2010年11月29日13時34分掲載
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「四重苦」を逆手に日本版も軌道に 佐野章二著『ビッグイシューの挑戦』
ロンドンの小林恭子さんの記事「ホームレスが売るストリート・ペーパーが、世界中で部数増加」に触発されて、この本の紹介をさせていただく。本が発行されたのは6月で半年近く経っているが、多くの人に読んでほしい示唆に富む本である。たんなる挑戦物語ではなく、新雑誌立ち上げ活動を通して日本のホームレス事情の変化なども浮き彫りにされている。(マレーシア=和田等)
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ホームレスの自立支援を目的とし、路上生活者が販売する文字通りの「ストリート雑誌」として2003年9月に創刊された「ビッグイシュー日本版」。当初の月1回発行から月2回発行となり、赤字からも脱却、今でこそその存在が多くの人に知られ、軌道に乗った「ビッグイシュー」だが、生みの親である佐野章二さんが雑誌を立ち上げる前に専門家らに成功の可能性があるかどうかを尋ねてまわった結果、誰もが口をそろえて返した回答が「100%失敗する」だった。その理由を集約したのが冒頭にあげた4つ。
いわば四重苦を抱えての船出だった。都市計画プランナーの仕事を経て独立、NPO(非営利組織)法の制定に関する基礎調査をはじめ、日本各地のNPO支援センターの立ち上げ支援、阪神・淡路大震災時には3つの救援組織の立ち上げ支援などをおこなってきた佐野さんは、その「四重苦」を逆手にとって「4つの強み」に変えられないかと発想を転換。ピンチをチャンスとして生かそうと歩を踏み出す。(具体的にどのように発想を切り替えたのかは本著を読んでご確認を)
まさしく 「時代のマイナス面を、ただ嘆くのではなく踏み台にして人生に挑戦していく精神を培えるような雑誌」らしい出発点だ。
1991年に英国ロンドンで創刊され成功をおさめていた本家「ビッグイシュー」の創設者、ジョン・バードさんの全面的協力を得て創刊に向けて走り出した「ビッグイシュー日本版」だったが、予想通り、さまざまな障害に直面する。
初めての販売者説明会への出席者はわずか十数人。販売者として登録した人にいたってはたった4人という有様。路上販売の許可取得という壁。雑誌編集のプロの不在。そして資金の調達。次々とぶちあたる荒波を乗り越えながら創刊にこぎつける。
03年9月の創刊以来、2010年3月までの6年半に販売者として登録したホームレスはのべ1090人。大阪を起点に始まった販売の場所も現在では、北は札幌から南は鹿児島まで14の都道府県の路上に広がっている。路上での販売をステップに新しい仕事を見つけて卒業した人は100人を超えた。また10年3月までの雑誌の総販売数は388万冊を数え、5億748万円の収入を直接ホームレスの人たちに提供した。
その挑戦の過程を綴ったのが本書である。その過程で佐野さんは、日本のホームレス事情が変わっていくのを間近に目にする。リーマンショックによる世界経済危機による雇用崩壊に伴い、ホームレスの世界に若年化の波が押し寄せているのである。高齢化社会を歩む日本の実情とは逆の現象がホームレスの世界で発生、「おじさんホームレス」よりも若年ホームレスの方が生きることに対して後ろ向きの感情を抱くという深刻な状況が現出しているともいえる。これが克服できないようであれば、日本の未来はますます閉ざされていくと訴えるかのような悲痛な叫びが聞こえてきそうだ。
一方で本書に掲載された「ビッグイシュー」を販売するホームレスの人たちの写真には、生きる輝きが写し出されているように見え、心強さを覚えた。
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