げてから、最少人数では2−3人の手を経て(記者、デスク、編集支援スタッフ)、電子版に記事が出る。 
 
 統合編集室の導入は、広告収入の激減で苦しむ英地方紙業界にとっては、経費削減の一手でもある。地方紙大手トリニティー・ミラー社は6月、傘下の3紙の編集室に新たなCMS「コンテンツウオッチ」を導入し、約200人の人員削減を行う予定を発表した。ニュース部門と特集記事部門が合併し、スポーツ記者は一堂に集められ、その記事は3紙が共同で掲載する。 
 
 マルチになってスタッフの仕事が以前より増えたり、出力までのスピードを速める圧力が働いていることについて、同氏は「現在は過渡期」という。「即ニュースを読みたい人には選択肢がたくさんある」。一方、新聞社は報道の「深み、正統性、正確さ、分析、文脈の説明で勝負する」。マルチ時代の編集幹部にはこうした新聞報道の質とスピードのバランスを見ながらコンテンツを出していく力量が求められるという。(終) 
 
(日本新聞協会が発行する経営陣向け冊子「NSK経営リポート」2010年夏号 Vol 5 に掲載された記事の転載です。) 


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