2011年01月22日08時05分掲載  無料記事
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検証・メディア

携帯電話盗聴疑惑で、英官邸報道局長が辞任

 マードック傘下の英大衆紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」と電話盗聴疑惑に関して、これまで3回に渡って書いてきたが、21日、この新聞の元編集長で、英官邸の報道局長だったアンディ・コールソン氏が、辞任を発表した。(ロンドン=小林恭子) 
 
 同氏がニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の編集長時代、王室報道担当記者が王室職員の携帯電話の留守電メッセージを盗聴し、2007年、有罪・禁固刑となった事件があった。実際の盗聴を行った探偵も有罪・禁固刑になった。 
 
 こうした取材行為を「全く関知していなかった」と述べるコールソン氏であったが、責任を取るために編集長を辞任している。その数ヵ月後には、当時野党だった保守党の広報責任者となった。この5月、保守党と自由民主党による連立政権が発足すると、同氏は報道局長(広報統括者、ディレクター・オブ・コミュニケーションズ)となった。 
 
 しかし、ガーディアン紙や米ニューヨーク・タイムズによるその後の取材で、実はほかの記者も盗聴行為を行っていた疑いが出てきた。また、ほかにも、多くの著名人や政治家などの携帯電話の留守電メッセージも盗聴されていた可能性が出てきた。自分の電話が盗聴されたのではないかと疑念を持った著名人たちが、次々とニューズ・オブ・ザ・ワールド紙の発行元ニューズ・インターナショナルを訴える動きが出てきて、今年になって、かつてコールソン氏の腹心として働いた、ニュース・デスクのある男性が、停職状態になっている。この男性は、探偵から盗聴記録をもらった人物の一人と言われている。 
 
 報道を担当する自分に注目が集まりすぎるようになり、コールソン氏はとうとう、辞任にいたった。 
 
 ガーディアンの政治記者、マイケル・ホワイト氏は、コールソン氏が辞めたからといって、英政界が大衆紙に勤務していた人物を広報担当者として雇用するという流れは、変わらないだろうと書く(1月21日付、ウェブサイト)。 
 
 発行部数から言えば、英国の新聞市場で圧倒的な割合を占めるのは、タイムズやガーディアンなどの高級紙ではなく、ゴシップ記事が満載の大衆紙。選挙に勝ちたいと思えば、「大衆紙の見出しがどんな風になるか」を頭に入れて、広報を統括する人物が必要となるからだ。大衆紙と仲良くしておくことは、政治家にとっては重要なのだ。 
 
 かつてニューズ・オブ・ザワールド紙でコールソン氏の元で働いていた、ポール・マクマラン氏は、民放チャンネル4の番組に出演し、コールソン氏が「盗聴に関わったのは、禁固刑となった記者一人のみ」とする主張をし続けていることに失望感を見せた。マクマラン氏は、ニューズ・オブ・ザ・ワールド紙で留守電メッセージの盗聴に自分が関わり、「他の多くの記者もやっていた」と公言してきた。 
 
 「ジャーナリストは、常に『もう一歩先の』手段を使って取材する必要に迫られる」「権力者の不正を正す報道をするとき、あえて盗聴という行為をしなければならないこともある」。 
 
 コールソン氏には、「部下の記者たちがこうした取材方法に手を染めていたことをしっかりと認め、ジャーナリズムの一環として必要であったと、堂々と言って欲しかった」。 
 
 同氏が「何も知らなかった」というのは、「馬鹿げている」とマクマラン氏は述べた。 
 
―「真実を言っているのかどうか?」が問題 
 
 チャンネル4は、同日、この事件を追ってきたガーディアンの編集長アラン・ラスブリジャー氏をスタジオに呼んだ。「なぜ、大衆紙の盗聴疑惑をここまで追求する必要があるのか」と司会が聞いた。 
 
 ラスブリジャー氏は、コールソン氏はまず、「官邸の中枢にいた」「官邸の中枢にいる人物が嘘を言っているのかどうかを知るのは、公益だ」。 
 
 また、「果たしてロンドン警視庁はこの件を十分に捜査したのだろうかー私はそうは思わない」。 
 
 そして、発行元のニューズ社は英国でも非常に大きなメディア組織であり、官邸の中心にいた人物、警視庁、巨大なメディア組織が「嘘を言っているのか、真実を言っているのかを問うことは重要だと思う」と述べた。 
 
 ガーディアンのこうした見方は、新聞業界内で必ずしも共有されているわけではない。コールソン氏がニューズ・オブ・ザ・ワールドを辞任した時点で、「みそぎが済んだ」と考える人が結構いるのだ。私自身も、そんな声を業界関係者の口から、何度も聞いた。 
 
 盗聴疑惑を解明するため、ニューズ・インターナショナル社を訴える著名人が少しずつだが増えており〔ガーディアンの計算では5人〕、ことがこれ以上大きくなることを防ぐための「火消し」として、コールソン氏は辞任となったのかもしれない。 
 
 このままコールソン氏が消えるとは思えないので、どこかの新聞でまた編集長となるのか、あるいは事態沈静後、また官邸に戻る可能性もゼロとはいえない。 
 
 というのも、ブレア元首相の官邸報道局長だったアラステア・キャンベル氏も、「メディア操作」の悪評がたって、一時官邸から離れたが、後、実質的には官邸チームの一員となってブレア氏に協力した。 
 
 まだまだ先は分からない。先のホワイト氏が言うように、「大衆紙の読者の心がわかる」人物は、政治家にとって、非常に貴重な人材なのだ。(「英国メディア・ウオッチ」より) 


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