2011年02月26日00時12分掲載  無料記事
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社会

中国電力、上関原発埋め立て作業を強行  抵抗する祝島の人びと

  権力がごり押しし、人びとが頑張っているのは中東だけではない。瀬戸内海の山口県上関町に計画されている上関(祝島沖)原発。今月21日以降、中国電力が作業員を動員、埋め立て再開の動きを強引に開始、祝島の人びとは豊かな魚場と海の生き物の豊かさを守るために、座りこみで抵抗を続けている。「祝島島民の会blog」からその模様をお伝えする。(日刊べリタ編集部) 
 
《2月21日》 
中国電力は陸上では午前1時半すぎから社員や作業員など総勢400名規模の動員をかけ、海上では明け方よりやや早い時間から囮も混ぜた20隻以上の作業台船やその他多数の警戒船等を動かし、2009年末より中断していた上関原発建設にかかる海の埋め立て工事の再開を、数の力で強行しようとしてきました。 
 
  早朝、というより、もはや深夜からと言っていい作業の強行に対し、祝島の島民は海陸ともに14時間以上にわたって抗議を続けました。 
 
  浜をネットと多数の警備員で囲み、その中でフェンスの設置をしようとしてきました。抗議する人をこの青いネットで遮るだけでなく、囲んだりもし、もみ合いになって現場が混乱した時には押し倒して抗議させないようにしてくることもありました。 
 
  島の女性一人に対しても大勢の警備員が囲んでくるような状況のなか、島民の理解も同意もない中での工事の強行はしないで欲しい、10億円以上の漁業補償金の受け取りを拒否してでも海を守りたいという島の思いを理解して欲しい、そういう思いで抗議を続けました。 
 
  島の女性たちは作業の責任者などに対し、あなたたちも仕事だということはわかるが、どうか後ろにある祝島を見て欲しい、自分たちはそこに住んでいるし、これからもそこで豊かな海とともに生きていきたいだけなんだ、そう伝えました。そしてこの問題の責任は中国電力にあり、中国電力のやり方は人としておかしいと思わないか、そう話しました。 
 
  その肝心の中国電力の社員は作業の強行時には浜には姿も見せず、すべて作業員と警備員にやらせていました。何かあっても自分たちの責任ではない、祝島の人間は排除すればいい、理解を求める必要はない、そういった姿勢を中国電力の態度から祝島の島民は感じました。 
 
  作業を強行しようとしてきた当初、また昼過ぎに再度強行しようとしてきたときを除けばこう着状態が続きました。この日は天気もよく海もきれいで、祝島もよく見えました。 
 
  この場所だけでも150人は警備員がいて、抗議する人は埋もれて外からは見えなくなってしまいました。そもそもこれだけの大動員をしなければ工事が再開できないこと自体、地元住民の理解や同意を得ずに無理やり工事を進めようとしていることを中国電力自身が証明してしまっています。 
 
  結局21日は、海域ではおとりの台船などがまず突っ込んできて祝島の漁船がそちらに向かう隙に本当に作業する台船が移動したり、また単純に台船の数があまりにも多かったため、取水口側海域にブイの付け替えをする台船が1隻、排水溝側海域には砂や石を積んだ小型の台船7〜8隻が入ってしまいました。 
 
  その後、ブイの付け替えの台船はうねりがあるため作業はできなかったものの埋め立て工事区域にとどまり、排水溝側の小型の台船は砂や石を落としました。それをもって埋め立て工事の再開を中国電力は宣言しました。 
  その他の大型の台船はかなり強引に移動しようとしてきましたが、祝島の漁船の抗議もあって作業区域に入ることはできませんでした。 
 
  陸域では、フェンスのための枠となる鋼管が多少浜に打ち込まれましたが、わずかな範囲で、実質的な作業はほとんどされていない状況でした。騒然となってもみ合いになるようなことも場所によっては多少ありましたが、多数の警備員に囲まれながらも、緊張感はありつつ概ね落ち着いた状況が続きました。 
 
  また作業が終了したと思われた午後5時前、中国電力の現地責任者である地元事務所の副所長が出てきて、中電の敷地内からハンドマイクで、中国電力が島民の会他12名を相手に申し立てた田ノ浦海岸での妨害を禁止する仮処分と、島民の会他12名が中国電力を相手に申し立てた町道や海岸の通行の妨害を禁止する仮処分について、双方で中電の主張が認められたと発表し、社員がその内容のチラシを配りながら田ノ浦の浜からの退去を命令してきました。 
 
  島民の会としては実情を理解していない決定に対してはもちろん異議申し立てをする方針です。さらに、そもそも中国電力が申し立てたのは島民の会他12名のみで、その他の人は関係ないにもかかわらず、まるでその決定が田ノ浦にいるすべての人たちに対する決定であるかのような中国電力の態度にはますます不信を覚えます。 
 
  そして何より、中国電力がこれまでにない異様といっていいほどの大動員で工事を再開しようと強行してきたまさにその日、中国電力に有利な内容の決定が裁判所から出されたというこの状況自体に、憤りと不透明さを感じざるを得ません。 
 
《23日》 
 
  23日の夕方、中電側が作業を強行しようとした際に69歳の島の女性と(祝島島民から見れば)若い男性の2名が倒れたところに警備員にのしかかられるなどして救急車で運ばれる事態がおきてしまいました。男性は陸上から救急車で運ばれましたが、女性は緊急搬送の必要があり、予定地田ノ浦の浜から島の船で近くの港まで運ばれ、そこから救急車で搬送されました。 
 
  島の女性は20年以上にわたってびわ茶など島の特産品の生産などを通じて原発のお金に頼らない島作りなどをしている人で、町外の人たちに島の物産を届けるとともに、島の抱えている原発問題や、それに対する島民の思いも伝えるなどしてきていた人です。 
  また若い男性のほうは愛媛県から来ており、伊方原発ができた後の海を知っているため上関原発建設予定地周辺の美しい海を壊すことには以前から反対されていて、この埋め立て工事の強行を知っていても立ってもいられなくなって現地の来られた方とのことです。 
 
  怪我をした二人ですが、男性のほうは明日詳しく診療されるとのことです。 
本人の話では浜へ杭を打とうとする作業に抗議する際に警備員と揉み合いになり、倒れたときに右わき腹から腰の辺りをひざで押さえられてしまい、周囲にいた警察に「危ないから出なさい」と手を引っ張られたが抜けることができず、しばらくそのままの状態でいたとのことです。 
(なお「内臓破裂」といった情報も流れているようですが、そこまでひどい状況ではなさそうです) 
 
  島の女性のほうは、今日は入院しています。こちらも杭打ちの作業をしないよう作業員に訴えようとして、周囲を囲む警備員に遮られ、揉みくちゃにされる中で倒れてしまい、そこに警備員が数名(目撃者によって1〜3人の幅があります)が倒れこんで上にのしかかる形になったそうです。受け答えができる程度までは回復していますが、搬送中の記憶もなく、血圧が一気に下がったりしたそうです。おそらくかなり胸を圧迫されたのだろうとのことで、肉体的にも精神的にもショックは大きそうです。 
 
  いずれにせよ、祝島島民の反対は昨日今日始まったものではなく、すでに30年近く続けられてきたもので、理解も同意もない、一方的に強行される作業を認めることはできません。ましてや島の目前の予定地で工事が始められるとなれば、どのような形でも抗議をし、工事をしないでくれと訴えざるを得ません。 
  それは中国電力自身もよくわかっているはずです。それにもかかわらず、この30年もの間、理解を求める行動も説明もなく、ただひたすら強引に工事を進めようとしてきた中国電力の責任、とりわけ現在の上関原子力立地プロジェクトチームのリーダーである山下中国電力社長の責任は大きいと考えます。 
 
  同時に、祝島島民をはじめとして埋め立て免許を許可しないよう求めて出された多くの意見書を無視して、中国電力に埋め立て許可免許を出した二井山口県知事にも大きな責任があります。 
 
  けが人を出してでも工事を強行しようとすることと、それを黙認しようとしていることに対し、中電および山口県、そして地元の実情も理解しないまま国策の名の下に上関原発計画をバックアップする経済産業省にも、ぜひ抗議の声を届けてください。 
 
《25日》 
 
  今日は海の方は作業ができればしたい、といった感じとのことで、21〜23日ほど強引にしようとはしてきていないようです。 
 
  また陸域は午前中はほとんど動きがなく、午後になってから警備員らが100名以上浜に降りてきてブルーシートの上に座っている人を囲んだり、鋼管の柵が中途半端に立っている別の場所のあたりを取り囲もうとしてしてみたりしているようです。 
また中国電力の社員が町道のあたりにある祝島への応援布メッセージなどをはずそうとして、島の女性などの抗議でできずにやめたりといった状況のようです。 
 
  29年前に始まり今では1000回以上を数える祝島島内デモでいつも先頭を歩く80代の島の女性が、今、予定地海岸の浜にいるのですが、彼女によると「ありゃあ中電のパフォーマンスよ。本気で作業する気はないよ。工事をしようとするフリをしてこっちが文句を言うところをビデオに撮って、『妨害されてま〜す』いうて国とかに言うんじゃろうじゃ(笑)。それかまた裁判でわしらを訴えるんかねえ(笑)。何が妨害かね。わしらはつい立っちょって「やめなさい」「させません」ってゆうちょるだけじゃあ、ねえ」とのことです。 


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