2010年12月03日17時40分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201012031740435

検証・メディア

ウィキリークス −米ニューヨーク・タイムズとのしこりで新たな「一片」

 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は11月末から公開されている米外交公電の元データを、告発サイト「ウィキリークス」から直接受け取っていないのではないかー?「公表前には受け取っていなかった」「直接は受け取っていなかった」−そんなコメント(前回のウィキリークスに関する記事を参照のこと)が、どうも気になった。だとしたら、リークを行ったとされる米兵に、どことなく厳しいようであることの説明がつくからだった。(ロンドン=小林恭子) 
 
 ロンドンの2日朝の時点までに、すでに日本語でも同様の点(NYTが直接受け取っていない)を指摘した報道がいくつか出ていた。 
 
ウィキリークス情報で“暗闘”する米メディア 
http://sankei.jp.msn.com/world/america/101202/amr1012021833012-n1.htm 
 
 「ニューヨーク・タイムズ紙側は、以前からウィキリークスの機密文書公開に際し協力関係にあった英紙ガーディアンから、公電を入手し掲載に踏み切った。」 
 
 また米ワシントン・ポスト紙にも、11月29日で同様の主旨の記事が出ていた。 
WikiLeaks spurned New York Times, but Guardian leaked State Department cables 
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/11/29/AR2010112905421.html 
 
 なぜ、ウィキリークスは、NYTに直接データを渡さなかったのだろう? 
 
 産経が聞いたところによれば、 
 
 「ワシントン・ポスト紙によると、ウィキリークスが今回、ニューヨーク・タイムズに情報を事前に提供しなかったのは、同紙が10月、ウィキリークスの創始者で編集長のジュリアン・アサンジ氏に批判的な記事を掲載したためとみられ、ウィキリークス側の“報復”との観測もある。」(小林注:この中で、「事前に提供しなかった」とあるが、その意味は「ウィキリークスが」であって、ガーディアンが公表時のはるか前にNYTに情報をあげていたことになる。) 
 
 ワシントン・ポストの記事のほうには、NYTのビル・ケラー編集長の話が出ている。編集長は、なぜ今回(イラクやアフガニスタンに関わるリークのときは協力した)ウィキリークスが、NYTに情報を直接渡さなかったかを聞くと、「はっきりしない」と答えている。 
 
 しかし、ケラー編集長が推測では、産経が書いたように、NYTが10月に出した、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏のプロフィール記事がアサンジ氏にとって厳しい内容であったためでないか、と述べている。 
 
 NYTはまた、8月、マニング兵(リークの本人とされる)に関しても、厳しい記事を出したという。マニング氏を「自称ドラッグ・クイーン」と関係を持っていたことや、10代の頃、同級生がマニング氏のことを「おタクで・・・同性愛者」として馬鹿にした、と書いたという。 
 
 やっぱりなあ、と私は思った。ここでまた、ジグソー・パズルの新しい一片が見つかったような気がした。 
 
 別に、ドラッグ・クイーンと関係を持ったこと、おタクで、かつ同性愛者であるとして馬鹿にされたことが嘘・フィクションだと言っているのではない。また、こうした言葉遣いそのものが「ひどすぎる」と思っているわけではない。また、アサンジ氏のプロフィール記事は良いことばかりを書けばいい、と思っているわけでもない。 
 
 しかし、言葉や表現の選択で、書き手の思いはにじみ出てくるものだ。 
 
 今回に限り、直接記事を渡さなかった理由が、NYT編集長やワシントン・ポストが言うように、「厳しい記事が出たから」なのかどうかは、分からない。 
 
 ただ、「新たなジグソー・パズルの一片」が見つかったと思った、というのは、ウィキリークスとNYTとの間にしこりが「あるらしい」ことが推測できたためだ。前回、前々回と私が書いてきた、NYTのウィキリークスへの厳しい目・表現説が確認できた感じがしたのである。 
 
 私が現在見たところでは、NYTには、ウィキリークスや関係者(アサンジ氏、マニング氏)に対する見方・表現の仕方に、「より体制寄り」の姿勢があって・あるいは出てきており(つまり、ウィキリークスや関係者を当局の視点から見る、つまり、違法な行為をした人たち、という意識で見る)感じがする。 
 
 ワシントン・ポストと産経の記事によれば、ウォールストリート・ジャーナル、CNNに対し、ウィキリークスは一部の情報を事前提供する代わりに、報道解禁の期日を守ることを条件とした。もしこの条件が守られないと10万ドルの罰金を払うことを要求したとう。ウォール・ストリートジャーナルもCNNも、申し出を却下した。 
 
 ワシントン・ポストはガーディアンにコンタクトを取り、事前に情報を共有させて欲しいといったが、拒否されたという。2つの記事を見る限りでは、紹介されたどの米メディアもウィキリークスの振る舞いに怒りあるいは割り切れないものを感じているようだ。 
 
 2日昼、事の次第を確かめるため、ガーディアンの調査報道記者デービッド・リー記者に聞いてみた。が「匿名の人物から外交公電情報を得た」とサイト上でことの経緯を説明したとき、「極秘人物」とはガーディアンなのかどうか、その他、ワシントン・ポストの11月29日付記事の真偽は? 
 
 リー記者によれば、「残念だが、ワシントン・ポストのこの記事に関しては、全くコメントできない」。 
 
 「全くコメントできない」といわれたら、その記事の内容がほぼ当たっている可能性が高いと私は解釈した。不正確なものであったら否定しているはずである。(あるいはまた、多くの人にワシントン・ポストが書いた記事の内容を信じ込ませたい、あるいはほかに真実があるが、それを明るみに出したくないと思っている、という解釈もあるだろう。) 
 
 ワシントンポストなどの報道で事情がばれていても、NYTは「ガーディアンからもらった」とはサイト上に書かず、ガーディアンは「5つの媒体が事前に(ウィキリークスから)情報を得た」と説明してきた。これまでとは違って、ウィキリークスから直接NYTは情報を提供されなかったことを、ガーディアンの側からは公表したくないのだろう。 
 
 リー記者を含めガーディアンは調査報道に非常に慣れているので、真実を明るみに出すにはさまざまな手を使う。他の事件(大衆紙の電話盗聴事件が最近の例)でもNYTとガーディアンは協力体制にあるし、ある意味ではNYTに恩を売って、さらに何かを暴こうとしているのかもしれない。調査報道はガーディアンの最大のブランド・バリューの1つなのである。 
 
 ウィキリークスによる米国関連の秘密書類暴露で、米国メディアが過度に右傾的・愛国的報道に陥らないかどうかー?しばらくウォッチングを続けたいと思っている。(「英国メディア・ウォッチ」より) 
 
**ご参考:「英国メディア・ウォッチ」ブログの最近のコメントの中にnofrillsさんからの以下の情報があります。ご関心のある方はご覧ください。 
 
Commented by nofrills at 2010-12-01 23:23 x 
「ガーディアンを通じてNYTに情報が渡った・・・という話」: 
http://bit.ly/gbMK9y (11月28日付、米Yahoo NewsのThe Cutlineというコーナーが、ガーディアンのデイヴィッド・リー記者に取材) 
 
「ウィキリークス(WL)とニューヨークタイムズの関係が、何らかの意味でこじれている」: 
http://www.thedailybeast.com/beltway-beast/julian-assange-vs-the-new-york-times/ 
http://www.salon.com/news/opinion/glenn_greenwald/2010/10/27/burns/index.html 
……などなど、うんざりするほどたくさんのゴシップのような記事があると思います。 
 
 あと、ガーディアンは編集長が直接読者の質問を受け付けています。質問の数が多く、一度に回答できる量ではないので、少しずつ回答して今3日目かな。URLが長いので短縮しましたが、下記です。 
http://url.ie/8c4x 
 
Commented by nofrills at 2010-12-01 23:24 x 
 
 NYTは、自力で入手することができなかったファイルをガーディアンから受け取って、その内容を事前に米国政府側に伝えていました。そのことだけでも、報道機関が保つべきスタンスを逸脱しているとして非難され、例えば消費者からはボイコットされても当然だと思います。 
 
[quote] 
NYT briefed the Whitehouse on Monday over Embassy Files: Now we see every tinpot dictator in the world briefed prior to release. 
http://twitter.com/wikileaks/status/7945714118172672 


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