2010年12月22日13時28分掲載  無料記事
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アジア

【イサーンの村から】(12)  村の子どもたちはすごい  森本薫子

  週末になると親戚の女の子二人が毎週のように遊びにくる。小学5年生と4年生のミーちゃんとムーちゃんだ。朝食後から来て(時には朝6時半くらいから来る・・)、うちでずっと過ごし夕食を一緒に食べてから家に帰る。連休や長期休みは毎日のようにうちに遊びに来て、二人で泊まっていくこともしょっちゅう。1歳の息子の相手をしてくれるのでこちらもとても助かる。その上、掃除も手伝ってくれる(それもかなり上手に!)。 
 
◆赤ん坊の世話はお手にもの 
 
  この二人の目当ては料理とお菓子作り。日本式の掃除のやり方も楽しんでやってくれるが、私も含め3人で騒ぎながらする料理やお菓子作りが何よりも楽しいようだ。二人に子守りと掃除を手伝ってもらう代わりに、クッキー、ケーキ、プリンと様々なお菓子を一緒に作る。 
 
  掃除も料理も赤ん坊の世話も、上手にこなす二人。イサーンの子供達は誰でも小さい子の世話がうまい。常に周りの小さい子と接しているからだ。この二人もミルクを作るのもおむつを取り替えるのも、泣いているのをあやすのも、とても上手だ。時には寝かしつけもしてくれる!赤ちゃんの抱き方だって、ちょっと腰に抱える抱き方など、まるでベテラン母さんのようだ。 
 
  一昔前は、イサーンの子供は小さい頃から大人たちの手伝いをしていたので、子供の頃から田植え、稲刈りを始め、様々なことができた。最近は、何でも子供の言うことをかなえ甘やかして育てる親が多いので、そのように扱われている子供を「ルーク・テワダー(神様の子)」と皮肉って呼んだりする。都会であれば、「子供には手伝いなどは何もさせずに大事に育てる」という親が本当に増えている。 
 
  とはいってもイサーンでは、子供ができることに驚き感心することが常だ。先日は、日本人6人のツアーがうちの農園に5日間滞在して、農作業やイサーンの食事作りを体験したのだが、ほとんど魚をさばいた経験がある人がいなくて、ミーちゃんムーちゃんがさばき方を教えていた。まず包丁を研ぐと、うろこをとって、お腹を切って、内臓を出して・・ とても手際がいい。小学校中学年にもなれば、子供だって魚くらいさばける。包丁を使い始めるのはもっと小さいときから。幼稚園生だって、上手に果物を切ったりするのだ。日本だったらこんな小さい子に包丁をもたせて魚をさばかせることはないだろう。 
 
  私がまだタイに来て間もない頃、タイの定番料理、パパイヤ・サラダを作るためにパパイヤの千切りを作っていた。日本のように、まな板の上で薄く切ってから千切りに切るのではなく、皮をむいたまだ丸い形のパパイヤに包丁で細い線をたくさん入れて、それをそぎ落とすという方法だ。慣れていないとこれが結構難しい。私が不器用にやっていると、幼稚園児に「ヘタだね・・。こうやるんだよ。」と言われたことがあった・・。 
  「日本人だから、こういうやり方やったことないの!」と言い訳しながら、その子がやってくれるのを見ていた。もちろん大人のようにうまくはできないけれど、手つきは様になっている。どんな道具も小さい頃から使わせると上達するんだなぁと感心した。 
 
◆生活する力 
 
  インターンとしてタイに来た1年目、少しは役に立てるだろうという自信がみるみるうちにくずれて、自分の無力さを思い知らされたことがよくあった。「○○の葉っぱを採ってきて!」と言われても、その葉がどれなのかわからず、ちょっとした道具も使いこなせず、専用の道具がない時、他のもので代用する瞬時の知恵は村人には全くかなわず・・ 子供以下の能力の自分に情けなさでいっぱいになった。 
  他のインターンも口をそろえて同じことを言っていた。知識は後から増やせても、手のワザや、知恵というのは、大人になってからではなかなか発達させられるものではないものだな、と痛感することばかりであった。でも、この「タイの農民、すごい・・っ!」という気持ちがなかったら、とても傲慢なNGOスタッフになっていたかもと、今では貴重な体験なのだけれど。 
 
  さて、この元気なミーちゃん、ムーちゃんの家の事情は結構複雑だったりする。ひとりっ子ミーちゃんの両親は離婚していて、普段は祖父母と叔父さん一家と一緒に住んでいる。洗濯機はない家なので、自分の洗濯物はいつも自分で手洗いしている。お母さんは近くに住んでいるけれど、事情があって時々しか会うことができない。両親などの出稼ぎなどの理由で、祖父母が孫を預かるケースはイサーンでは珍しくない。 
 
  一方、ムーちゃんは、祖父母、両親、弟と一緒に住んでいる大家族。でもこの家の家計はかなり厳しい。タイの義務教育は中学3年までなのだが、この間ムーちゃんが言っていた。「おじいちゃんもお父さんも、小学校6年まで出れば十分だから、卒業したら働けって」と悲しそうに。どこまで本気で言ったのかはわからないが、ムーちゃんの家の経済状況を考えるとそれもありえる話だ。中学校へ行くには送り迎えのガソリン代、またはスクールバスの費用もかかるから、との理由もあるらしい。 
 
  イサーンでは、今の30代でも家庭の事情で小学校6年までしか出ていない人は多い。その人たちが親になって、自分の子供もそれで十分と考える人がいるのもまだいる時代なのだ。私はムーちゃんに「でも、中3までは卒業しないといけない決まりになってるから・・」とは言ったけれど、だからといって、中学に行かせなくても保護者が罪に問われるようなことにはならないんだろうな・・と心の中で思っていた。 
 
  田舎の学校のレベルはどうなのか・・という話は置いておくにしても、今の時代、小学校卒では将来生きていくのは楽ではないだろう。高い教育は受けても、手にワザも知恵も、生きる力もない子の人生と、子供の頃から生活に必要なことは何でもできるけれど、学校で教育を受ける機会がない子の人生。どちらがいいとは選べない。 
 
  たまたまこの村の中学・高校は、うちの農園から300メートル先にある。ムーちゃんが中学生になったら、うちに住んでここから学校へ通へば、ひとまずスクールバス費用の心配はなくなるな・・とぼんやりと考えた。 


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