2010年09月01日16時29分掲載  無料記事
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検証・メディア

「非核三原則」堅持し、実践を 核抑止の幻想を断ち切れ 池田龍夫(付・「新安保懇」報告) 

  人類史上初の原爆投下から六十五年の八月六日、「ヒロシマ平和記念式典」には過去最多の七十四カ国代表が参列、「核廃絶」への世界的潮流を感じさせた。米国のルース駐日大使や核保有国の英仏両国代表が初参加、潘基文・国連事務総長も初出席して例年を上回る式典になったことは喜ばしいが、具体的な「核軍縮→核廃絶への道筋」を着実に積み重ねる国際協力が強く求められている。 
 中東地域をはじめとして、国家間の対立、民族紛争が続発している現在、「核拡散」「核テロ」の不安を早く除去しなければ、地球破滅につながりかねない。米ソ冷戦時の「核の傘」論は、両国以外の核保有国増大によって覆された。英・仏・中国・インド・パキスタン・北朝鮮に「核兵器」が拡散、イスラエルを含め、核保有国は九カ国に膨らんだ現実を冷厳に分析し、核廃絶を目指すことこそ世界平和の一大目標と認識すべきだ。 
 
▽キッシンジャー提言・オバマ演説を生かせ 
 
 本論に進む前に、核問題に絡む最近の動きを振り返っておきたい。オバマ米大統領就任前の〇八年初頭、米紙に掲載された米国四賢人のアピールに世界は刮目した。キッシンジャー元国務長官、シュルツ元国防長官、ペリー元国防長官、ナン元上院軍事委員長という歴代米政権の中枢にいた四氏が「核のノウハウ、そして核物質の拡散の結果、我々は劇的変化を目前にしている。核兵器が手に入りやすくなっている現在、抑止効果は下がっており、逆に抑止に伴う危険が高まっている」と警鐘を鳴らし、「核のない世界」構築を訴えた。 
 
 その後誕生したオバマ新大統領の「プラハ演説」(〇九年四月五日)――「全面戦争の危機は去ったが、(核拡散により)核攻撃の危険性は高まった。米国は核兵器を使った世界で唯一の核大国として、行動する道義的責任がある。時間はかかるが、世界を変革できることを信じ、核廃絶に向け確実に行動する」との決意表明へと継承された。その後、同年九月に国連安保理「核廃絶」決議、十一月には「核兵器のない世界」に向けた日米共同声明、一〇年四月「米ロ・新戦略兵器削減条約」合意、同年五月の核不拡散条約(NPT)再検討会議などのウネリが高まり、今年の「ヒロシマ平和記念式典」の成果につながったと言える。 
 
▽「核の傘」に頼らない外交戦略を 
 
 「参列した海外代表は、過去最多の74カ国に上る。核軍縮の流れが確かなものになる中で、ヒロシマの訴えがようやく世界と深く結びついてきたように思える。被爆65年の8・6は、国内外のメディアの注目を集めた。国連トップに加え、原爆を落とした米国や核を持つ英仏の代表が初めて黙とうの輪に入ったからだ。 
 とりわけ心強いのが『世界の安全のためには核兵器廃絶しかない』とする潘事務総長の熱意だ。記念講演では、平和市長会議が目標とする『2020年までの廃絶』に賛同。かねての持論である核兵器禁止条約の交渉へ向け、国連で議論を進める姿勢を示した。一方、もう一人の『主役』のルース米駐日大使は口を開かず広島を後にした。参列をよしとしない米国内の声にも配慮したのかもしれない。その点は残念だが、被爆地から世界へ、これまでにも増して強いメッセージが発信されたのは間違いあるまい。 
 国際社会に行動を促すとき、問われるのは自国の姿勢だ。秋葉忠利広島市長が平和宣言で日本政府に注文を付けたのは当然である。非核三原則の法制化や、米国の『核の傘』からの離脱を求めた。日本が禁止条約の音頭を取ることも提案している。政権交代した政府の姿勢はどうか。菅直人首相は式典で非核三原則の堅持を表明し、核兵器の悲惨さを海外に伝える『非核特使』のアイデアを打ち出した。これまで被爆者らが地道に続けてきた取り組みを国が後押しするようだ。そこは評価できよう。 
 首相は、日本が先頭に立って行動するのは『道義的責任』とも述べた。ただ核保有国の首脳に働きかけたい、とするのは『核軍縮と核不拡散』にとどまる。禁止条約については触れなかった。記者会見では『核抑止力は必要』とも明言した。国際情勢や米国への気遣いがあるにしても、被爆者の思いとは相いれまい。道義的責任というなら、まず『傘』に頼らない覚悟と外交戦略が求められるのではないか」。 
 
 この中国新聞の指摘(8・7社説)は、「核なき世界」を目指して実践している広島市民の率直な気持ちを代弁したものとして感慨深い。 
 
▽菅首相の狷麕臉絖疆な姿勢は許せない 
 
 広島市長が「非核三原則の法制化」と「核の傘」からの離脱を主張した意義を、日本政府は謙虚に受け止め、「核のない世界」構築へ向け具体的行動に踏み出す好機だ。菅首相も「核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、日本国憲法を遵守し、非核三原則を堅持することを誓います」と記念式典で述べたが、その後の記者会見で、「核抑止力は我が国にとって引き続き必要だ」と述べたことに驚き、前段の「非核三原則堅持」が犇念仏瓩鵬瓩なかっことが情けない。 
 
 「平和憲法遵守、非核三原則堅持」が、形式的な常套句に堕した感が深く、二〇〇一年の小泉純一郎政権以降十年の「歴代首相あいさつ」を調べたところ、その言い回しは爛ウム返し瓩修里發痢¬閏臈淦権の菅首相あいさつにも新味を感じなかった。さらに、国民を愚弄するような「核抑止力」の狷麕臉絖瓩狼せない。「衣の下からの鎧」が透けて見える。 
 
 広島県原水協・被団協が、「記念式典で菅首相が『核兵器のない世界』の実現に向け先頭に立って行動する道義的責任を有していると述べたにもかかわらず、『核抑止力』を肯定したことは「まったく矛盾するもので、『核の傘』からの離脱を明言してこそ世界で唯一の被爆国の首相としての発言として説得力を持ち信頼が得られる」と、抗議したのは当然である。 
 
▽「新安保懇」の防衛見直し報告への危惧 
 
 核保有国が拡大し、NPT体制にそっぽを向く犂躙厩餡鉢瓩存在する現状からみて「核抑止力」は形骸化したばかりでなく、猝椶砲鰐椶鬮瓩琉循環を生み出す危険性を孕む。この現実を無視し、「非核三原則見直し」を迫る「新安保懇」(新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会)報告にビックリ仰天した。 
 
 報告書案には「非核三原則・武器輸出三原則の見直し」「自衛隊の均衡配備を見直し、沖縄・南西諸島重視への転換」などが盛り込まれている。戦後日本の防衛政策大転換につながる提言で、民主党政権下での外務省有識者委員会・核密約調査によって「核兵器搭載艦船の日本寄港密約」が明らかにされたことが牋き金瓩砲覆辰燭反篁,任る。 
 
 民主党政権は年末に「防衛大綱」改定を公約しているので、正式報告書を受けた上での対応が極めて重大な政治案件に浮上したと言える。非核三原則のうち「持ち込ませず」を修正、「二・五原則」に変えようとする流れを看過できるだろうか、一般国民は強い警戒心を持たなければならない。 
 
 「新防衛懇」は、加藤良三・前駐米大使や中西寛・京大大学院教授ら有識者十一人で構成されているが、審議経過などの情報は非公開。読売7・26朝刊一面トップの報道がなければ、多くの国民は審議会の存在すら知らなかったろう。戦後日本の「国是」とも言える「非核三原則」については、もっとオープンで公正な論議を求めなければならない。 
 
 鳩山由紀夫前首相は「密約調査の結果を踏まえた上で、非核三原則を堅持する」と表明、岡田克也外相も同調し、菅首相も広島で堅持を確約しているから、「二・五原則」への変更はあり得ないとは思うが、楽観は禁物である。 
 
 メディア報道を見る限り、「新安保懇・報告書案」を大々的に報道しただけで、その背景を分析し問題点を指摘する記事が、ほとんど見当たらなかったことは、極めて遺憾である。政府審議会や懇談会の在り方、密室審議などの問題点が指摘されているものの、情報公開は遅々として進んでいない。今年の「ヒロシマ平和記念式典」が見せた国際連帯と核廃絶への潮流に感動した反面、民主党政権の核廃絶など防衛政策全般の体制変革(トランジション)への覚悟、取り組み方に甘さを感じた。普天間基地移設のトラブルや核抑止に関する安易な発言が、菅政権の行方に不安を掻き立てている。 
 
 核廃絶を求めながら、一方では米国の核に依存する“矛盾”をいつまでも続けてはならない。日本政府は先ず、国際社会に対して核兵器禁止条約締結の音頭を取り、国内では「非核三原則」の法制化に踏み切って欲しい。 
 
*本稿は新聞通信調査会発行の月刊冊子『メディア展望』2010年9月号に掲載された「プレスウォッチング」の転載です。 
 
[参考資料] 
 上記の論稿で取り上げた「新安保懇」が8月27日、菅直人首相に正式報告書を提出しました。7月の「報告書案」が示した内容と基本姿勢は変わっていませんが、原案段階で見直しを求めていた「非核3原則」については、「当面改める情勢にない」との認識を加え、慎重姿勢を示しています。しかし、「米国の手を縛るような原則を事前に決めておくことは、必ずしも賢明でない」と記しています。日本の安全保障政策転換に影響を及ぼす報告書ですので、参考資料として重要個所を添付します。 
 
       新安保懇報告(要旨) 
日本がその平和と安全を守り、繁栄を維持するという基本目標を実現しつつ、地域と世界の平和をと安全に貢献する国であること、日本が受動的な平和国家から能動的な「平和創造国家」へと成長することを提唱する。 
 
第1章 安全保障戦略 
 第1節 目標=安全保障上の目標は、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定 
と繁栄、自由で開かれた国際システムの維持である。 
 第2節 日本をとりまく安全保障環境=日本の周辺地域と日本にとって重要なことは、米国の抑止力の変化、朝鮮半島情勢の不確実性の残存、中国の台頭に伴う域内パワーバランスの変化、中東・アフリカ地域から日本近海に至るシーレーンおよび沿岸諸国における不安定要因の継続といった課題にどう対処するかにある。 
 第3節 戦略と手段=「平和創造国家」は、世界の平和と安定に貢献することが日本の安全を達成する道であるとの考えを基礎とし、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。軍事力の役割が多様化する中、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基礎的防衛力」概念は有効性を失った。非核3原則に関し、当面、改めなければならないという情勢にはない。しかし最も大切なのは核兵器を「使わせない」ことであり、一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない。また、安全保障環境と国際関係改善のための手段として防衛装備協力の活用などが有効であるとの理念の下、武器輸出3原則などによる事実上の武器禁輸政策ではなく、新たな原則を打ち立てた上で防衛装備協力、防衛援助を進めるべきである。 
 
第2章 防衛力のあり方 
 第1節 基本的考え方=従来の装備や部隊の量・規模に着目した「静的抑止」に対し、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・適切な運用を行い、高い部隊運用能力を明示することによる「動的抑止」の重要性が高まっている。今日では、基盤的防衛力構想から脱却し、多様な事態が同時・複合的に生起する「複合事態」も想定して踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ている。 
 第2節 多様な事態への対応=今後自衛隊が直面する多様な事態には、|篤札潺汽ぅ襦巡航ミサイル攻撃、特殊部隊・テロ・サイバー攻撃、周辺海・空域および離島・島しょの安全確保、ここ阿遼人救出、テ本周辺の有事、Δ海譴蕕複合的に起こる事態(複合事態)、大規模災害・パンデミック、等が含まれる。 
 第3節 日本周辺地域の安定の確保=防衛省・自衛隊は、日米安保体制下での米軍との緊密な協力という前提の下、日本周辺地域の安全のために、‐霾鷦集・警戒監視・偵察(ISR)活動の強化、韓国、オーストラリア等との防衛協力や他国間協力の促進、中国やロシア等との防衛交流・安保対話の充実、ASEAN地域フォーラム(ARF)等の地域安全保障枠組への積極参加、といった取り組みが必要である。 
 第4節 グローバルな安全保障環境の改善=自衛隊は国内外で官民連携もしつつ’肪捷餡函脆弱国家の支援、国際平和協力業務への参加の推進、▲謄蹇Τぢ嬰国際犯罪に対する取り組み、B腟模災害に対する取り組み、ぢ舂滅鵬兵器・弾道ミサイル拡散問題への取り組み、ゥ哀蹇璽丱襪碧姫匐力・交流の促進を進めるべきである。 
 第5節 防衛力の機能と体制=日本の防衛力整備は具体的に、地域的およびグローバルな秩序の安定化、複合事態への米国と共同での実効的対処、平時からの緊急事態への進展に合わせたシームレスな対応を目指すべきである。日米同盟における両国の役割分担の観点からは、自衛隊は米国との相互補完性の強化を目指すべきであり、さらに国連平和維持活動(PKО)など自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要である。 
 
第3章 防衛力を支える基盤の整備 
 第1節 人的基盤=防衛省は、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤に関する課題について早期に具体的な制度設計を行い、人的基盤の整備に着手すべきである。 
 第2節 物的基盤=国内防衛産業が国際的な技術革新の流れから取り残されないためには、装備品の国際共同開発・共同生産に参加できるようにする必要があり、国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう慎重にデザインした上で、武器輸出禁輸政策を見直すことが必要である。 
 第3節 社会的基盤=防衛施設の存在は、地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組む必要がある。地域住民にとって目に見える負担軽減策として、防衛施設の日米共同使用化に取り組むべきである。 
 
第4章 安全保障戦略を支える基盤の整備 
 第1節 内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備=防衛大綱のような重要な政府の方針は継続的な見直し作業を必要とする。今回も採用された懇談会方式はやめ、内閣官房のような組織に有識者会議を常設し、対話を行いながら継続的に作業するのも一案である。 
 第2節 国内外の統合的な協力体制の基盤整備=日米安保体制をより一層円滑に機能させていくために改善すべき点には、自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈とのかかわりのある問題も含まれる。例えば、日本防衛事態に至る前の段階での米艦防護の問題や、米国領土に向かう弾道ミサイル防衛の迎撃の問題は、いずれも従来の憲法解釈では認められていない。日本として何をなすべきかを考える政府の政治的意思が重要であり、自衛権に関する解釈の再検討はその上でなされるべきものである。国際平和協力活動は多機能型へ進化しつつあり、冷戦終結直後に考え出された日本の国際平和協力の実施体制は時代の流れに適応できていない部分がある。PKО参加5原則の修正について積極的に検討すべきである。自衛隊の任務として、他国要員の警護や他国部隊への後方支援を認めるべきであり、これらは憲法の禁ずる武力行使の問題とは無関係であり、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある。国際平和協力活動に関する基本法的な恒久法を持 
つことが極めて重要である。 
 第3節 知的基盤の充実・強化=首相は危機対応時を含め、安全保障にかかわる政府の考えや施策をタイムリーかつ明確に発言しなければならず、対外発信の補佐体制の強化が必要である。 
 
 
 [新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会メンバー] 
委員 佐藤茂雄・京阪電鉄最高経営責任者=座長▽白石隆・日本貿易振興機構アジア経済研究所長=座長代理▽岩間陽子・政策研究大学院教授▽添谷芳秀・慶大教授▽中西寛・京大大学院教授▽広瀬崇子・専修大教授▽松田康博・東大准教授▽山本正・日本国際交流センター理事長 
専門委員 伊藤康成・三井住友海上火災顧問(元防衛事務次官)▽加藤良三・プロ野球コミッショナー(前駐米大使)▽斉藤隆・日立製作所特別顧問(前防衛相統合幕僚長) 


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