2010年11月11日16時49分掲載  無料記事
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欧州

警察にも「法の前の平等」求め追悼集会 05年の仏移民暴動発火点の町で

  その日は朝から曇天だった。5年前の郊外青年暴動で亡くなった2人の移民少年を偲ぶ5回忌追悼集会がパリ北近郊のクリシー・スー・ボワの町であった。家族側のミニャー弁護士は、「少年たちを死に追い込んだ警察の裁判が近く決まった裏には政治的な事情がある」と少し笑いながらも、死亡事件が今やっと裁判にかけられようとしていることを歓迎した。集まった300人ほどの市民は口々に「警察も法の前で平等に裁判を受けるべきだ」と主張した。(パリ=飛田正夫) 
 
 2005年、フランス全国に燎原の火のごとく広がった暴動では、3週間で1万台以上の車が焼かれ公共施設が破壊された。この町で10月27日、3人の少年が警察に追われて変電所に逃げ込み、ブゥナ・トラオレ君(15歳)とジィエド・ベナ君(17歳)の2人が感電死したことへの抗議が暴動の発火点となった。政府は非常事態を発令し、アルジェリア動乱以来の戒厳令を1ヵ月間敷いた。 
 
 クリシー・スー・ボワの町はいまでも田園風景の残る、都会の喧騒から取り残されたような町だ。 
 
 2人が亡くなった事件の調査は2007年3月になってから開始されたが、09年12月には停止されてしまった。今年9月8日、担当検事はブゥナ君らを変電所に追い込んだとみられる2人の警察官を不起訴とするように要請していた。 
 
 しかし、予審判事は少年たちの5回忌を目前にした10月22日、2人の警察は「危険な変電所へ入った少年たちを救助する義務(救助義務)を怠った」として軽罪裁判所で裁く決定を宣言した。 
 
 少年たちの家族やクリシー・スー・ボワの住民たちはこの決定を、「これでやっと裁判で事件が裁かれる」と歓迎しながらも、「5年もたって遅すぎる」と怒りを隠さない。 
 
 追悼集会に集まった青年たちは私(飛田)に、「警察が被害にあうと裁判は直ぐに行われるのに、郊外の子供が死亡したら何年でも放置される」「五年は長い、すごく長かった。その間に多くのことがあった」と語った。郊外移民の子弟たちはしばしば悪いイメージで見られがちだが、「警察もみんなと同じく平等に裁かれるべきだ」と彼らは民主主義を叫んでいる。 
 
 追悼集会の始まる前に家族側の弁護士の一人であるジャン・ピエール・ミニャー氏に、「どうして今になって裁判になったのか?」と私(飛田)が質問した。同弁護士は、「裏に政治的な采配が隠れている」と顔を少しほころばせながら、現在のサルコジ大統領が直面する政治的不安定との関係を指摘する。 
 
 「少年たちは変電所の裏手にある墓地側から中に入ったが、そこに到る手前で左側に抜けられる道を警官が塞いでいた」といって、弁護士は私のノートの地図に「ここだ」と鉛筆で強く印をつけた。 
 
 警察に追跡されていた少年たちは変電所へ入るより仕方が無かったのであろうか。 
 
 ミニャー弁護士はマイクを前にして、「検事は真実をいわない。どうして死んだのかを話さない。だれがその時に嘘をついたのか。当時の内務大臣で今の大統領が嘘をいったのか、いわなかったのかを問う」と話した。ここで聴衆は静まりかえった。参加していたブゥナ君の兄ジィエド・アデル氏はマイクで話す弁護士の後方にいたが、そのとき顔に両手をやってよろよろと倒れた。 
 
 弁護士は、「検事は裁判が怖いのだ。責任逃れをしている。時間稼ぎをしてきたのは裁判システムのせいではなくて政治的な理由による」と批判し、「独立した裁判官を要求することを市民と、特にジャーナリストに訴えたい」と集まったジャーナリストに視線を向けた。 
 
 「法の前の平等を要求」すべく、「なにもしてないブゥナ君とジィエド君に対し救助義務を怠って死に追いやった警察を追求する戦いを続ける」との力強い宣言に聴衆から大きな拍手起きた。 
 
 24日のルモンド紙は、「警察が少年たちを追跡していた後にフランス電力の変電所敷地内に入り込み死亡したことを、政府は長期にわたり否定していた。その後では、少年たちが悪事を働いたので追跡したと前言を翻していた」と報道している。 
 
 ベナ君の兄のジィエド・アデル氏は、フランス大手メディアのジャーナリストから「怒っているのか?」と聞かれると、「そうだ。五年間も裁判を放棄されていたから」と涙で眼を赤くして答えた。「今日は多くの人が来たが?」との質問には、「そうだ、ありがとう。証拠はある。裁判で戦う」と答えた。 


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