2011年03月04日21時56分掲載  無料記事
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中東

去れ、カダフィよ、去れ!――NATOの介入を招くな! チャンドラ・ムザファ  翻訳:武藤一羊

  世界的に著名なイスラムの思想家で人権活動家であるチャンドラ・ムザファ氏(マレーシア)は次のように述べる。「もし、カダフィが国連安保理の決議や友人からの忠告にもかかわらず、権力から去るのを拒否するとすれば、他にどのような選択があるだろうか。ジョン・マケイン、ジョセフ・リーバーマン、ポール・ウォルフォウイッツのようなアメリカの政治家は、NATOによる直接の軍事介入を唱えている。それは危険であると同時に馬鹿げた行為であろう。米国やヨーロッパが軍事行動を起こせば、西洋植民地主義とリビアにたいする新植民地主義の苦痛に満ちた記憶がよみがえるであろう。それはカダフィの立場を強め、反カダフィ闘争の正統性を掘り崩すだろう」。ピープルズ・プラン研究所のウェブサイトに掲載された彼の警告を紹介する。訳は武藤一羊さん。(PP研ニュース) 
 
  ムアンマル・カダフィが権力を去るよう強制するには何が必要か。 
 
  これを書き留めている2月28日、テレビは、カダフィが640万の民をもつこの国のあらゆる世代の人々への支配権を失ったと伝えている。41年におよぶ彼の統治に反対する民衆蜂起は、リビア第2の都市ベンガジから、彼の最後の砦である首都トリポリの近郊まで急速に広がっている。 
 
  この変人独裁者は、民衆の意志に屈するかわりに、軍隊内部の支持者、彼の治安部隊、外国から連れてきた傭兵たち、そしてむろん彼の家族の力に頼って、権力の最後のかけらにしがみついている。この中で、すでに、多数の軍人、行政府の役人、閣僚、外交官たちが、寝返って、抗議者の側についていることの意味は大きい。多数の抗議者たちはいまや完全武装しているが、それは軍人のカダフィからの背反に助けられたところが多い。その結果、リビア各地で、親カダフィ勢力と反カダフィ勢力の間に血なまぐさい戦闘が繰り広げられている。すでにどう見ても内戦となったこの状況のなかで、少なくとも2000人が命を落としていると国連は見積もっている。 
 
  国連安保理事会は、カダフィとその側近にたいし海外渡航禁止と資産についての制裁を科することを満場一致で決めた。安保理はまたリビアへの武器禁輸を決め、リビアの支配エリートを民間人殺害の罪で、調査と訴追のため国際刑事裁判所に付託することを決定した。こうした動きは、当然ながら、カダフィと彼の仲間に対するものであり、一般民衆を害するものではない。 
 
  これらの措置が効果を上げない場合、これまでカダフィとの親交で知られる国家元首および元国家元首は、自国民の殺りくを止め、辞職するようカダフィに説得を試みなければならない。例えば、ヴェネズエラのウーゴ・チャベス大統領、トルコのレジェップ・エルドアン首相、イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ首相、イギリスのトニー・ブレア前首相などである。 
 
  カダフィには、もしただちに民衆の願いに耳を傾ければ、民衆は、治世の最初の20年間における彼の並々ならぬいくつかの成果によって、民衆は彼を記憶し続けるだろうと請け合ってやる必要があるかもしれない。彼の成果とは、1970年に在リビアの巨大米軍基地を閉鎖させたこと、石油資源の国有化、石油輸出国機構(OPEC)を改組して、石油産業への西側の支配に挑戦する強力なカルテルに作り直す上で彼が中心的な役割を果たしたこと、砂漠を灌漑するため巨大な人口の河を造成したこと、低所得者向けの住宅建設などインフラ整備を推進したことなどであろう。 
 
  だがカダフィは、最初から、極端な個人中心で専制的な手法で権力を行使してきた。分権化とか草の根の革命委員会や人民会議の創設などの謳い文句にもかかわらずである。彼自身が権力と同義だった。彼の独裁的支配の下では、自身の権威を有する組織された国家機構というものは一切出現することはできなかった。彼があるとき、リビアは国家が消滅した唯一の国だと自慢したのは、恐らくそれはこのことだったのだ! その結果の一つが、社会のいろいろなレベルに蔓延した無秩序と混乱だった。その一端を私は、1980年4月、トリポリを訪れたとき経験した。講演のため招待されたのだが、講演会はついに開かれなかったのだ。 
 
  個人中心の専制的支配は、大規模な腐敗と縁故主義を生み出した。リビアのあの巨大な石油の富、そして説明責任や透明性という考え自身が欠如している状態を考えれば、なぜ腐敗と縁故主義という双子の悪が栄えたのかは自明である。1990年代の後半になると、カダフィ一家は権力の渦に首まではまりこんでいて、すべての大きい国内、国際の商取引にはカダフィの息子か娘の承認が必須というところまできていたのである。一家のビジネス利権を守るというのが、カダフィが権力にしがみついている理由の一つかもしれない。 
 
  この状況から、冒頭に出した質問に戻ることになる。もし、カダフィが国連安保理の決議や友人からの忠告にもかかわらず、権力から去るのを拒否するとすれば、他にどのような選択があるだろうか。ジョン・マケイン、ジョセフ・リーバーマン、ポール・ウォルフォウイッツのようなアメリカの政治家は、NATOによる直接の軍事介入を唱えている。それは危険であると同時に馬鹿げた行為であろう。米国やヨーロッパが軍事行動を起こせば、西洋植民地主義とリビアにたいする新植民地主義の苦痛に満ちた記憶がよみがえるであろう。それはカダフィの立場を強め、反カダフィ闘争の正統性を掘り崩すだろう。NATOの軍事介入は不可避的にリビアの占領に導き、それは、まだ地域の各所で展開しつつあるアラブの民衆蜂起に破局的影響をもたらすだろう。 
 
  さらに、この地域の民衆はそのような介入の剥き出しの偽善性を見抜くだろう。もし人命を守ることがほんとうに米欧の関心事なら、2009年1月、イスラエル軍が無防備な民衆を殺りくしていたとき、西側のただの一国も、ガザのパレスチナ人を救うため指一本あげなかったのはなぜなのか。アメリカとイギリスが市民の殺害にそれほど心を痛めているなら、彼らはなぜ2003年にイラクを侵略したのか。この侵略は数十万の罪もないイラク人の虐殺に導いたのだ。 
 
  明白なのは、マッケイン、リーバーマン、ウォルフォウィッツなどが救おうとしているのはリビア人の生命などではないことだ。軍事行動が考慮されているとすれば、それは主として、リビアの石油への西側の権力センターの執心のせいなのだ。リビアは、サウジアラビアに次ぐヨーロッパへの第二の石油供給国である。今回の動乱によって、原油価格は1バレル108ドルまで高騰した。アナリストによれば、リビアの石油供給が停止すれば、価格は200ドルになるかもしれないという。それは、西側工業化諸国、その他の国の経済に深刻な影響を及ぼすだろう。 
 
 さらに、他の主要産油国に比べて、リビアの石油資源は60%しか利用されてないとも言われている。この事実は、グローバルな覇権を永続させるためにグローバルに石油を支配したい勢力にとって、リビアの魅力を高めるのである。 
 
  これが、カダフィが即時辞任すべきもう一つの強力な理由である。すなわち彼自身の国の主権を守るために辞任すべきなのである。自分の頑固さのために、心ならずも、新植民地主義の極悪な侵略者に扉を開いてしまうのは、皮肉なことである。そうなれば、リビアとアラブの民衆、そしてアラブの自由と独立を大事にするすべての人々は、カダフィを決して許さないだろう。 
 
[翻訳:武藤一羊] 
 
※チャンドラ・ムザファ(Dr. Chandra Muzaffar)はイスラムの立場から精力的に発言、活動する世界的に著名なマレーシアの人権活動家で、「正義のある世界のための国際運動」(International Movement for a Just World=JUST)の代表、マレーシア科学大学教授。この記事はJUST Commentaryとして3月1日に配信された。原題は、"Quit Gaddafi Quit!"だが、NATOの軍事介入の危険に即して書かれているので、翻訳では表記のように補足した。原文はJUSTのウェブサイトで読むことができる。【編集部】 
 
ピープルズ・プラン研究所ウェブサイトは以下です。 
http://www.peoples-plan.org/jp/ 


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