2010年12月02日12時30分掲載  無料記事
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欧州

武器輸出国への賄賂が仏政治家に還流か カラチ仏人殺害事件で仏前首相が疑惑指摘 

  武器輸出と賄賂──。パキスタンで2002年に起きたフランス人技師11人の殺害事件をめぐり取りざたされていた両者の関係について、当時の仏大統領官邸書記総監で前首相のドビルパン氏がこのほど、事実関係を明らかにした。同氏は記者会見で、事件と賄賂の関係は否定したものの、フランスが武器輸出契約のさいに相手国関係者に賄賂を支払うことは合法とされてきたため、その一部が自国政治家に還流された疑いがあると述べた。(パリ=飛田正夫) 
 
 殺害された仏人は、パキスタンのカラチ南部で潜水艦アゴスタの建造をしていた仏造船局DCN(当時は国営)の技師で、2002年5月8日、宿泊先のホテルからパキスタン海軍の通勤バスで潜水艦組み立て現場に向かう途中、バスに横づけした日本車(カローラ)搭載のTNT爆弾が爆破した。 
 
 事件の背景についてさまざまな説が乱れ飛んだ。ひとつは、仏側が武器輸出契約にともなうパキスタンへの賄賂の支払いを停止したため、これに怒ったカラチ側が報復措置としてフランス人技師を殺害したというもの。また、国際テロ組織のアルカイダ犯行説も有力だった。 
 
 だが、いずれも決定的な証拠はなく、フランスを震撼させた事件の原因究明はなされないままになってきた。 
 
 事件が再びメディアを賑わすことになったのは、今年11月中旬、技師の遺族側から、当時のシラク大統領とドビルパン大統領官邸書記総監の責任を追及する訴えが出されたためだ。遺族側は、賄賂の支払い停止はシラク大統領の決定によるもので、これによってフランス人技師らへの報復が予測できたにもかかわらず適切な措置を講じなかった、と主張した。 
 
 訴え受けたドビルパン氏は、「遺族の訴えは非常に重要なことなので、真実を判事に話したい」と言明。同25日、判事への開示・説明を終えた直後の記者会見で、「賄賂(コミッション)とテロとの関係は無い」と述べた。同時に、「フランス側へ還流する違法の差し戻し賄賂(レトロコミッション)に関しては、それが1995年の大統領選挙資金に運用された疑いが強い」との確信を表明した。 
 
 ドビルパン氏の説明やメディアの報道などを総合すると、賄賂(コミッション)には二種類が想定されている。フランス政府は当時、外国に軍備設備を売り込む場合に前もって売り込み先に賄賂を渡し、受注獲得を有利にすることを慣行としていて、これは法律的に合法的な行為とされていた。 
 
 しかし、たとえばフランス側がカラチとの取引で仲介者(2人のリビア人)に対して渡した賄賂がカラチ側には全額渡されずに、一部がフランス側取引関係者へ逆流させる場合もある。この賄賂差し戻しはフランス国民の税金の横領と見なされ、違法行為とされる。 
 
 コミッション額はパキスタン政府関係者(政府、軍人など取引で利益を合法的に得る者)には契約金の10.25%にあたる約8千万ユーロ(約104億円)がコミッションとして渡され、フランス側へのレトロ・コミッションはその4%(約34億円)が流れたと見られている。問題は、フランスの誰に還流されたかである。 
 
 シラク大統領は、政敵バラデュー元仏首相の大統領選挙資金準備につぎ込まれるのを警戒してレトロコミッション(非合法)を停止したと見られている。 
 
 2002年の大統領選挙予選でバラデューは落ちて決戦投票では、シラク氏とジャン・マリー・ル ペン(フランスの極右系政党、国民戦線FN)総裁との対決となり、5月6日にシラク大統領が再度当選した。カラチの事件はその直後の5月8日に起こった。 
 
 ドビルパン前首相の記者会見の直後に、遺族側は同氏らへの告訴は取り消したいと発表した。 
 
 経済協力開発機構(OECD)は2000年にコミッションを禁じたが、バラデュー元仏首相はフランス国営放送テレビのインタビューで、「わたしの知る所では完全に合法的に行われていた」と語っていた。一方、サルコジ大統領は11月19日の記者会見で、「(この問題について)要求があればすべての国家機密の開示をする」と述べた。 


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