2010年09月16日00時11分掲載  無料記事
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橋本勝の21世紀風刺絵日記

162回 戦争と性をえぐって衝撃的!!映画『キャタピラー』は必見である

  戦場から両手両足を失った無惨な体で妻のシゲ子のもとへ帰ってきた夫の久蔵、その妻と夫の異常な生活を描いた若松孝二監督の最新作が『キャタピラー』だ。戦争で障害者となった夫に献身的に尽くす妻の感動的な愛の話を期待すると裏切られるだろう。 
 
  映画のタイトルは、戦車のキャタピラーというだけではなく、芋虫(キャタピラー)という意味もある。『芋虫』といえば昭和4年に発表された江戸川乱歩の戦場で両手両足を失った男とその妻の生活を描いた小説がある。そして同じく戦争で両手両足をなくした若者を描いた『ジョニーは戦場へ行った』(ドルトン・トランボ監督)がある。若松監督もこの2作からヒントを得たと言っている。だが映画『キャタピラー』は独自の視点で戦争、人間、というものを鋭く、容赦なく抉り出し、妻のシゲ子を演じる寺島しのぶの感性豊かな熱演もあり素晴らしい映画となっている。 
 
  戦争における性の問題は国家が何よりも隠しておきたいもの。中国で戦った元日本兵の多くも戦場での強姦については口を噤んでいる。また教科書の「従軍慰安婦」の記述について神経をとんがらすのもその為であろう。 
  久蔵は日中戦争の戦場で、女を犯しまくり、殺しまくってきた、そんな彼の「武勲」を新聞は書きたて、国は彼に勲章を与え「軍神」にまつりあげる。額の中の天皇夫妻のご真影写真、それに久蔵を賞賛する新聞記事、勲章が飾られた壁の下での、久蔵とシゲ子の性の営みのシーンはそれ自体が痛烈な諷刺画になっている。 
 
  映画は二人だけの密室劇という感じなのだが、時おり描かれる村の光景と、村人たちの姿が大変効果的である。戦時の日本人たちの行動と心のあり方が、シゲ子の視点を通して見えてくることで映画は、戦争を遂行した国家と、それに引っ張られると同時に率先して協力した日本人というものをあぶり出して行くのである。 
 中でも、シゲ子が渋る久蔵に軍服を着せ、勲章で飾り立てた姿で、リヤカーに乗せ、村を連れまわすシーンがケッサクである。村人の好奇と畏敬の入り混ざった視線。そして「軍神」である夫を誇りつつも、食欲と性欲のかたまりの生きもの(芋虫)でしかなくなった夫を人びとの前にさらすことで、戦争を美化しようとする国家への、嫌味をぶつけているように思えるシーンである。 
 また性において受身でしかなかったシゲ子が逆に久蔵に襲いかかる姿勢をみせた時、彼は一時的に不能の状態になる、自らが襲われる側になることで、自分が強姦した女性に自らが重なり、それが自分の犯した罪の重さを実感せずにはいられなくなったのであろう。 
 
  そして戦争の終わった日、久蔵はおのれの罪を断罪するかのように自らの命を絶つのである。 


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