2010年09月29日17時16分掲載  無料記事
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検証・メディア

英紙調査報道担当記者に聞く  「私たちに力がないわけではない」

 英ガーディアン紙の調査報道記者デービッド・リー氏に、調査報道の現場について引き続き、聞いてみた。真実を明るみに出すには、非合法な手段を使うこともよしとするのかどうか?調査報道を引き継ぐための後輩の育成はどうやっているのだろうか?(ロンドン=小林恭子) 
 
―若い記者に調査報道を教えることは社内で行われていますか? 
 
デービッド・リー記者:私は今シティー・ユニバーシティーで教えています。取材の教授です。コースの一環として、ここで調査報道を教えています。それと、何人かの学生に対して、ガーディアンが奨学金などを出すことで支援しています。ガーディアンで働く経験をつむ人もいます。 
 
―調査報道をやるときの倫理について、どう考えていますか?例えば、リー記者が、同僚のニック・デービス記者と一緒にやっている、調査報道に関する公開講座を聞きに行きました。デービス記者は、調査報道の奥の手として、情報源を守るために、取材をした人物の名前ばかりか性別も変える、居住地も変える話をしていました。デービス記者は、非常に珍しいケースであると説明してていましたが。また、ジャーナリスト志望の女子学生が、官邸に雇用され、秘密を新聞にリークする事件がありました。この学生をある大手紙がその後雇いましたージャーナリストとして、見込みがあると思ったのでしょう。これについてどう思われますか?私は倫理面から、おかしいと思ったのですが。それは、‘票圓縫Ε修鬚い辰討呂い韻覆い隼廚Δ里函↓▲蝓璽するために官邸に勤務した学生は官邸の信頼を裏切っており、次に雇用された大手紙でも同様のことをしないとは限らないと思うからですが。 
 
 名前と地名の変化を読者に言わない、あるいはリークをした人を雇う、これはあなたの見方に賛成です。事実は聖なるもので、読者に嘘は言ってはいけないと私も思います。女子学生の話も、倫理的におかしい。この女性はどうしてもジャーナリストになりたかったのでしょう。それで、これが最後のチャンスだと思って行動したのでしょう。確かに、スクープになりました。それでも、私は彼女の行為には賛同しません。新聞は彼女を雇用するべきではなかったのです。私だったら雇わないでしょう。 
 
─真実を報道するためには、時には非合法すれすれの手段(「ダークアーツ」)をとることも可としますか? 
 
 そういうこともありうるでしょう。公開講座の後で、ジャーナリズムと法について考えていました。しばしば、私たちはボーダーラインにいます。真実が隠されており、合法な世界にいるだけでは、何も探し当てることはできないことがあります。非常にしばしば、いわゆる「ダークアーツ」を使わざるを得ない状況にいるのですー倫理的にあやしい手段を。 
 
 しかし、そういうときのために、ジャーナリストは道徳上のコンパスをもっていなければなりません。いま自分がやっているのは公益のためかどうかを判断するコンパスです。「公益のためか?」と自問して、答えがイエスだったら、継続してやるべきです。例えばごみ箱をあさったり、他の人が持っている書類を非合法でも入手するなどの方法です。 
 
 問題は、 多くの英国のジャーナリストが、「公益かどうか」を自問しない点です。「これで新聞が売れるかどうか?」を自問してしまうのです。 
 
―大多数のジャーナリストがそうなのでしょうか? 
 
 おそらく、大衆紙はそうです。サンデー・タイムズもそうかもしれません。 
 
―サンデー・タイムズは「高級紙」(クオリティー・ペーパー)ですよね? 
 
 思っているほど高級ではないかもしれませんよ。汚い手を使うこともあるでしょう。あまり公益の意味が分かっていないのではと思います。時として、センセーショナリズムに走っていますーほとんどの倫理的懸念なしに、新聞を売ろうとしています。(米メディア大手ニューズ社の会長ルパート・)マードックの新聞で働く人はすべて、非常に堕落した組織に働いているので、その人自身も堕落してしまうと、私は見ています。(注:サンデー・タイムズはニューズ社傘下。) 
 
―裁判費用が巨大化しています。この結果、調査報道は難しくなったと思いますか? 
 
 調査報道はいつも難しかったのです。最大に難しい点は、大きな裁判費用です。英国の司法体制は、弁護士の利益になるように作られているように見えます。弁護士が大きな費用を請求します。 
 
 かなり大きな組織でも、大企業といつも戦うわけにはいきません。何らかの改革が必要です。名誉棄損に関わる裁判を簡素化し、もっと安くできるようにするべきです。もっと重要なのは、裁判費用全体をもっと安くすることです。 
 
―あなたや数人の調査報道をするジャーナリストがいなくなったら、調査報道はどうなりますか? 
 
 それよりも、メディアの構造に大きな変化が起きています。印刷メディア自体が大きな危険に瀕しているのです。消えてなくなってしまうかもしれないーこれが私の懸念です。 
 
  ガーディアンは継続するお金をまだ持っていますし、調査報道はここでは優先事項だです。しかし、これ以上財政状況が悪化すれば、どうなるだろう?先は誰にも分からないのです。 
 
  刻々と変化するメディア環境の中で、誰もネットで流れているようなニュースが載っている新聞は買わないだろう、と編集長は考えています。新聞には特別なものがないといけないのです。長い、挑戦する捜査報道、ガーディアンでなければ得られない報道がないと、と思っています。 
 
―ネットは敵ですか? 
 
  おカネの面で言えば、敵です。印刷メディアのビジネスモデルを崩しているのです。非常に恐ろしい問題だと思っています。 
 
―実は、今手にしているガーディアンは、今朝、自分で買ったものです。 
 
 どうもありがとう!本当にありがとう!これで家賃が払えます。 
 
―日本のメディアへのアドバイスと、ジャーナリストの要件についてお聞かせください。 
 
 ジャーナリストの民主主義社会での重要な役割は、現実の検証です。どんな社会も嘘や隠し事があっては長続きできません。独裁政権の特徴はすべてに対して常に嘘を言うことです。最後には独裁者は倒れます、現実と公式の現実とのギャップが大きすぎるからです。 
 
 優れたジャーナリストたちが、社会の真実、つまり、何が起きていて、何が起きていないのか、何が良くて何が悪いのかを継続して出してゆけば、民主主義社会での自己矯正のメカニズムを作り出すことができます。人々が何が問題かが分かって、これを直すことができます。民主主義社会では、活発なメディアが重要な役目を果たすのですー同時に、新聞を売ろうとしているわけですが。 
 
 真実の情報を出すニュース媒体が必要です。調査報道がなければ、すべての情報が汚染されてしまいます。企業の広報や政治家のメッセージ、商業的なメッセージは嘘なのです。 
 
 広報や政治家の嘘のメッセージに挑戦するジャーナリズムは、民主主義社会が機能するためには必須なのですー多分。これが、私が、自分がやることを社会的に正当化するときの説明なのですがー。 
 
―しかし、いくらやっても巨大権力の嘘は続くという状態にがっかりしないのでしょうか。 
 
 時には非常に疲れて、暗い気持ちになります。悲観的になります。これだけたくさんのことをやっても、どれほどの違いがあるのだろう?違いなんかありはしない、と。 
 
 しかし、実際はそうではないのです。政治家や大企業はメディアのことを少し恐れているのです。政治家や大企業をやや違った風に行動させることは可能です。 私たちに力がないわけではないのです。(終) 
 
(朝日新聞「Journalism」取材用インタビューに補足) 


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